橄欖山 ~ ベートーヴェンとドイツワイン | Die Ruine der Walhalla

Die Ruine der Walhalla

In dieser Ruine findet man nichts.

ベートーヴェンが安物のワインを飲んでいて、自宅で飲まされたオペラ歌手が腹を壊したという話もあるらしいが、今回はその話ではない。


最近ドイツワインを愛好する人がめっきり減ってしまったが、昭和時代にワインを飲まれていた方は、ニアシュタイナー・エルベルクというワインをご存知かもしれない。


Niesteiner Oelberg

ドイツワインの主要な産地の一つ、ラインヘッセンのニアシュタイン村にある有名な畑の名前である。ドイツ語が少し分かる方なら、エル=油(英語のオイルと同じ)、ベルク=山、つまり「油の山」ってなんじゃらほい?となるであろう。実際、ワインの教科書のようなものに、油の山と訳語?が示されていたりする。実は、この油というのはオリーヴオイルのことで、つまりオリーブ畑が広がった山ということである。


ドイツにオリーヴなんか植えてあるはずがない。実はこのオリーヴ山、聖書に出て来るイェルサレムの山(といっても、小さな丘みたいなものだが)のことである。最近の聖書には「オリーブ山」と書いてあるらしいが、昔は橄欖山(かんらんざん)と呼ばれていた。


橄欖山、オリーヴ山、キリスト、ベートーヴェン……もうお分かりであろう。ベートーヴェンの名作、オラトリオ、「橄欖山上のキリスト」である。最近は「オリーヴ山のキリスト」などと訳されていることも多い。


Christus am Oelberge

ドイツ語をご存じない方は綴りが違うじゃないかとおっしゃるかも知れないが、Oの上に点々が付いている活字がないときは、Oeと書く約束である。また、語尾にeが付いているのは文語的な格変化である。つまり、ニアシュタイナー・エルベルクのエルベルクは、キリストが捕らえられる前にいた、イェルサレムの街外れの丘の名前だったのである。なだらかな斜面にブドウ畑が広がる風景が、イェルサレムのオリーヴ畑を連想させたのであろうか。私は今まで何故かこのことを知っているソムリエやワイン関係者に会ったことがない。(笑)


さあ、ニアシュタイナー・エルベルクを飲みながらオラトリオを聴こう…、あ、最近このワイン売ってる店が殆どないぞ…あせる


ちなみにこのオラトリオも滅多に演奏されることはない。第九のついでに演奏してもいいし(第九からアルト独唱と管・打楽器数人を抜いただけで演奏できる)、クリスマスシーズンには第九の代わりに演奏してもいいと思うのだが、なぜか取り上げられない。そもそもみんなこの曲の存在すら知らないのは何故だろう?