(引き続きドイツの人類学者クリスチャン・ラッチ博士へのインタビューを)

Sonia:  彼らの呪文も学ばれましたか?

Christian: ああ、彼らは僕にいろんな呪文を教えてくれた。
ある時僕が畑仕事を手伝っているときに、マシェティ(鎌)で足を切って大けがをしたんだ。傷口が開いてすごく出血していた。ふつうだったら、病院に運ばれなければならない状態だった。消毒や包帯もなかった。すると長老がかけつけてきてくれた。そしてこういうんだ。

「そのマシェティで、傷を負ったときと同じ動作をリピートするんだ」

『そんなバカな』と内心思ったが、僕は言われた通りにやってみた。長老はそのとき僕がわからない言葉の呪文を唱えたんだ。そしてその呪文を僕に教えてくれ て、三回同じことを繰り返すようにといった。いわれるとおりに従うと、血が止まったんだ。凄いことには、その傷が思ったより早く治ったんだよ。実に魔法 だった。あの時から長老は、ほかの呪文も僕に少しずつ教えてくれるようになったんだ。

トウモロコシが速く育つ呪文
狩りで獣に出会う呪文
女が自分に恋する呪文 などなど

S: 最後のそれいいですね。ドイツに戻られてからその呪文を試されましたか?
ラカンドン族の女性に限らず、西洋人の女性に対しても効果はあるのでしょうか?

C: ああ、あるよ(笑)



彼らの言葉で「世界」は「森」という



(1992年にカリフォルニア大学バークレー校にて、クリスチャン・ラッチ博士が行なった講演から)


世界の終焉

ラカンドンの言語で「世界」は、‘K’ax’といい、森という意味である。ラカンドンの世界では、日常生活で必要なものはすべて森から与えられるからであ る。彼らの生活はすべて森に頼っている。彼らは森と自分たちの相互関係をしっかり把握しているので、森を破壊から守るためにはできるだけのことをする人々 である。森に対する尊敬がある。

森の草木は、ラカンドンたちにとって暦と同じである。たとえばトウモロコシを植える時期も草花から彼らは知ることができる。特定の時期に咲く花を基準に彼らは種まきをする。彼らの行事のすべてが森の環境を尺度に決められている。

森の大木には、人間と同じ姿をした霊が宿っていると考えられていて、木がまだ生きているのなら、その木の霊体は、逆さになって木の幹に存在しているとされ ている。木の精霊の腕は根の方向に伸びていて、足は枝に向かって生えていると彼らは言う。もし木を伐採すれば、木の精霊は幹を抜けて、天に向かって旅し始 める。天に辿り着いた木の精霊は人間の姿をしていても、喉は突き抜けていて血だらけの姿をしていると彼らは信じている。

『もし‘Hachakyum’(天の意識である我らの真の主)が、血まみれの精霊を多く見てしまったのなら主は怒り、必要以上に木を切る人間を罰せられるだろう。‘Hachakyum’の怒りをかうと、災害を天罰として人間に下すだろう。』

このような言い伝えからラカンドン族は、家や丸木舟を造るといった生活目的以外には、木を伐採することはない。

20世紀初頭からラカンドンの森には、マホガニーの木の採集目的で、材木会社が入って伐採が始まった。彼らは原住民ではないので、ジャングルの知識もな かった。牧畜をやってきたカウボーイたちだった。今日ラカンドン族の住む熱帯雨林の森の三分の二が破壊され、本来の環境は損なわれてしまった。

森の中で平和に暮らしてきたラカンドン族は、ただ世界が終わる日が訪れる日を無力に待っているのみである。彼らの聖なる家である‘Yaxchilan’に は、古代から伝わる予言が石に彫ってある。そしてその予言は、真の主の息子である ‘Akinchob’が記録して残したという言い伝えがある。



ラカンドン族の予言


「世界の終焉は訪れる。ずっとそう語られてきた。木がすべて消えた時に終わりは来る。すべての木が伐採されて森が消え、そこら中が人間でいっぱいになる時 が訪れる。マホガニーの木も伐り倒されて、森の樹木が全部消えると世界の終りが近づいてくる。嵐がやってきて終わるのか、太陽がすべてを焼き尽くすのか、 寒さが襲ってくるのか、それはわからない。世界の終わりは意外と速く訪れる。夜明けから太陽の光が木のてっぺんに差し掛かるのと同じくらい速く訪れる。我 らの真の主である‘Hachakyum’が、我らの血を集めて、彼の‘Yaxchilan’(主の家;宇宙の中心)に我らを皆集めるだろう。」











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