世界の終わり | love tablet -ノート-

世界の終わり

今日も鐘の音が聞こえる。
真っ白な壁と赤い屋根。
煙突みたいに突き出た正方形で、四方が抜けてるそこに金色に輝く鐘が垂直についている。


いい天気、お日様は雲ひとつない空で地上にあふれんばかりの光を注いでいる。
一日の始まりの朝だ。
この町にある、食堂の看板娘であるシロは大きく伸びをすると、運びかけの野菜が沢山積まれた籠を再び持ち上げ水場に向かった。
今から野菜を洗うのである。
流れてる川の一部をせき止め、桶に水をため、野菜をどんどん入れて洗っていく。
綺麗になっていく野菜たち、
そんな作業の傍らで、シロは考える。
考えてもどうしようもないことを。


人はなぜ生まれ、なぜ死んでいくのか。
理不尽にも勝手にこの箱庭に落されて、
気まぐれに消えていく人間たち
そこになんの意味があるのだろう
神様はなにをしたくて、こんなことをするのだろうと。
ただ、自分の庭に生き物を住まわせ、その営みを見て、楽しむ、
そんな娯楽なのだろうか。


そんな、どうしようもない事を考えていたら、野菜をいつの間にか洗い終わってしまった。
再び、籠に戻して台所に向かった。


「シロちゃん、チキンシチュー、パンはライ麦パンで2人分、お願いね」
「はーい。」
「あ、それと、ビールも!!」
「俺も俺も」
「一杯で終わりですからねぇ」
シロは笑顔で答える。
お昼時、シロの働く店は賑わう。
肉体労働が主な筋肉質のがっちりした中年のおじさん達、みんな頭にはタオルを巻き、ズボンに白いタンクトップという出で立ちだ。
彼らは酒を飲みながら仕事をする。
「えー、一杯じゃ飲んだうちにはいらないよー」
「そうだそうだー」
「客だぞーのませろー」
おじさんたちば笑いながら文句を言う。
「いっぱい飲ませたら、私が親方に怒られちゃいます、そしてその後は・・・」
ジョッキをお盆に載せ、人数分置きながらいう。
『お前ら、仕事をなんだと思ってる!!少しの酒は仕事を効率よくこなすのに有効だ、代々我らはー』
シロは親方の口調を真似、多少声を低く出して、言った。
「親方の長話はもう沢山」
それを遮るように、おじさんが言う、大げさに耳を塞ぎながら。
「うん、贅沢はいわねぇ、一杯で十分です」
大きく肩を落としながらもう一人のおじさんも言った。
その一部始終を見ていた他の客が笑いだす。
「シロちゃん、日に日に親方の真似がうまくなってるよー」
「そうですか?ありがとうございます」
この店ではいつもの光景で、一つの冗談みたいなものだ。
「シロー、シチュー出来たぞー」
「はーい」
料理長がシロを呼ぶ、あたりにシチューのいいにおいが広がった。
笑顔の絶えない食堂、それがシロの働く食堂だ。


あれだけ、あふれんばかりの光を注いでいた太陽も、沈みかけ、
なんとも物悲しい、淡い闇のベールが町を覆う。
鐘がある建物の白い壁も、ベールをまとって、紫に染まっている。
鐘は、静止している、音はならないはずだ。

しかし、町の鐘は鳴る。
シロの耳には聞こえる、鐘の音が、そして、他のみんなにもこの音は聞こえているだろう。
誰も表立って口にはださないが。
それは日に日に大きくなっていた。
ごーん、ごーんと鐘が鳴る。


これは、世界の終わる音。
今日は、暗くなりはじめてから、ずっと鐘が鳴っている。
世界が終わる、そんな日でさえ、いつもと変わらぬ一日なのだ。
起きて、ご飯を食べて、仕事をして、馬鹿なやり取りをして、笑って。
仕事が終わりほっと一息ついて、こうやって、空を眺める。
だんだんと近くなる鐘の音。
いまでは、耳のすぐそばで聞こえてる。
シロは目を閉じた。
鐘の音だけが聞こえる、暗闇、そして、小さな眩い光。


"終焉の先に再生が、もしかしたら待っているのかも知れない"




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思い描いてたものから少し外れてしまった。

やっぱり難しい。

書きたかったのは、黄昏時のあの光を見てたら、世界が終わる気がして、

でも世界が終わったとしても、その日もいつもと変わらない一日を過ごしてたなと。

もうちょっとふわふわした話なんですけど、表現するのは難しいです。