政治家の無知が日本を滅ぼす!

(アピールNo5

                          2011.5.10

衆議院議員 山本幸三





1 日本は今、私が危惧した最も悪い方向に進みつつあるようだ。菅政権は、東日本大震災という未曽有の国難に対し後手後手の対応しかできず、その政権担当能力に赤信号が点りつつある。未だ多くの被災者が避難所生活を強いられたままで生活再建の見通しも立てられず、心身ともに疲弊してきている。菅政権には、危機に際して採るべきリーダーシップとは何かということがまるで分かっていないのだ。

  当面の緊急対策としての第一次補正予算が4月28日にようやく国会に提  出され52日に成立したが、その中身は国債発行を避けるという建前に固執する余りたった4兆円というチョボい規模で、これでは被災者生活再建支援やガレキ処理に対してだけでも到底足りないことは最初から明らかで、苦難の中にある被災者のことを思えば暗澹たる気持ちにならざるを得ない。どうしてこういうことになるかというと、確固たる財源策が固まっていないからである。そうした中で菅総理を初めとする閣僚や与党幹部の発言から浮かび上がってくるのは、「まず復興再生債(国債)の発行で賄い、これを復興税という増税で償還する。」というのが規定路線のようだ。復興税は、消費税なのか所得税、法人税なのかは未定のようだが、増税であることは間違いがない。当初は国債発行であっても増税することが最初から分かっていれば、国民はそれを前提に行動するので経済学的には増税政策と捉えるべきものである。この増税シナリオは日銀・財務省マフィアのシナリオそのもので、このことは菅総理が遂に日銀・財務省マフィアの軍門に下ったことを意味するものである。

  一方で私の「20兆円規模の日銀国債引き受けで賄え」との提言は、完全に無視されている。日銀・財務省マフィアの増税路線にそぐわないからだ。デフレで大きな需給ギャップが存在する上に大震災という景気後退ショックが重なった現状で増税すれば、デフレが深刻化、消費も投資も減退、名目GDPも減少して返って税収は上がらず財政状況はより悪化するであろうに。雇用にも悪影響を及ぼす。菅総理や閣僚・与党幹部には、どうしてこんな簡単なことが分からないのだろうか。政治家の無知、極まれりというべきか。これでは、日本が本当に滅んでしまうことになるのではないか。こうした危機感から、今一度私の考えをアピールさせて頂きたいと思う。



2 今回のような危機に際し政治家が採るべきリーダーシップとはどのようなものであるかについて、私は改めて増田敏男元衆議院議員の話を思い出すのである。2000年3月31日に北海道有珠山が噴火したとき増田氏は国土庁の総括政務官(今の副大臣)の職にあり、時の森総理から現地対策本部長として北海道行きを命じられ、約三ヵ月間現地で総指揮を採ることになる。増田氏は現地に到着するや否や直ちに全省から派遣された役人達を集め、こう宣言したそうだ。「これからは、自分が全てを決断し決めるのでそれに従って行動してもらう。情報は全て自分に上げろ。ただし、全ての責任は自分が取る。それが嫌なら、今から直ぐに東京に戻れ。」と。勿論それで帰る役人などいないし、指揮命令系統と責任の所在がはっきりすれば役人はむしろ嬉々として仕事に精を出し始めるのである。

  例えば、一日も早く仮設住宅を作る必要があるが、とくに畳が足りないという情報が上がってくる。増田氏は直ぐに全国畳協会の会長に電話して、「全国から畳を一、二週間で集めて欲しい。」と依頼する。これに応じて会長は、「了解した。ただし、輸送手段がない。」と答える。すると、増田氏は防衛庁長官(当時)に電話して、「何とかならないか?」と相談。防衛庁長官は、「分かった。輸送艦を手配しよう。」と協力を申し出、とんとん拍子に話が進んでいったそうだ。

  また増田氏は、「被災者にとってはお金が一番欲しいはず。」と考え、北海道庁に半分出せと要請した上で、一、二週間内に一世帯当たり10万円を配ったとのこと。途端に、被災者の顔が明るくなったそうだ。財務省の言い分を聞けば「現金給付は法律と予算の根拠がないと無理。」というので、それではと「貸付金」という形を採り、ただし「返せるようになったときに返せばよい。」といって渡すのだから、事実上は現金給付である。しかし、これで後から問題になったという話は聞かない。

  こういうふうに迅速に決断し責任を取っていくということが、本当の政治家のリーダーシップというものなのだ。これに比べて菅政権の対応振りは、どうだろうか。何も決断しないで、パフォーマンスと会議を開くだけ。会議は責任逃れには役立つかもしれないが、決断してくれる訳でもなく、時間を浪費するだけだ。驚くべきことに、一次補正だけでは到底足りないことが明らかであるにも関わらず、二次補正は「復興構想会議」の報告が出る6月下旬以降から中身を検討するというのである。今一番必要なことは、現地の市町村長等の意見を聞いて、どんどん物事を決めていってやるということではないのか。「復興構想会議」がどんな立派なビジョンを示そうが、地元住民が納得しないような中身では絵空事にしかならないであろうに。



3 「復興構想会議」でビックリしたのは、初会合の冒頭に五百旗頭議長が「復興財源として復興税の創設」を提起したことである。そこで「復興構想会議」のメンバーを調べてみるとまたビックリ。マクロ経済や金融・財政の専門家は一人も入っていないのである。政治学者とか、建築家、脚本家、作家、哲学者、東北の県知事ばかりで、唯一労働経済の専門家が一名いるだけである。こんな人達だけで、日本経済に悪影響を与えないで真の財政の健全化を図るような復興財源の議論ができるとは、とても思えない。「復興債の借換えは行わない。」などいう、日銀の直接引き受けに絡む専門的な議論も出たということから推察すると、裏で財務省が仕切っていることは明らかである。財務省にとっては、素人集団の「復興構想会議」と日銀・財務省マフィアの典型である与謝野馨氏がリードする「税と社会保障の一体改革検討会議」を駆使して、念願の増税、とくに消費税の増税に踏み切る絶好のチャンスが到来したのだ。増税が日本経済にどのような影響を与えるかについて全く無知に見える菅総理は、願ってもないカモなのだ



4 復興財源を考える際に一番重要なことは、今後の日本経済の推移をどのように診るかということだ。

  震災前の日本経済は、08年のリーマンショックによる落ち込みから新興国向けの輸出をテコにようやく立ち直りつつあったが、まだデフレで20兆円超の需給ギャップを有した状況にあった。そこに東日本大震災が襲ったのである。しかも今回は、地震に津波そして福島第一原発事故による放射能被害と電力供給不足という広範で複雑な大災害となっている。

  まず、東日本大震災による生産設備の損壊やサプライチェーン(供給体制)の寸断で日本経済の供給力が大幅に落ち込んだ。日本経済研究センターは、約4兆円と推計している。

  他方で、大震災や原発の事故などを受け消費者や企業の心理が急速に冷え込んでおり、需要も大幅に減退している。実際大震災後に集計された3月の景気ウオッチャー調査で、現状判断指数は前月比20.7ポイント低下と過去最大の落ち込みを記録した。私の地元の北九州でも、自粛ムードで宴会が続々とキャンセルとなり飲食店が倒産寸前に追い込まれている。

  こうした縮小均衡から、日本経済がいつ抜け出すことができるのか。当初は、供給面については秋口以降には回復が見込まれるというのが大勢だったようだが、福島第一原発事故を受けて浜岡原発の全面停止を菅総理が要請したことから全国的な電力不足が懸念され、このシナリオも怪しくなってきた。

  さらに大きな問題は、落ち込んだ消費者や投資家の需要が早急に回復するかどうかだ。

与謝野経済財政相は「景気冷え込みは短期」と、白川日銀総裁は「需要の蒸発が生じた訳ではないので、生産体制が修復すれば緩やかな回復経路に戻っていく。」と、それぞれ楽観的な見通しを示している。しかし、私から見ると「飲み屋の女将の声など聞いたことがない、現実離れした日銀・財務省マフィアの希望的観測に過ぎない」ように思われる。彼等は、秋にかけて復興需要が本格化するほか、新興国を中心とする好調な海外需要を背景に生産の回復とともに輸出が伸びるとみているのである。だが、復興需要は全体の需要の落ち込みをカバーするほどに大きなものと期待できるのだろうか。阪神・淡路大震災の際も確かに復興需要は観測されたが、その後の日本経済が大きく成長したかというと、そうでもない。むしろ、このころから日本にデフレが定着し始めるのである。関西地区も一次的に倒産率が減るが、1年半後には逆に大幅に増加に転じるのである。兵庫県の実質国内総生産は震災翌年の96年の水準を未だに回復できないでいるという。一時的、部分的な成長が継続・拡大する訳ではないということだ。エコノミストの間でも、「企業の生産減少などで所得が減るため、個人消費の回復は鈍い。」とみる向きも多い。また、日本で生産低迷が続く間に海外需要を他の輸出国に奪われ、秋以降も需要不足が続く可能性もあるのである。

  さらに原発の放射能の問題は、わが国の輸出に大きな影響を与える恐れがある。既に、幾つかの国で我が国輸出品の荷降ろしが断られたり、過剰な証明書の提示を求められたりしている。放射能漏れの完全封鎖にはまだ相当の時間がかかりそうであり、輸出だけを頼りに回復してきた我が国経済にとっては致命傷になりかねないかと心配である。

  以上のようなことを考えると、与謝野氏や白川氏のように供給の回復に応じて需要も順調に回復すると決めつけるのは相当の無理があると言わざるを得ない。そうした中で復興財源を考える際には、ゆめゆめ需要を減らすような方策は、決して採ってはならないのである。


(次項に続く)




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