「どんなに恰好が良い家を手に入れたとしても、
暮らしそのものを楽しまなければ意味が無いよ」
建築家、宮脇 壇氏の言葉です。
30年間の間に135棟もの住宅を設計しつつ
暮らしに関する執筆も多大で「住宅作家」とも呼ばれた氏。
「ハレ」ではなく、家族と共に暮らす日常生活の温かさや、
何気ない生活の中の美意識を大切にした氏の設計した住まいは、
必ずそこに「住まう人」の姿が透けて見えるものでした。
そんな建築を設計する彼自身の姿はというと、
愛娘・宮脇彩氏のエッセイでの頻出シーンには
テーブルいっぱいの料理を自ら台所に立ち、
家族に振る舞って食事を愉しむ様子が。
さらに、自身で設計した住宅では
ベランダでグリーンを楽しみ、
「エコ」という言葉もない時代から牛乳パックをリサイクルして
葉書きとして手作りしたり・・・
「住まう人(氏と家族)」という主役が生活を愉しむ日常が送られていました。
そんな、彼自身が「暮らしを愉しもう」として、
それを肩に力を入れず「そうしたいから、する」姿勢に、
純粋に感銘を受け、素直に共感するとともに、
「豊かさ」や「充実」という言葉が持つ意味を考えさせられます。
ここ数年、日本では人々の関心が
物質的なものから、もっと内側に向かっていると感じます。
内側とは、すなわち、「自分自身」そものもだったり、
その「自分自身の形ではない環境」だったり。
趣味が読書の私は、時間があると本屋さん巡りをするのですが、
このところ、どの本屋さんでも
「暮らし」に関する本が平積みにしてあります。
インテリアであったり収納であったり、その内訳は様々。
これらを手に取るたびに私は
冒頭のフレーズを思い出すのです。
きっと、私たちが求める「豊かさ」とは、氏が常に読者に伝えていた
「生活そのものを楽しむ」という心意気の中に、ある、と。