ザ・花ゆめ掲載のスキビ番外の続き妄想です。未読の方・ネタ/バレお嫌いな方はバックプリーズ!!
ありきたりですが、意図的被せではないのでご容赦ください。
※番外続き妄想Aの設定でのお話ですー。というか時間軸はAの前・・・ですね。バレンタイン当日の夜くらいかしら?
番外続き妄想 B
しゅるしゅると可愛らしくアレンジされたリボンを解き包を開く。
思わずごくりと唾を飲み込んでしまったのは僅かな緊張のせいだろうか。
『ダメです!』
『お家へ帰って一人で見てください!!』
『私が恥ずかしいからです!!』
受け取った時のキョーコのセリフが頭の中に蘇る。
本来であれば好意を抱く女性からのプレゼントという事であれば、少なからず気持ちは浮足立っているはず。しかし蓮はどうしてもプレゼントを開ける時に発生するはずのウキウキと言った気持ちを感じることができない。いうなれば、別の意味でのドキドキ感はあるのだが…。
かさ…
ソファーに腰掛けローテーブルに置いた包のリボンを外すと、蓮は箱を持ち上げた。
大きさの割に軽いその箱。受け取った時から大きさの割に軽いこの包に疑問を抱いていた。
両端を曲線で折り蓋をしたピロータイプの箱の端を跳ね上げて開き中に手を入れる。
(…?柔らかい?)
指先に感じた感触に疑問を感じつつ、蓮は意を決してそれを引っ張り出した。
「…………」
(………ひ…つじ?)
中から出てきたのは、幸せそうな表情で目を閉じている羊と思わしき可愛らしい物体。
色々覚悟はしていたのだが、今まで受け取ったことが無い類の想定外の物とのご対面に蓮はそれを手に固まるしかない。
しかし悲しいかなキョーコの言いつけを律義に守った蓮がいるのは自宅リビングで、当然一人。
このような展開でツッコミを入れてくれるべき社も当然そばにはいない。
(…………確かに、恥ずかしい…かもしれない…)
どう反応していいか分からない蓮はたっぷり数分その羊を見つめた後、がっくりと項垂れてそう判断する。
自分の商品価値や世間のイメージを熟知している優秀な俳優は、今手の中にあるモノと自分との大いなるギャップを認識中だ。
そしてふと、自分の想い人であればこのような可愛らしいぬいぐるみはきっと好みだろうなとぼんやりと考える。
別に可愛らしいものが好きとか嫌いとかそう言った問題ではないのだ。
「でもなんでぬいぐるみなんだ?」
しかも羊。
まったく関連性が分からない。
しげしげと、手の中の羊を見つめる。
肌触りのいい柔らかな表面は可愛らしい薄いピンク色。
幸せそうに目を閉じたその表情は、過去数回目撃したキョーコの寝顔に似ている気がする。
(……………かわいい)
キョーコに似ていると気が付いて自然にそう思ってしまった自分に苦笑しつつ蓮は手の中の羊の腹部をぽふぽふと押す。柔らかなその感触に、ついついキョーコも…と思ってしまいフルフルと頭を振った。
「…ん?」
ふと、蓮は自分の足元に落ちている紙に気が付いた。どうやら一緒に入っていた商品についての但し書きらしきその紙はこの羊を引っ張り出した時一緒に出てきて落ちてしまったようだ。
二つ折りのそれを拾い上げて、内側に書かれた内容に目を通す。
(極上の眠りを提供する安眠…枕…?)
ぬいぐるみだと思っていたそれの正体はどうやら枕らしい。
どうして…と疑問を抱きかけたが、蓮はとっさに枕が無いと眠れないとキョーコに言い訳したことを思い出して再度脱力し、ぱたりとだらしなくソファーに倒れ込む。
律義な後輩は、枕が無いと眠れない先輩のために携帯できるこのサイズの枕をプレゼントに選んだのだろう。
自分が行き当たりばったりで撒いてしまった種がこんなところで発芽して陽の目を見るなんて思ってなかった蓮は、過去の自分の発言をいささか後悔する。
(同じ枕なら、最上さんの膝がいい…なんて言えればな…)
あの時のキョーコの膝と柔らかく頭を撫でた手のひらの感触が蘇る。
思ってしまった事にため息を漏らし目を開けると、目の前には安眠を約束してくれる羊枕。
だから羊なのか…と今更なことを思いつつそれを眺めていると、蓮は何故だか罪悪感に駆られた。
まるで、何で横になっているのに枕の私を使わないんですか?と訴えかけられているようだ。
しかも性質の悪い事に、その訴えはキョーコの声で蓮の脳裏に響くのだ。
その上この羊はキョーコからのプレゼントだ。今度会った時にお礼を言うためにはやっぱり使用感も伝えるのが礼儀だろう。
「ごめん…キョーコちゃん」
思わず口にした自分の言葉に蓮は再度苦笑した。
目の前の羊を引き寄せて、頭の下に入れ込んでみる。
手にした時と首筋から耳あたりで感じる柔らかさは微妙に印象が違い、何度も撫でたくなってしまう手触りは確かに枕として絶妙だ。
(でも、やっぱり最上さんの膝の方がいいな…)
そんなことを思いつつ、今日一日いろんな気分の上下のあった蓮は脱力と同時に夢の世界に落ちていく。あわよくば、キョーコの夢を見たいと思いながら。
そして、こっそりとこの羊枕に『キョーコちゃん』と名前を付けたのだった。