せつこ(低所得者)の旅
そこはうらぶれた観光地の
旅館とは名ばかりの小汚い民宿だった。
「雰囲気あるう~」
「いい感じじゃ~ん」
せつこは具体的な表現を避け、おどけてみせた。
トイレはまるで廃校のようだった。
散歩コースは危険ながけだった。
お風呂は狭く、洗面所にはほこりがこびりついていた。
テレビ欄のコピーも、お茶菓子もなかった。
夕食時、せつこ一家はまずい前菜を食べ終え、
メインを待っていた。
待っていた。
こなかった。
メインもデザートもこなかった。
「このティッシュいいね。」
「歯ブラシしっかりしてるう。」
意味不明の夫のフォローが虚しく響く。
朝ごはんのかまぼこは小指の先くらいだった。
旅館で空腹を感じたのは初めてだった。
せつこは旅館のバスタオル、タオルはもちろんのこと、
トイレットペーパーとティッシュもかばんにつめこんだが、
怒りが収まることはなかった。
帰りの車中、この旅を企画した夫にすべての怒りをぶつけた。
夫が
「何でもするから許してください」
というので、
「今日のブログの4コママンガを作ってみなさいよ。」
というと
作ってくれた。
しかしあまりに出来が悪かったのでしかってやった。