森の眠り姫 | love tablet -ノート-

森の眠り姫

いつになったら迎えに来てくれるの?
私だけの王子様
まどろみの中で見るあなたは逆光でいつも顔が見えない
「まっててね、いつか」
もう何年も聴き続けてるその言葉。

ねぇ、いつ―?


小さな鳥のさえずり
そんなもので今日は目が覚めた。
ああ、朝だ。
半分寝ぼけた頭で当り前の事を考える。
時計を見ると起床予定時間の10分前。
ベットから降りた、目覚めはよくない。
昔からよく見る夢、王子様が必ずいう言葉。
馬鹿げた夢を見てると自分でもわかってる。
私は社会人で、会社に行き、楽しくないわけではないが、手放しで楽しいとは言えない―それが仕事なんだが、
とにかく仕事をして、それもほとんど毎日残業してくたびれて帰ってくる。
現実はこうだ。
夢の中で綺麗なドレスを着て、笑ってる私は、私が作り出した妄想でしかない。


手早く朝食を済ませ身支度をして家を出る。
今日はいつもより5分早いせいか、いつもよりも朝がすがすがしく感じる。
大きく深呼吸をして、心の中でよしと気合いを入れた。


「今日のプレゼン大丈夫?」
「大丈夫です、いつものUSBにデータは入れてありますし、配布する資料も印刷はすんでいます」
朝、自販機の前でコーヒーを買うと、上司に声をかけられた。
内容は今日のプレゼンに対する事で、準備はぬかりなく済ませておいたのでつらつらと言葉は出た。
上司にはよく気にかけてもらっている、ありがたいことだ。
「そっか、がんばってな、お客さんも君には期待してるからさ」
「そう、なんですか?でも期待されてるなら裏切らないようがんばります」
私は笑顔で答えた。
会社では笑顔を忘れないようにしている。別に愛想を振りまいてるとかそういうつもりではなく。
同じ顔なら笑顔のほうが見ていていい気持ちになるだろうという、持論だ。
その後は部屋まで上司とたわいのない話をした。
こないだ行ったラーメン屋さんでのできごととか、そういったとりとめのないこと。
その後のプレゼンも滞りなく終わり、今日は定時であがった。


久しぶりだなー定時なんて、何しようかな、そんなことを思いながら帰路についた。
誰かとごはんにでも行こうかと思ったけど、仲のいい同期はあいにく明日プレゼンらしく、今日は遅くなりそうだったのから、なんとなく本屋に寄った。
なんか時間があると本屋に寄ってしまう。
最近は時間がないから読むのは小説よりも漫画が主流になってきてしまったが、昔は本が大好きで読んでいた。
今日は時間があるから、小説を1冊買って帰ろう。
でも、あまり重くなく、軽いものがいい。
こういうときくらい、しがらみにとらわれない、自由な物語を読みたい。


1冊の本を手に取った。

「森の眠り姫」
ぺらぺらとめくると童話のようだった。
今朝の夢が頭をよぎる。
ああー馬鹿らしい。

ぱたん。
本は閉じられ戻された。


鍵をあけ、家に入る。
ただいま、は言わない。誰もいないから。
そろそろ恋人とかほしいと、家に帰る度に思う。
こんな寂しい独りの部屋に戻るのはいやだ。

晩御飯は、外で済ませてきた。
一人牛丼だ。牛丼屋さんはなぜかひとりでもすんなり入っていける。
ひとりで食べてるお客さんも多いからかな。

「はぁー」

溜息をついて、会社に行く時にいつも持っている鞄を床に放る。
そして残された腕には、一つの紙包み。
本屋さんで買った本だ。
お風呂に入ってゆっくり読もう。
お風呂の支度をしに、お風呂場に向かった。



ねむりひめは ねむって います。
でも ねむりひめは さいしょからねむっていたわけでは ありません
これは ねむりひめが ねむるまでの ものがたり


綺麗なタッチの絵と幼稚な言葉で綴られる物語。
結局あの本を買ってしまった。


ねむりひめは おてんばでした 
ええ いまのすがたをみて そうだとはおもえないかもしれませんが おてんばだったのです
ねむりひめのおてんばぶりには いちばん おせわかかりのばあやがてをやいていました


眠り姫のお転婆なエピソードが続く。
王様の杖を、振り回して折ってしまったエピソードや婚約者として連れてこられた少年に蛇をプレゼントして泣かせる話。
なかなか姫らしくないエピソードだ。


ねむりひめも おおきくなりうつくしいむすめにせいちょうしました
そして りんこくのおうじと こいにおちたのです。


王子との出会いは舞踏会
ではなく、舞踏会を抜け出して、眠り姫が下町の酒場で、酒豪たちと飲み比べをしてるとこをたまたま目撃してた王子
そこで豪快な娘がいると、目にとめていたらしい。
お転婆な姫は大人になって美しくなってもお転婆だったらしい。
その後、酒に酔ったお客に、女の人が絡まれているところを眠り姫が助け、その事を逆恨みした酔った客が城に帰る途中の姫を大人数で囲った。その場を助けたのが王子という、やや、ややこしい出会いだ。
この手の童話にしては珍しい。というか、しゅごうって小さな子に意味が通じるのだろうか。


おうじとひめはふかくあいしあいました。
おうさまもおきさきさまも ふたりをしゅくふくし ふたりはしあわせでした
でも それをよくおもわないひとが ひとり
まじょ です


魔女は王子が好きだったらしい、そこへ、お転婆な娘が横から王子をかっさらった
ありがちだけどそれに逆恨みしたのだ魔女は。


まじょは ねむりひめにのろいを かけました
ねむりつづける のろい
おうじさまは かなしみました
おうさまと、おきさきさまは ねむりりひめのまわりを はなでかこいました
そして くにのまほうつかいに たのみ ねむりひめがだいすきなもりに ひめをねかせました
まほうつかいのまほうで ひめのまわりは いつもあかるく ここちよいので どうぶつたちがあつまりだしました
おうじさまは まいにち ねむりひめにあいにきました 
ねむりひめのまわりは いつも にぎやかです
これが ねむりひめが ねむるまでの ものがたり


森の中に眠る姫と、寄り添う王子
そして、もりの様々な動物たちのかかれたイラスト
そのページをめくると
白いなにも書かれていないページ
次も、次もずっと空白のページが続く。

不良品かな私はそう思い、明日本屋に行って取り替えてもらわなきゃと、眠かったしちょうどベットで本を読んでいたのでそのまま眠りについた。


明るくやわらかな日差し
緑色の淡いひかりに包まれる
ああ、あの夢だ。
王子が傍らで微笑んでいる
「まっててね、いつか」
いつか迎えに来てくれるんでしょう?
でもいつっていつ?
もうずっと何年もこの夢をみているのに
「必ず、君を起こして見せるから」

どういう、こと?
起こすってなんだろう、私はこの夢からさめれば起きる・・・そしていつもの毎日、会社に行くのだ。
夢?夢から―覚めれば
まどろみの中から次第に覚醒していく
私は姫で、でもそれは夢で、
でも、もし、社会人の私が夢だったら?
私、眠り姫が、見続けてる、夢

胡蝶の夢だ。
その時、唇になにかが触れる
あ・・・・・


小鳥のさえずり、様々な種類の鳥の鳴き声が重なって、音楽のように響く。
あたりは柔らかな風が吹き、髪を揺らす、
緑色の木々が揺れて、心地よい音を奏で、
甘いような、懐かしいいい香りが鼻をくすぐった。

目の前は暗い
でもそれは、背中にあたるたくましい腕の感触で、抱きしめられているからだとわかった。

「王子」
しばらくしゃべっていない割に、すんなりと声はでた。
王子の腕は、移動して肩をつかまれ、あらわれたのは
泣きそうな王子の顔。
金色の髪が太陽に透けて綺麗。
ああ、そういえば一回この金にかがやく髪が、飴のようで嘗めてみたら王子に変な顔をされたっけ。
自然と笑みがこぼれる。
王子はより泣きそうになって、
乱暴ともとれるほど強い力で抱かれた。
「ただいま」
「何年も、待ってたよ、君が目覚めるのを」
待ってたのは私ではなく王子のほうだったのだ。
私が目覚めるのをずっと待ってた。
王子が私を迎えにくるのではない
本当の筋書きは、私が王子を迎えにいくものだった
「うん、知ってる」
「おかえり、俺の姫」
目を閉じた。
あたりに響く音たちは、祝いの調べに聞こえた。
唇にはあたたかい感触、さっきの口付けよりも強かった。



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すごく久しぶりに小説なんて書いてみた。

短くまとめようと頑張ったらちょっといろいろ足りなくなった。

難しい。

今日読んだ少女マンガの所為だと思われます。