「蓮、はいコレ」
「社さんも大変ですね。行くかどうか分からなかったのに用意してるなんて」
今日はハロウィン。
イベント大好きな所属事務所社長から全社員・所属タレント・俳優に至るまで本日LME社内でのハロウィン指令が出されていたが、多忙な人気俳優のスケジュールは詰まっており事務所に行くかどうかは決まってはいなかった。
仕事が早く終わったことと、事務所にオファーの資料が来ているためイベント終了間際だが事務所に立ち寄ることになったのだ。
「だって社長命令だろ?お遊びにしても無視したことを見つかったら何を言われるやら」
「そうですね、命令違反してた場合は速攻見つかってペナルティという名の遊びに巻き込まれそうですし」
今日の私服なら合うだろ?という社から渡された小袋を開けると、そこにはカラーコンタクトとイミテーションの付け牙。
そういう社は包帯を取り出して自分の顔面にぐるぐると巻き付け始め、どうやらマミーの扮装らしい。
「そうそう、今回のイベントを盛り上げるためにラブミー部は強制参加でかりだされてるんだってさー」
(うーふーふー♪事務所に寄れば仮装しているキョーコちゃんに会えるのは確実!ここの所スケジュールが詰まってお疲れだろうから、お兄さんからのプレゼントさ)
さりげなさを装って蓮に話題を振るが、どうしても口元がにやけてしまう社。キョーコをネタに遊ぶ気満々
の社をみて蓮はあえて素っ気ない態度をとる。
「そうですか、最上さんたちも大変ですね」
(またそんな無表情で・・・もっと嬉しそうな顔したらどうのかね。どんな仮装しているか興味ないのかなぁ・・・)
蓮は小袋を手に事務所の化粧室にコンタクトを付けに消えていった。
蓮を待ちつつ 自分だったら好きな子の仮装なら気になると思うんだけど・・・と、担当俳優の淡白な反応に面白くないなぁと社は少し不満げだった。
「お菓子をもらえなかった場合のイタズラ返しは各個人に任せるってなってたから、とりあえず当たり障りないように、ワサビ入りとかカラシ入りとかハズレお菓子を準備しといたから」
「何から何まですみません」
「だってそこいらの女性なら『どんなイタズラしてくれるんですか~?』とかいって喜んで絡んできそうだろ?こういうのならうまくかわせるかと思って」
即席吸血鬼の扮装をした蓮に個装のお菓子が入ったバスケットを手渡し、事務所の廊下を歩いていくと前方から聞きなれた声が聞こえてきた。
「…っもーーーー!!!何でこんな格好しなきゃいけないわけ!?」
「モー子さんっ、落ち着いてっ」
(おーっと、早速ラブミー部員発見!)
どうやら交差する廊下を歩いているらしく、声はすれどもまだ姿は見えない。
(・・・それにしても、酷く怒っている・・・よな・・・)
聞こえてくるのは奏江の怒号で、仕事中でしかも事務所の中なのに怒りを隠そうともしない声色に少し背筋が寒くなる。愛の欠落者ラブミー部員はそろいもそろって怒った時とても怖いのだ。
交差する廊下に黒づくめの二人の姿を捕えると、社は思わず蓮を肘でつついた。
「おい、なんだかすごいだなぁ・・・二人とも露出度高い・・・」
「あの様子だと好んで身に着けている感じじゃないですね」
視線の先には胸元と太ももがざっくり開いた黒いドレスにピンヒールの魔女スタイルの奏江と臍出し太ももむき出しホットパンツの黒猫スタイルのキョーコ。
(目のやり場に困るような格好して・・・でも似合ってる)
チラリと蓮に目をやるとほんの少し困ったような苦笑が口元に浮かんでいる。
(好きな子の肌があんなに出てれば嬉しくもあり、複雑でもあり・・か??)
そのまま前方に歩をすすめると、黒猫キョーコが二人に気が付いたようで振り向いた。
振り向いたその顔が二人を見て愛らしい笑顔をこぼして挨拶してくる。
(れーん、チャンスだぞ!!)
「敦賀さん、事務所にいらしてたんですねっ」
社は自分のひいき目かもしれないが、自分たちを・・・蓮をみて笑顔を見せたキョーコの反応に気を良くし、心の中で蓮にエールを送っていた。
「やあ、こんばんは」
「あ、キョーコちゃん、琴南さん。二人ともかわいーねぇ!」
すごい恰好であるがちゃんと二人に似合ってハマっているのでごく自然に「かわいい」と声をかけた。
「二人は魔女と黒猫?・・・なんというか、大胆な衣装だね」
「「社長指定の衣装なので、避けようがありません・・・」」
さすがの蓮も間近で二人を見て褒める以前に正直な感想がでてしまったようだ。
奏江とキョーコは忌々しそうに、でも諦めたような目をしてハモっていた。
(なんだ、やっぱりうれしいんじゃないか!キョーコちゃんのカワイイ黒猫姿!)
ラブミーコンビの姿に蓮が口元を隠すように手を当てて少し笑みをこぼしたのを社は見逃してなかった。
そうだよな~、普段見えないようなところが見えてればドキッとするしやっぱり何かしらの反応はするよな~と少しは二十歳過ぎの男子らしい反応をする蓮に兄気質な社はふっと表情を緩ませた。
「最上さん」
(え!?・・・いまのどこが気に障ったんだ??)
蓮の反応に気を取られていた社は、おもむろにキョーコを覗き込んだ蓮が紳士スマイルなのをみて背筋が寒くなる。
あの紳士面が怒りの裏返しとして出てくると蓮の行動パターンを把握している社は、蓮の怒りの原因になるような事柄の検討が付かず困惑していた。
自分の背筋の悪寒と同時に、蓮に覗きこまれたキョーコの表情が恐怖に凍りつくのもしっかり目に入る。
(おーい!!!キョーコちゃんだって怖がっているじゃないか!!お前の紳士面が嘘の笑顔ってキョーコちゃんしっかり理解してるんだぞ!)
「・・・トリック・オア・トリート?」
(おーまーえーは!!!どうしてそこからそうなるんだ!!)
キョーコを捕えた蓮の紳士スマイルが夜の帝王に変わる。
(抱かれたい男No1に選ばれてるくせに好きな子にはまったくいい反応をもらえないなんて・・・蓮がかわいそうになってきた・・・)
蓮へのツッコミも止まらないが、対するキョーコの反応も伺う。
(キョーコちゃんもこんなフェロモン垂れ流しの蓮にそんな反応って・・・)
蓮とキョーコを交互に見比べ、つい渋い顔をしてしまう。
そんな社は自分と同じく傍観者となってしまった奏江とふと目が合い、苦笑を漏らした。目と目で会話を交わす二人の前でキョーコは焦ってお菓子を蓮に突き出している。
「敦賀さん、はいっ!」
「残念、ハズレ」
(・・・ん?ハズレ??お菓子をもらえば終わりのはずなんだけど・・・)
社は差し出されたお菓子を受け取ろうとしない蓮に疑問を抱いたが、お菓子を渡して逃げ出そうとするキョーコを逃しはしない蓮の行動に目を見開くこととなった。
(何やっとんじゃー!!!!)
夜の帝王のまま、キョーコの首筋にカプリと噛みついたのだ。
(ついに蓮の理性が決壊したのか!?確かに露出度の高いキョーコちゃんは破壊力満点だとしてもココ事務所だぞ!場所わきまえてくれ!!!)
(でもキョーコちゃん、どうする!蓮から首にチューなんてどんな感じ!?)
担当俳優の暴挙にツッコミを忘れないが、片や天然乙女のキョーコの反応も気になる。
もしかしなくても、こんな状況ならキョーコの方にも色ある反応が取れるかもしれないと期待に胸が膨らんでしまう。
「!!!」
一瞬のち、キョーコの体がピクリと揺れ、「ぶわわっ」と音がしそうな勢いでキョーコの顔が真っ赤に染まる。
(・・・ぎゃー!!しかも舐めてる~!!??)
キョーコの反応から、蓮がいかがわしい行為を働いているに違いないと直感した社は眩暈を覚える。
「・・・ごちそうさま」
キョーコを解放し紳士スマイルを浮かべる蓮に詰め寄る事すらできないほど混乱していた社は、数秒後に襲ってくる音響攻撃に防御動作を取るのをすっかり忘れていたのであった。
「い・・・い、いいいやぁぁぁぁぁ!!!!!」
耳を劈くキョーコの大絶叫で社はようやくパニックの園から帰還できた。もちろん、キョーコの音響攻撃によって耳と頭がガンガンと痛む状態であったが。
二人に目をやれば真っ赤になって涙目のキョーコが蓮に対して猛抗議を開始していた。
(キョーコちゃん、それって蓮を煽るだけだから・・・)
涙目で上目使いに蓮に詰め寄るキョーコに別の意味で頭が痛くなる。
「なななな、なんてことするんですか!!私、ちゃんとお菓子出したじゃないですかっ!!!」
「君こそ、そんなに叫ばなくてもいいじゃないか」
「だっ、だだだって、こ、こんなっ!敦賀さん、何を考えてるんですか!?お菓子を出したのにイタズラするなんてルール違反ですうぅぅ!!!セクハラよぉぉぉっ!!」
(そうだよなー、あれってセクハラだよな。蓮は単純にやりたかっただけだろうけど)
「最上さん、俺だって社長命令に従ってるだけだよ?」
しれっと言い訳して丸め込もうとしている蓮に図太いなと思いつつ、キョーコはキョーコで変に単純だからきっと丸め込まれてしまうだろうことを想像すると涙が溢れてきそうになる。
「吸血鬼の食べ物って乙女の生血でしょ?だからお菓子に血をもらっただけなのに・・・」
(ちょ!!そりゃキョーコちゃん経験なさそうだけど、こんなとこでそんな事言うなー!!!)
「じ、じゃあ!今日は誰相手にもそんな事してまわっているんですか!?やっぱり遊び人なんだわっ」
(キョーコちゃん、反応するとこ違うよぉ~!?)
「ちょっと、あんた落ち着きなさいよ」
「モー子さぁぁ~ん!!」
さすがに看板俳優が似非紳士だとか遊び人だとか事務所内で大声で罵られるのはよろしくない。社もキョーコを諌めようと思った所で奏江が先にフォローをしてくれていた。
「君も失礼だね、誰にでもするわけじゃないよ?」
「は?」
「吸血鬼なんだから、清らかな乙女の血しか飲まないし。それとも君は違うの?」
「な、何をいってるんですか!私がそんな不純なことを働いていると思っているんですか!?失礼ですね!!」
(・・・あ、頭が痛い・・・)
目の前で展開されるのは後輩に処女かどうか正面切って確認する担当俳優と、恥ずかしいことを聞かれているにもかかわらず別のことで起こっているどうにもニブイ後輩の駆け出し女優。
付き合ってもいないハズの二人のやり取りはただの痴話喧嘩の様相を呈しており、社は頭を抱えるしかなかった。
・・・・・・・・・・・
*その後のやり取りはside/kyo-ko・side/kanae参照
「蓮・・・お兄さんは悲しいよ・・・」
カモフラージュも奏江の機転によりまんまとキョーコに2回も首筋チューをかました蓮に向かって社はぼそりとつぶやいた。
脱兎のごとく逃げ去った右首筋には大きな絆創膏が貼られており、行く先で仕事(トリック・オア・トリート)をするたびに「どうしたの?その絆創膏」と言われまた湯気が上がるほど赤くなっているキョーコの姿が遠くに見える。
「いくらキョーコちゃんの普段見えない柔肌が目の前にあったとしてもやりすぎた!」
「職場なんだから我慢しなさい!大人でだろう!」
畳みかける社の言葉に蓮は無言のままだ。
「しかもあんなあからさまなキスマークまで付けて虫よけして・・・」
(本人は鏡を見なきゃわからないだろうしな・・・キスマーク自体知っているかどうだか・・・)
蓮は微妙な罪の意識を持っているのか否か・・・社の言葉にいつも通りさらりと流すこともせずただ黙って歩を進めるだけだった。
「いいか!?キョーコちゃんにそんなことするんなら、まず彼氏の立場になってからやってくれ!!」
口調は厳しいままで社はチラリと蓮の表情を盗み見る。
(ほら・・・そんな顔をするくらいなら、さっさと行動してくれ。この恋愛初心者め!)
そこには照れたような、困ったような複雑な微笑を浮かべ遠くにあるキョーコを眺める蓮の表情があった。
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うーん、イマイチ書き切った感じがうすいなぁ・・・。
まあ、奏江視点で社さんの分まで補完してる感じなので何とも微妙ですねぇ
ヤッシー難しいです。
さて、残すはside/renだけですが
なんかもうお腹いっぱいな感じになってきたので、書くのがめんどくさくなってきてます・・・。
なんだか読専のつもりでID作ったのにまんまと妄想書きになりつつあります。
本誌が進行ゆっくりなおかげで妄想で補充しないとオツムがもちません・・・。
ちゃんとしたプロットが無いのに中~長編コースのネタだけ降りてきてるし・・・。
どうも基本シリアスみたいですね、私のオツムは。
桃色もかなりアリな感じになってきましたが、読むのは良くても描くのは激烈に恥ずかしいのでそのうちアメンバー限定とか(まだアメンバーさんいませんが)で書くことになるのかしら??
ともあれ、アクセス数みるとポロポロ読みに来てくれている奇特な方がいらっしゃるようでありがたい限りです~