注意
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蒼い空、遠いかなた with 中西京介②
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《ダーリンは芸能人》妄想2次小説短編vol.40
満開の桜の木の下で佇むその人は―――かなたお兄ちゃんだった。
達城かなた―――3つ上の幼馴染で、実家のはす向かいに住んでいた。
でも私が中学生になった頃、突然お兄ちゃん一家は遠い国へ行ってしまった。
きちんとしたお別れが出来なくて、また、かなたお兄ちゃんに恋心を抱いていた私は、しばらくの間泣き暮らしたものだ。
「かなたお兄ちゃん…!」
赤の他人であるかもしれないのにその人がかなたお兄ちゃんであることを疑わず、思わず名前を呼んだ私に驚きの顔を向けたのはやっぱりそうだった。
居なくなったときはお兄ちゃんは高校生で。
でも今は大人の顔で、それでもそこにいたのはお兄ちゃんだった。
「……海尋ちゃん?」
弾かれるようにして私は駆けだす。
その瞬間、京介くんと繋いでいた手は離れ……。
「!! 海尋…っ」
京介くんの声が耳に入らなかった。
もう何年も会うことも、声を聞くことさえも出来なかったお兄ちゃんがそこにいる―――そう思うと何も考えられずに彼に向かって走り出したのだ。
「わぁ…海尋ちゃんだぁ」
そう言ってかなたお兄ちゃんは駆け寄った私をギュッと抱きしめる。
まるで小さな子どもを抱きしめるみたいに。
「!!」
「懐かしいなぁ、元気にしてた?」
「お、お兄ちゃん……」
「あっ……ゴメンゴメン、懐かしくってつい、ね」
照れくさそうに笑ってお兄ちゃんはパッと私を離した。
その瞬間、いつの間にか追いついてきた京介くんが私の腕を引っ張ってその背中に隠す。
感動の再会に一瞬だけ京介くんのことを忘れていた私は、慌てて彼に言った。
「きょ、京介くん、この人は近所に住んでた幼馴染のお兄ちゃんなの!」
「……」
彼の背中に隠された私は京介くんのその表情を窺うことが出来ない。
だけど彼の全身から怒りモードのオーラが漂っているのがわかる。
京介くんを怒らせたコトに反省しつつも、その怒りの矛先がかなたお兄ちゃんに向いてるコトに私は焦るばかりで。
そんな心配をする私をよそに、かなたお兄ちゃんは怒ったふうでもなく、ごくごく普通の挨拶をした。
「海尋ちゃんの彼氏?
……はじめまして、達城かなたです」
と。
かなたお兄ちゃんの穏やかな声音。
その表情は見えないものの、きっと昔と変わらないふんわりとした笑顔であるに違いない。
それに毒気を抜かれたのか、京介くんに漂う怒りのオーラが少し和らいだ気がした。
「……中西京介です」
「中西くんかぁ。 よろしくね」
彼の憮然とした態度にもかかわらず、かなたお兄ちゃんはやっぱり優しい声音でそう言った。
そのとき、ある疑問が湧く。
(あれ…? お兄ちゃん、京介くんのこと知らない…?)
京介くんたちWaveは、現在トップ・アイドルと称されるだけあってTVで見ない日はない。
変装用のメガネさえしていないこの姿であるにもかかわらず気がつかないなんて、お兄ちゃんがよほど目が悪いのか、はたまたTVを観てなくて本当に知らないのか。
そんなコトを思ってる間に、お兄ちゃんは京介くんの背中に隠された私を覗き込むようにして、子どものような人懐こい笑顔を浮かべながら聞いてきた。
「海尋ちゃん、まぁくんは元気?」
「あっ、うん。 元気だよ」
「そっかぁ。
ここにいたらまぁくんにも会えるかな?」
懐かしむようにしてそう言うかなたお兄ちゃん。
お兄ちゃん一家がお引越しをした時はまぁくんはまだ幼稚園くらいだったからわかんないかもしれない。
そう思った私は、
「お兄ちゃん、ウチにおいでよ」
と咄嗟に言ってしまった。
が、お兄ちゃんは戸惑ったような笑顔を浮かべながら、
「でも、さ……」
と、ちらりと京介くんを見てそう言う。
どうやら、京介くんの態度から躊躇ってる様子。
それがわかって、どうしようかと考えあぐねていたら、京介くんは私の手を引いて元来た道を引き返し始めた。
「京介くん……?」
「実家に連れていくんでしょ? 時間ないから行くよ?」
「あっ、うん…!
かなたお兄ちゃん、行こ!」
お兄ちゃんは一瞬ためらったものの、結果的に私たちのあとを歩きはじめた。
駐車場に向かうほんの少しの間も、京介くんは繋いだ私の手をギュッと握って離さない。
小さい頃のことを知っているお兄ちゃんの前で恥ずかしいと思っていると、お兄ちゃんはまた優しい声音で言った。
「中西くんはホントに海尋ちゃんのコト好きなんだねぇ」
からかうようなその言葉に京介くんは耳を真っ赤にさせる。
「……―――った」
「え…?」
お兄ちゃんがぼそりと呟いた言葉は風に流されてしまい、私たちには聞こえなかった。
「なぁに?」
「なんでもないよ」
ふんわりとした、だけど寂しそうな笑顔。
酷く切なくなるような瞳。
(お兄ちゃん、なんて言ったの…? その寂しそうな笑顔は、なに…?)
私は永久的にその言葉と切ない笑顔の意味が何だったのか知ることはなかった―――。
~ to be continued ~