初めての蹉跌は母の死であった。
高校生だった私は、燈台のない闇夜に漕ぎ出す海図も羅針盤もない人生航路に、途方に暮れるしかなかった。
学校に行かず家で寝転がってラジオを聴いていると、流れてきたのが忌野清志郎さんの『トランジスタラジオ』である。
コード進行はメジャーだし、軽快なリズムに乗せてはいたが、乳離れの遅い同級生にはかわるはずのないélégie(エレジー)そのものであった。
ローリングストーンズのステージの感想として、『孤独感が消えた』と忌野清志郎さんは言ったらしい。その彼がリードボーカルだったRCサクセションこそ私の孤独感を払拭してくれた。『トランジスタラジオ』は孤独の応援歌でもあった。
私にとって最後のロックシンガーだった忌野清志郎さんは、老醜をさらすことなくロックシンガーらしく見事に散った。しかし、寂しい。