人生最大の55キロとなり、
顔はパンパンのデブとなった私。



そんな私にも
初めての彼が出来た。



超進学校に通うイケメンTくん。




その高校に通う友人に
誘われて行った学祭で知り合った。



一目惚れだった。



一言も話せず
もじもじしてる私を

何故か彼も気に入ってくれて、
お付き合いすることとなった。



人生初めての彼氏だ。



あまりに好き過ぎて、

彼の前では
いつまでたっても満足に話せなかった。



高3で18才になった彼は
すぐに車の免許を取得した。


運転をしたくて堪らない彼は、
いつも校門まで迎えに来てくれた。



そして、
車での初めての遠出は
忘れもしない、鎌倉だった。



実は、
その頃の私は
車酔いが酷かった。



息苦しくなり
目眩がして、
最後は吐いてしまう。


これまでの貧血症状に
似ていた。


電車ですら酔っていたから
車はさらに酷かった。



車中のことは
あまり覚えてない。


吐き気を必死で堪えるので
精一杯だったから。



Tくんは、いつも車内で
大好きなBOØWYをかけていた。




そしていつも歌っていた。



私も一緒に
歌いたかった。



私だって
BOØWYは死ぬほど好きだったから。




だけど、
とにかく気分が悪くて
それどころじゃなかった。



“ノリが悪いな~”

と思われてないか
別の不安にも襲われた。




だから
必死で笑顔を作り
ノリノリの振りをした。



苦しかった。



ようやく鎌倉に着いた時は
ホッとした。


でも何をしたか、どこへ行ったか
記憶がごっそり抜け落ちてる。




夕方に最後に行った
由比ヶ浜を除いては。 




ずっと清い交際だった私達は、
海辺で初めて手を繋いだ。



そして初めてのキス。




夢のようだった。




でも
帰りの車中では
また地獄が待っていた。



まさか
初キスをした後で、
吐く訳にはいかない。



意識が飛びそうになりながら
必死で耐えた。



今でもまるで
昨日のことのように覚えてるのだから

本当に辛かったのだろう。



でも
帰りはBOØWYではなく、

なぜか
ホイットニーヒューストンのバラードが
しっとりと流れていた。



ホッとした。



もうノリノリの振りを
しなくてもいいから。




吐き気を堪えながら、
ウットリと余韻に浸る振りをした。