春秋(10/23)

 昨年の交通事故死亡者は? 警察庁は6871人と言い、厚生労働省は4割多い9970人と答える。前者が24時間内の死亡に限るため生じる差は年々開く。医療の進歩は喜ばしいが過去10年で4割減と誇る警察の言は素直に頷(うなず)きにくい感が残る。

▼いじめ自殺が7年間ゼロという文部科学省の統計も釈然としない。マイナス情報ほど曖昧(あいまい)なままでも迅速に共有するのはリスク管理の基本のはず。減らすべきはいじめか、いじめの数字か。今後、各地の担当者は多すぎず少なすぎず、横並びの数字作りに神経を注ぐのだろうか。そんなことはないと思いたいが。

▼「だから大本営発表は」では済まない。ある民間シンクタンクが算出した各種経済効果の総計はその年の経済成長分を大幅に上回った(門倉貴史『統計数字を疑う』)。受けのいいプラス面は水増ししマイナス効果は発表しないからと元地銀系研究所員の著者。エコノミストも人間だもの、と温かく見守るべきか。

▼数字と実態や実感との乖離(かいり)は数字自身への不信を招く。広く情報をつかさどる立場の為政者や専門家はもっと真摯(しんし)に数字に向き合ってほしい。数字が当てにされない社会は近代社会とは呼べまい。数字はウソをつかないがウソつきは数字を使う。そんな俗諺(ぞくげん)が説得力を持つようではまずい。


http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20061022MS3M2200122102006.html