▼2014年の映画を振り返る(11月・12月編)
<11月1日公開>

エクスペンダブルズ3 ワールドミッション
老いてもなお元気なシルヴェスター・スタローンが
全世界から退役寸前のアクションスターを集めて
制作した「エクスペンダブルズ」の3作目。
「エクスペンダブルズ」の面白さは、長年通い慣れたスナックのようなもの。
常連客相手に手堅い商売をするママ(シルヴェスター・スタローン)に
見どころアリと見込まれたチーママ(ジェイソン・ステイサム)が
二人で切り盛りするバー「エクスペンダブルズ」の物語である。
本作では従来のお約束を守りつつ随所に若返りとバージョンアップが施されており、
シリーズでもNo.1の完成度になった。
古稀を過ぎたバーニー(スタローン)のロマンスもようやく省かれて
「007 スカイフォール」的な仲間割れの物語へと主題が移されたのも大正解。

美女と野獣
ディズニー版とは全くテイストの異なる原作準拠のダーク・ファンタジー。
監督は「サイレントヒル」のクリストフ・ガンズ。
ヒロインのベルには「アデル、ブルーは熱い色」のレア・セドゥ。
1946年公開のジャン・コクトー版を最新技術でリマスターしたような作りだが
「パフューム ある人殺しの物語」や「パンズ・ラビリンス」に通じる
エッセンスもふんだんに盛り込まれており、これはこれでかなり面白い。
野獣が王子へと戻るために必要な「真実の愛」が描き足りないことと
人間に戻った時の素顔がヴァンサン・カッセルでは王子様感が薄いのは惜しい。
せめてロマン・デュリスに出来なかったのだろうか。

マダム・マロリーと魔法のスパイス
「大統領の執事の涙」のオプラ・ウィンフリーとスティーヴン・スピルバーグが製作を、
「サイダーハウス・ルール」「砂漠でサーモン・フィッシング」の
ラッセ・ハルストレムが監督を務めたヒューマンドラマ。
南フランスで人気を集めるミシュラン1つ星レストランの真正面に
インドから新天地を求めてやってきた家族が突然インドレストランをオープンさせる。
最初のうちは大音量のBGMやスパイスの香りを苦々しく思うマダムだったが
家族経営の店で腕を振るう若きシェフに料理の才能があることを見抜く。
高慢な女主人を演じるヘレン・ミレンは最初こそただの嫌な女だが
厳しさと愛らしさを内包し、亡き夫の店を守るため
プロフェッショナルに徹する姿が物語に深みを与える流石の芝居。
物語の構成はハルストレム監督の名作「ショコラ」に近く
よそ者を排除しようとする田舎町のアレルギーを
美味しい料理が優しく溶かしていく流れ。
多くの日本にとってのミシュランはモンドセレクションの上位版程度の認識だろうが
フランスでは星の数がその店の全てを左右するのだということが良く分かる。
<11月8日公開>

トワイライト ささらさや
落語家の物語にしてはオチが弱い。
<11月14日公開>

6才のボクが、大人になるまで。
オーディションで選ばれた少年エラー・コルトレーンが
6才から18才になるまでの12年間、毎年少しずつ映像を撮り溜めて完成させた
気が遠くなるほど手間ひまをかけた家族ドラマ。
監督は「スクール・オブ・ロック」のリチャード・リンクレイター。
父親役のイーサン・ホークはリンクレイターと「ビフォア」シリーズでも組んでおり
どちらも10年単位の時間がかけられている。
撮影の過程で誰かひとりでも欠ければフイになってしまう
極めてリスクの高いプロジェクトを完走したメンバー全員の
チームワークがあってこその作品。
映画を観て私が真っ先に思い出したのが、
息子の写真を21年間撮り続けてきた56才の男性が
約7,500枚にも上るアルバムからピックアップしYouTubeに投稿した上の動画。
映画は超高速再生により21年間をわずか6分で振り返るこの動画を
もう少し要所要所に絞ってじっくり描いたような作り。
監督によると、シナリオは大まかにしか設定しておらず
息子の趣味(写真)やハマっていること(音楽、映画など)についても
撮影時にヒアリングして取り入れていったという。
映像は全て本人なのだから、突然別人になったりしない。
2時間40分をかけ、6才の少年が本当に18才になっていく様を見ていると
「あっという間だった」とこぼす母親と観客の心がぴったりシンクロする。
同じ企画を起ち上げたところで完成にはまた12年かかるわけで、
ある意味これは一度きりの禁じ手とも言える。
来年発表になるオスカーの最有力とも言われているが、さて結果はどうだろう。

デビルズ・ノット
アメリカを震撼させた未解決事件「ウエスト・メンフィス 3」を題材にした
ノンフィクション小説を「クロエ」のアトム・エゴヤン監督が映画化したミステリー。
「たとえ10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜(むこ)を罰するなかれ」の精神が
守られていないのは万国共通なのだと痛感させられる。
「お前みたいな奴は殺っているに違いない」という決めつけから始まる捜査は、
最初から決めた結論に辿り着くためには手段を選ばない。
18年の刑期を終えて社会復帰を果たした少年達は既に三十代半ばになっていて
疑わしいだけで罰せられてしまった彼等の青春はもう取り戻せない。
事件の真相を求める会の名簿に被害者の母親までが名を連ねているのは何故なのか。
犯人を殺したいと願ってもおかしくない母親が不可解だと感じるほどの杜撰な捜査と、
結論ありきで進行する劇場化した裁判。これは一体誰を裁くためのものだったのか。
3人の無辜に有罪の判決が出るまで、演出は徹底的に冷静さを保っている。
別の誰かを名指しするでもなく、ひたすら事実だけを積み重ね
精査しようとするこの丁寧さこそが本来の捜査で求められた姿であったろうに。
コリン・ファース、リース・ウィザースプーン、デイン・デハーンら
華やかさを消すことも出来る達者なキャストも皆素晴らしい。

ショート・ターム
これが長編2作目となる期待の新鋭デスティン・ダニエル・クレットンが
虐待やネグレクトにより、親との同居が困難になった
子供達を受け入れる施設「ショート・ターム」での日常を描いたドラマ。
基本的には施設内での暮らしを数日分だけ切り取っているだけで
ドラマティックな出来事はほとんど起こらない。
女性スタッフであるグレイスが施設内の少女に自分自身の過去を投影する過程は
この手のドラマでは定番の手法だが、本作は作り事のような感動的な着地を目指さず
「みんな手こずりながら生きている」ことをさらっと描くに止めている。

神さまの言うとおり
定期的に製作されるティーン向け「ゲームにチャレンジ」系の映画。
あるある系のストーリーをあるある系の演出で撮った
二番煎じ・三番煎じの印象は否めず、旬の福士蒼汰で一本釣りを狙う
アイドル映画と捉えるのが正解。

紙の月
「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督の最新作。
映画出演は7年振りという宮沢りえの主演。
『中年の女性銀行員が若い男に入れあげて巨額の横領事件を起こす話。』
この女性週刊誌ネタにしかならなさそうな題材を使い、
社会からはみ出すことなく生きて来た女性が
丸裸の自分を見つめ直し、本能に従って生きようとする様を描いた
サスペンスに仕立て上げる仕事は吉田大八マジックの真骨頂。
原作には登場しない相川恵子(大島優子)、隅より子(小林聡美)の二人が
良いアクセントとなり、人間関係をほぼ銀行内だけに絞る大胆な改変を実行。
原作やドラマ版とは違う梅澤梨花像を作り出し
阪本順治監督の傑作「顔」の藤山直美に匹敵する悪女にしてしまった。
壁をぶち破ろうとする梨花が、頑に壁の中で生きるより子にとって
ある種の憧れを抱く存在に映るように組み立てられている。
梨花とより子は、実は深いところで繋がっている「同じ女」なのかも知れない。

天才スピヴェット
ジャン=ピエール・ジュネの新作は自身初の3D映画。
ライフ・ラーセンの小説「T・S・スピヴェット君 傑作集」をベースにした
ファンタジックなロードムービー。
天才少年のスピヴェットがたったひとりでアメリカ横断を敢行し
スミソニアン学術協会主催の授賞式に参加するまでのお話。
社会や家族などのコミュニティからはみ出してしまった人間を温かく包み込む
ジュネの演出はますます冴え渡り、絵本のようなビジュアルは
「アメリ」「ミックマック」から格段に進化している。
科学の分野では天才でも、心の内では「自分は両親に愛されていないのではないか」と
思い悩む可愛らしさを持っていて、そんな彼を旅先で出会う人々が大人へ導いてくれる。
ヘレナ・ボナム=カーターの母親が実に良い味。

Peeping Life - WE ARE THE HERO -
ユルい笑いが身上の「Peeping Life」がついに劇場用アニメに。
手塚&タツノコのキャラを起用しつつ、これまでの作品で活躍した
バカップルや腐れオタクもちゃっかり登場するあたり
ファンの心理を良く分かっていらっしゃる。
怪獣が街を襲っているのに一向に焦らない人々を見ていると
「やっぱり猫が好き」の「ブジラvs恩田三姉妹」を思い出した。
<11月21日公開>

西遊記~はじまりのはじまり~
原作者である鳥山明ですら言葉を濁すしかなかった
伝説の映画「ドラゴンボール EVOLUTION」に
製作として名を連ねていたのがチャウ・シンチーが
「EVOLUTION」の無念を晴らすべく
これでもかとアイディアを詰め込んで作ったアクション大作。
「西遊記」をモチーフにした前日憚で、
三蔵法師が孫悟空や沙悟浄、猪八戒らと天竺に旅立つまでのエピソードが描かれている。
(人は選ぶだろうが)コテコテな笑いを持つカンフー映画の楽しさと
「ドラゴンボール EVOLUTION」で実現させられなかった
飛び出すコミック的な楽しさを高次元で融合させた、
チャウ・シンチー完全復活を強く印象付ける快作。
「西遊記」と言えば夏目雅子と堺正章&ゴダイゴだろうなあなたも観るべし。

インターステラー
私とは相性の悪いクリストファー・ノーラン監督で
久々に「これは!」と思えた傑作SF映画。
ちょっと長めのアトラクション的な「ゼロ・グラビティ」が
入門編なら、こちらは中・上級者向け。
専門用語が飛び交うノーランらしい脚本ではあるが
今作では物語の主軸を父娘モノに置いており
「宇宙戦艦ヤマト」や「機動戦士ガンダム」といった
日本産アニメの影響をそこかしこに見ることが出来るので思ったほど難解ではない。
長尺(169分)を感じさせない圧巻の映像と畳み掛けるような展開は
同じく今年公開された「トランセンデンス」(ノーラン製作)の比ではなく
フィルム撮影にこだわるノーランの職人気質は、
やはり役職が「監督」でなければ発揮されないのだと確信。
マシュー・マコノヒーはますます脂が乗り、マット・ディモンもヒール役が良く似合う。
ただ女性陣のアン・ハサウェイとジェシカ・チャステインは
配役が逆でも良かったような気がしないでもない。
いずれにせよ、ここを超えるSF映画は当分出て来なさそう

想いのこし
事故で亡くなった4人の人間が生前やり残したことを
故人に代わって事故のきっかけを作った青年が叶える感動ドラマ。
いくら同じ監督とはいえ「ツナグ」と題材が似過ぎているし
本作ならではの見せ場も乏しい。
<11月28日公開>

寄生獣
2014年度の邦画興収で見事ワンツーを決めた山崎貴監督の最新作。
今回も見事に「ど真ん中」狙いの安心設計。
<12月12日公開>

ゴーン・ガール
ギリアン・フリンの同名ベストセラーを「ゾディアック」
「ソーシャル・ネットワーク」のデヴィッド・フィンチャーが映画化。
本当に近所で発生していれば井戸端会議レベルの事件を
これほどの吸引力でスクリーンに惹き付ける手腕は相当なもの。
世の女性はニック(ベン・アフレック)のだらしなさに激怒するだろうが
私はどちらかと言うとニックに同情してしまう。
つま先が震えるほどの背伸びをして、何とか手が届いた高嶺の花(エイミー)。
手に入れた瞬間は嬉しくとも、その後は永遠に身の丈以上の人生を強いられる。
疲れ果てたとき、手身近にあった小さな花が美しく映ったとして誰が責められよう。
田舎町に越してきたことで、思い描いていた理想の生活に影が挿した妻と
故郷に戻り友人や妹もいてどんどん腑抜けになる夫。
この二人の行く末は、辿り着くべくして辿り着いた当然の結果と言えよう。
ロザムンド・パイクの怪演だけでも観る価値あり。

ホビット 決戦のゆくえ
ピーター・ジャクソンの「ホビット」三部作がいよいよ完結。。
街を燃やす尽くさんばかりの迫力でスマウグが暴れ回る序盤から
シリーズを彩って来た豪華キャストが全陣営入り乱れての総力戦へとなだれ込み
完結編の名に相応しい展開が目白押し。
ガンダルフとビルボ・バギンズの友情物語と
リーダーとしての資質を身につけるトーリンの成長物語を二本柱とし
脇のキャラクターそれぞれにもしっかり見せ場を用意する周到な脚本。
戦につきものの哀しい別れも描きつつ、最後は明るい幕引きになっているのもいい。
ビリー・ボイドが歌うエンディングがまた素晴らしい。

アオハライド
「桐島」「ごちそうさん」の貯金をこの1年で食い潰した東出昌大は来年が正念場。
<12月20日公開>

バンクーバーの朝日
「舟を編む」「ぼくたちの家族」の石井裕也監督とは思えない凡作。
差別と闘った野球ドラマなら昨年公開された「42 世界を変えた男」をお薦め。

ベイマックス
サンフランシスコと東京の街並を融合した
架空の都市『サンフランソウキョウ』を舞台に
大好きな兄タダシを火災事故で失った14歳の弟ヒロと、
タダシの忘れ形見として遺されたケアロボット・ベイマックスとの交流を描いた物語。
過激な設定のマーベルコミックもディズニーの手にかかれば
あっという間にファミリー層に愛される感動作に。
人の心の傷までも治してくれるケアロボットと兄を失った少年との関係を膨らませ、
ベイマックスのキャラクターデザインも可愛くアレンジされている。
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」に通じる
ど派手で賑やかなヒーロー活劇としての楽しさも充分備わっているので
「Mr.インクレディブル」がお好きならかなりお薦め。