「最後の授業」にかこつけてスイスの学校制度の話 | siennaのブログ 〜羽生君応援ブログ〜

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羽生結弦選手の現役時代をリアルタイムで体験できる幸運に心から感謝しつつ、彼のスケートのここが好きあそこが好きと書き連ね、ついでにフィギュアにも詳しくなろうと頑張る欧州住まいのブログ主です。

あらかじめ…本日はスケートも羽生くんも全く出てきません。ごめんなさい。
外国の教育システムに興味あるよ、という方向けの、無駄に長い記事です・汗




今日は長女が6年間通った、チューリヒにある中高一貫のギムナジウム(Langgymnasium)の「最後の授業」の日でした。





この記念すべき日を祝う若人の祭りは、なぜか前夜からスタート。

まずは夜中にクラス全員がチューリヒのクラブに集合してナイトライフを満喫するという怪しいプログラム。
そしてクラブが朝4時に閉店した後は、始発前の未明の街を、学校目指してゾロゾロ大行進。
似たようなスケジュールの学校が多いのか、他の州の学校の生徒達も「スイスきっての大都会」チューリヒまで遠征に来てたらしい。
何を隠そう、チューリヒはヨーロッパ屈指のパーティータウンなのです\(^o^)/
…あ、念のため…チューリヒ州ではワイン・ビールの飲酒は16歳から、クラブ入場は18歳から解禁です(^-^)/




そして、始業時間よりかなり早く学校へ。

学校に着くと、さっそくバスローブにお着替え。
なぜかというと、最後の登校日は卒業生が仮装して授業を受ける伝統があるんだそうで。
クラスごとにテーマを決めますが、彼女のクラスはバスローブをチョイスしたというわけです。
ちなみにバスローブの下にはちゃんと服を着ていました(笑)
寒かったですし、よかった!

1時間目の歴史の授業は、教師のおごりでメンザ(学食)で朝食会。
2時間目は数学。オールの後の数学はフツーにきついですね。
3・4時間目は体育の授業。倒れる生徒が続出したとか(嘘)。
そしてロッカー内の私物を全部出して、鍵を返却してあっさりとさようなら。

式? 
正式な卒業式は7月までお預けです。
というか、実はまだ卒業できるかどうかわからないのです\(^o^)/

授業は終わりましたが、このあと一週間挟んで、6月から卒業試験(Maturitätsprüfung)が始まります。
各科目、筆記と口頭があり、ドイツ語なら4時間かけて小論文を書く、というような、なかなか厳しい試験です。
この卒業試験に受かって初めて卒業できるし、Matur(Matura, Maturität/ドイツではAbitur)という「大学入学資格」が手に入るのです。
Maturがあれば国内どの大学どの学部でもフリーパス(医学部除く)で入学できます。
(別途、卒論(Maturarbeit)も提出しなければなりませんが、これもなかなか面白いテーマなので、これについてはまた別の機会に書いてみたいと思います。)

ですから卒業式はMaturfeier(大学入学資格祝賀会)と呼ばれます。
これは市内の教会で、チューリヒ大学の学長も列席の上、賑々しく行われる予定。
ワインやおつまみも出るのだ\(^o^)/

話ついでに…
スイスの教育システムは日本とはここまで違うか!というくらい違います。
州にもよりますが、チューリヒでは、なんと小学校卒業が「大学進学コース」か「職業訓練コース」かに別れる最初の分岐点。

大学進学コースというのはつまりギムナジウム。通称「ギミ」。
ギミに進学するのはクラスの1~3割くらいでしょうか(入試があります)。
つまり大学進学率も国民の2~3割なのです。

ギミに受かっても、厳しいカリキュラム(試験が毎週最低2科目はあります)についていけるかどうかを見るために、入学後の半年は仮入学期間。
ここで一定の成績に満たないとギミは退学させられ、地元中学等、他の学校に移ることになります。
ちょっと「車輪の下」のような…といっても大概子供達はあっけらかんと地元で再スタートを切りますが^^
で、仮入学期間を無事サバイバルしても、その後も毎学期、全科目の平均が一定基準に満たなければ、次の学期は仮進級扱いとなり、2学期続けて仮進級だと落第です。

厳しいかもしれませんが、本人の資質・才能に向かない進路で無理させる方が良くないという考え方です。

ギミの授業形態は大学のそれに近く、宿題なんかチェックしてくれないし、服装も自由、先生がお休みの時は休講で、生徒達は街をブラブラすることに^^
成績が芳しくない時も教師が補講をするなどありえず、その代わりに出来の良い上級生がお小遣い程度の授業料で勉強を教えたりするチューター制度があります。
保護者面談なんて6年でたった一度、それらしいものがあったくらい。
親の出番はほぼゼロな学校生活です。

子供達が17、18になると、教師も彼らに向かって親称のdu(君)ではなく、尊称のSie(あなた)という2人称を使ってくれるようになります。
いろんな意味で大人扱いですね。

ギミに進学しない子供達が通うことになる地元中学(Sekundarschule、通称Sek)の方が、もっと手取り足取りで指導してくれます。
やはり全員が行く資格のある義務教育だからでしょうか。
ギミは、合わない子は通わない方がよろしい、というスタンスですから。
ちなみにSekも義務教育とはいえレベル別になっており、小学校時の成績により、SekAとSekBに振り分けられます。

地元中学に進学した子供たちは3年生になると、高校からの3年制ギミ(Kurzgymi)の入試にチャレンジする少数のグループと、職業訓練のための職場(Lehrstelle)探しを始める多数のグループに分かれます。
そして、職業訓練グループは、卒業後はその職場で働きながら、それぞれの職業に特化した知識を学ぶための学校(Berufsschule)に通い、見習い(Lehrling)として、3年後の職業資格試験(Lehrabschlussprüfung)を目指して頑張ります。

…つまり、スイス人の大半が日本式に言うと、中卒、ということになるのですよ。
スイスでは、こうして国民の教育をアカデミック系とプラクティカル系に早くからはっきり分けるシステムにより、国として成功しているので、何の抵抗もないし、むしろ誇りに思っているのですが、スイスで暮らす大半の外国人は、やはり自分の子には大学に行って欲しいと思ってしまうのですよねー。

職業訓練はそれこそあらゆる職業に渡っていて、大きく分けると事務系(kaufmännische Lehre)と技術系(handwerkliche Lehre)。
世界に冠たるスイスの銀行も、大卒ではなく銀行で職業訓練を積んできた(Banklehre)人が重役の椅子に座っているということも全然普通。
この国では、一流企業のマネージャーとして活躍し、高収入を得ている人が、よく話を聞くと実は大卒ではないという事は日常茶飯事なのです。

もちろん、出世する人材は貪欲なタイプが多いので、義務教育終了後も、働きながら成人教育を受けて資格や知識を増やした人が多いです。
重要なのは、どこの学校に入ったかではなく、今現在どんな資格を持っていて、即戦力として何ができるか。
つまり学校に通う意味は、「就職時に威力を発揮する様々な連邦認定資格(Eidgenössisches Diplom)」を修了時にゲットすることなので、中退してしまうとその目標を達成することができず、かなりの時間と労力の無駄、ダメージになってしまいます。
時々、外国では中退なんて普通と思ってらっしゃる方がいるようですが…。

そういうわけで、仮進級や落第の憂き目を見ないよう、テストの結果が返ってくるごとに子供達は新たに全科目の平均点を算出し(私もExcelで作表しました!w)、基準点からマイナスになりそうになると次のテストで必死に挽回を図ります。
長女は今のところ点数の貯金があるそうなので、大きくずっこけなければ、来月末には大学入学資格をゲットしていることでしょう。

彼女、卒業後は、すぐに秋から大学に進学するのではなく一年休みを取りたいそうです。
この一年の休暇(Zwischenjahr)もこちらではポピュラー。
その間、アルバイトや実習、旅行、語学留学等をして、大学で何を専攻したいか、希望をゆっくり固めていくようです。
ひょっとしたら、大学進学はしない、という結論が出るかもしれません。
その場合もMaturという資格がある事で、就職活動が有利になります。
私は、とにかく彼女がやりたいことを見つけてくれればいいと思っています。
かなりのんびりした夢見がちな性格の彼女、6年間土日も関係なく毎週のテスト勉強に励み、一度も仮進級を食らわずにに来れたのは立派だと(ほとんど奇跡に近いとw)、心から誇りに思います。
が、やはり元々凄くアカデミックなタイプではないので、ここら辺で実社会に出るのもアリかとも思います。
(この辺り同じギミに通う4歳下の次女は違って、理屈っぽいし何より経済の話が大好き。インフレ・デフレやビットコインの仕組みの話になると弁舌止まりませんww 経済学部に行かなくてどうする、という感じ。)
大学もこちらではケースバイケースとはいえ、約3分の1の学生が途中ドロップアウトするほど厳しいですから、よーく考えて…という感じ。

Zwischenjahrの間、我が家では、基本的に自分の活動費はアルバイトで稼いでもらって、語学留学等は希望があればサポートしてあげようと思っています。
社会保障的にも子供に在学証明が無いと月々の教育補助金がカットされる(2万5千円ほど)ので絶対に稼いでくれないと困りますからw

(参考)http://www.swissinfo.ch/jpn/国際競争に負けない-スイスの大学教育/30366382 コンパクトにまとまったわかりやすい記事です。