「常陸の湯」(立ち寄り・廃業
 
訪問日:2007-02-06,07
 
*こちらの施設は2021年をもって廃業しました
 
 
*デジカメが故障して簡易アナログカメラで撮影したため、見づらい画像が多いのでご容赦ください
 
茨城は温泉貧県というイメージがありますが、地図を探すと意外と多数の温泉が点在しているのがわかります。
しかしそのほとんどは低温泉で、施設もこじんまりとした湯治場が多く、鄙びた風情を好む温泉ファンには有り難いところです。
しかしながら、やはり時代の変化に対応しきれず20世紀末までにその内の幾つかは櫛の歯を折るように姿を消して行きました。
 
今回ご紹介するのも、そんな情勢の中で今に残るそうした素朴な湯治旅館です。
宿泊したのは白山鉱泉「白山荘」です。
北関東自動車道 水戸Ⅰ.C から御前山方面に向かって約30分、国道をそれて細い田んぼの中の道が山に差し掛かると、斜面にへばりつくように建てられた宿が見えてきます。
玄関はいかにも歴史ある鉱泉宿といった趣ですが、こちら開業は意外と新しく昭和21年。
東京にいらした女将さんが、空襲で実家のあるこちらの地に逃れ、昔から良質の鉱泉で知られるこの場所で宿を始められたそうです。
 
農家のような佇まい
 
宿全景
 
白山荘玄関
 
部屋は斜面に沿って離れ風に8部屋。
いずれも8畳ほどのこじんまりとした造りで、宿の前の森が望まれます。
お茶請けに出された栗の渋皮煮(自家製)が嬉しい。
 
離れの部屋と景色
 
そしてこちらの風呂は実に渋い!
岸壁の真下に作られた浴場には大振りの舟形をした(というより舟そのもの)浴槽が置かれ、浴場内につるべ式の井戸がしつらえてあります。

泉質はメタ珪酸を多く含む炭酸泉で、裏山の何箇所からか湧出する鉱泉水を集めてタンクに貯め、風呂のみならず宿の水道全てに供給しているという贅沢さ。
風呂は五右衛門式でいまだ薪で炊いているということです。
(ボイラーも併用)
浴場は一つしかなく、混浴または男女交代制。
 
飲料水から料理まで全て鉱泉水を利用するとは本当に羨ましい限り。
お陰で高齢の女将さんもほとんど病気したことがないそうです。
 
つるべ井戸のある浴室
 
成分表
 
そして食事がまた素晴しい。
「冬場でたいしたものがないんですよ」と一つ一つ運ばれてきた料理は・・・
筍煮物、椎茸肉詰めの揚げ煮、山芋千切りの月見(この卵が見たことのないような見事なオレンジ色でした)、蒟蒻の柚子味噌田楽。
焼きたての鮎塩焼きに子鮎フライ、ウグイの田楽。
鍋は地鶏を薄味の出汁で仕立てた物。
 
魚は冷凍しておいた物ということですが、いずれも天然物で、養殖物は一切使わない主義だとか。
春は藻屑蟹のボイルや山菜が、夏は川魚、秋はキノコが食卓を飾るということで、それぞれの季節にまた来てみたい!
 
山芋短冊月見、椎茸鶏肉詰め揚げ煮、蒟蒻柚子味噌田楽、筍旨煮
 
天然鮎塩焼き、子鮎フライ
 
ウグイ田楽
 
地鶏鍋
 
そして朝食がまた素晴しい!
鮠(はや)の甘露煮、納豆、生卵、ビタミン菜(油菜科の新種)の胡麻和え、漬物と芋茎(ずいき)の味噌汁という素朴なメニューですが、それぞれが抜群のお味。
特に昨夜と同じ、契約養鶏場から直売の鶏卵と納豆が何ともいえない旨さでした。
 
朝食膳
 
「今度は春に来てくださいね」
女将さんが窓からずっと手を振って送ってくれました。
(こちらは通常一泊二食9千円からですが、今回は何品か夕食の料理を追加して頂きました)
 
女将さん
 
宿近くの那珂川
 
「白山荘」HPなし
 
帰りは途中の加倉井町にある立ち寄り専門の湯治場「常陸の湯」に寄ってみました。
ゴルフ場の片隅の林に埋もれるようにある普通の民家風の建物で、「常陸の湯」の石碑がなければそれとは判らないような佇まいです。
 
入り口にある小部屋では、昼だというのに近所の人たちが7,8人集まって酒盛りの最中。
農閑期には皆さん風呂に入ってツマミを持ち寄り、早い時間から酒宴を楽しむ様子です。
 
こちらも脱衣場は分かれていますが、中は混浴です。
意外とモダンな浴場は、白御影石様の石張りで4人ほどが入れる浴槽に少々熱めの温泉が張られています。
泉質は不明(薄く白濁した冷泉、沸かし湯ですが蛇口を開けば掛け流し状態で、良く暖まる湯でした。
気さくな女将さん一人で切り盛りしているそうで、「あと何年できるか・・・」なんて気弱なことを言っていました。
 
*残念ながら「常陸の湯」は2010年7月10日廃業しました
 
常陸の湯外観
 
常陸の湯
 
(「白山荘」「常陸の湯」了)