FRIENDS (2007) | 喜び怒り哀しみ楽しむ序破急。

FRIENDS (2007)


FRIENDS


この作品は、純然たる劇場公開映画作品ではない。
またTV放送作品でもない。
映像職人越坂康史監督が、ネットムービーという新しいメディアを舞台として、映像商品マーケットの普遍性の隙間をぬってゲリラ的に制作し発表した、まさに新しい映像の楽しみ方を提案した映像作品集と言える。

「スウィングガールズ」でデビューを果たした長嶋美紗と関根香菜という二人の女優だけが主演する、7本のショートムービー集なんである。

とは言え、PVという訳ではない。

その作品1本1本に、様々な演技と演出が実験的に配剤されていて、短編映像を表現する可能性の広さを理解させられる。

そして、その作品の収録順まで考察すれば、まさに1枚の音楽アルバムの体をなしているのだ。

何の事前情報も期待も無く、漫然とこの短編集を観賞すれば、もしかしたら呆れるかもしれない。
しかし、もし呆れてしまった自分に気が付いたら、それは映像作品という表現媒体に対する偏った定義が自分の中に既成されているのだという事に気が付くべきである。

越坂監督は、自身の表現する映像の発表の場として「ネットムービー」という新しい媒体を開拓したが、劇場でもTVでもない媒体でいかに映像表現を鑑賞者に訴求しているか。

実はそこまでバックボーンを理解してこの短編集を観賞すると、凄まじいオモシロさを見つけ出す事が出来るのだ。
これは新たな映像の楽しみ方といえるのではないか?

ある意味、自主制作映像作品を堪能する楽しみに近い。

だが、この短編集は自主制作作品と言い切るべき内容ではない。

有名女優という訳では無く、全くの新人という訳でも無い、そこそこの知名度と実力を持つ、ブレイクし切れていない女優を演者として、存分に好き勝手に、しかし商業作品として既視感を与えずに新しい映像で物語化する職人技が詰っているのだ。

自主制作映像作品と商業作品のハザマに位置しているかの様なオモシロさ!

自主制作作品というのは、制作者のナルシズムを顕著に感じる表現主義的側面を持つ事が少なくない。しかし、この短編集にはそういうナルシズムは見当たらない。

とは言え、一般の商業作品の様に必要最低限の予算すらも感じる事も無い。
確実な事は、新しい表現を提供したいという制作者の工夫と心意気を感じられるのだ。

さて、作品はその順列を自由に選択できる構造になっている。
しかし、出来る事なら、左からタイトル頭文字F・R・I・E・N・D・Sの順番に観る方が楽しめる。

★「Flower Girl」
この作品は、初見ではよく解らなかった…と言うのが率直な感想である。
小学校高学年を対象にした自然保護啓蒙目的の教育チャンネル番組…という印象しか持てずにいた。
しかし、この「FRIENDS」というアルバムの最初にハードルの設定を行なっていると考えると、大義名分としての自然保護・緑化推進をテーマとしていても、実は実直なまでに「ガールズムービー」というフレームが見えてくる。

ある意味、マニアックな「萌え」という裏テーマも含んでいるだろうか?

幼少の頃(或いは今の子供)に、散々観たはずのホノボノとした空気感を感じずにはいられない。
何より、やや肩透かしを感じる程の、安心感を感じる事が出来る。
しかし、まずはこういうホノボノ短編で観る側の準備運動を促している事は、この後続く他作品を観て行くと良く理解出来るのだ。
例えば、この女優陣をど真ん中に対象に考える層(というかファン)のとっては、一番納得出来る作品であるかも知れない。

★「R23」
この作品が、自分的には一番好きな作品である。

この作品は、ちゃんと脚本が存在しているとはとても思えない。
いや、仮にあるとしたら、箇条書きに「会話するべき内容」のポイントだけを二人の女優は与えられているだけではないか?
或いは、脚本が存在するなら、脚本の文法を自由に女優に変えさせている。

それほどに、二人の女優が素なのである。
まるで、プライベートな会話を横から盗み聞きしている様な錯覚を感じる。

カメラは手持ちで縦横無尽に二人を追うので、臨場感が甚だしい。
ただこのカメラは、まるで盗み聞きしているかの様な覗き見主義的感情移入からは突き放される。
どちらが良いという訳ではない。
この、シチュエーションに引き込まれる事は共通するのだから。

この作品に物語は無い。
若い女性二人の赤裸々な世間話をリアルに感じさせられるだけだ。
これって、もしかしたら本当のリアルな会話??という疑念さえ浮かんでくる。
しかし、二人の会話は最後に妊娠という特殊事情と多重債務という特殊事情を説明する事で状況の深刻さをオチにしつつ、鑑賞者に「これは演技だよ!」とたたみかけて来るのだ。
これこそ「序破急」な構成展開と云えるのではないか?

冒頭、窓から望む終電前のJR駅が映し出される。
そしてラスト、窓から望む終電後の物寂しいJR駅のカットで終る。

この、たった二つのシーンのみでドラマとして成立させてしまうのは、まさに演出の巧さと思う。
短編映像のみでしか表現出来ない、女優の潜在能力を鑑賞者に存分に知らしめる作品と言える。
まさに実験的な作品だし、観れば観る程オモシロさの理解出来る良作である。

★「In Season」
ヤマンバ汚ギャルの密室劇なんだが、かなり笑えるドタバタコメディ。
ドリフのコントムービーの様でもあるが、若い女優が開き直って演じるそのリアリティに笑えない逆説的側面も感じる(笑)

観ていて、頭から竹の子が生えてくる辺りで、楽になれる。
若者の文化風俗を的確に押えているんだろうなぁ。。
勉強になります(笑)

この短編集をアルバムと言えてしまえる一番の要因と思える作品。
まさに八方にベクトルを向けている短編集の中で、特出したベクトルを持つ作品だと痛感します。

★「Endres World」
散々使い古された説教臭いテーマを、セカイ系な空気感を交えて、あえて映像表現している。

屋上のOL二人の切実なコイバナ風景から、突如、武器を持って空の敵と撃ち合うというあまりに不条理な状況下で、反戦を叫ぶ(笑)
たった4分弱の映像作品に納めている所に含蓄の深さを感じる。

そう、こんな重くて賛否考察のあるテーマは、短い尺で表現するからこそ訴求性があるとも言えるし、逆にこの手のテーマの空虚性というアイロニーを表現しているという観方も出来るのだ。
う~~~~~ん、、オモシロイ!!

★「NAIL」
この短編集の中で、あまり捻らず一番真っ当に作ってある作品。
作劇、カメラ、演出、何もかもきちんと構築してあって、ある意味一番安心して楽しめた。

都市伝説を軸に、人生甘くない!という普遍的なテーマながら、その根拠が占い師に塗られるネイルの色によって幸運を得られるという極めて映像的な物語である。
そして短編ゆえに面白かったんだろうな(笑)

BGMの「アベマリア」が効果的。

あの自主制作映画の女王:星野佳世さんが詐欺電話のオペレーターとして声の出演を果している。
キビキビとテンポ良く進行してストンとオチがつくので、気持ち良く観ていられる。

ただあのオチはカラーコーディネーターが観たら失笑しちゃうかも(笑)
明度と彩度の問題だからなぁ。。

★「Drag of Romance」
これはジェンダーに目覚める女の子二人がお互いを思いやりながらも、その想いがすれ違って胸中を吐き出し会えないという、とても少女漫画的な作品である。

本来なら男女間の物語であるはずなのだろうが、それじゃあまりにベタすぎる。
お互いが女性だからこそドラマ性が膨らむし新しさを感じられるのだ。

構成も面白くて、同じシーンを繰り返しながら、双方がモノローグですれ違う心情を語るのだが、これって正に漫画的表現と言える。

映像はとにかくスタイリッシュに演出されていて、この短編集の中でも二人の女優が一番キレイに撮られている。

特に二人の女優のキスシーンは、この作品集の一番の売りなんだろう事はよ~~く解る(笑)
テーゼが二人の女優なのだから、ジェンダー(でもトランスでないところがナイス!)と言う捻り技でドラマ性を打ち出しながらも、実は男女間の恋愛のメタファーでもあるじゃん!って言うと考えすぎだろうか?

ま、タイトルにある様に「惚れ薬」が出てくるし、それが意図をもって使用されてしまうというプロットでは、男女間じゃリアルすぎてマズイか(笑)

この作品は、監督の映像職人としてのウデが存分に発揮されている様に思う。
正直に言えば、ヘタな長編恋愛映画よりもずーっと面白いし、好きな作品です。

★「Sleeping Like a Sheep」
サスペンスやホラーを彷彿させるカメラアングルやライティングが多用されている。
音楽もホラーっぽい。
って、すみません。これってホラーなんですね。。

映像として映される詩篇に一定の具体的法則性があればもっと面白かったかも知れない。
ノストラダムスよりは解りやすいけど(笑)

雨と風呂と予言者とメイドという、不条理な状況設定と物語の進行なのに、映像の構成で説得されてしまう。つげ義春風味?
しかし、なんで「つづく」なの???

長嶋美紗がウマイ。表情が素晴しい。
この空気感ならショートムービーより、しっかりとした物語を持つホラームービーとして観てみたい。

さて、このDVD、特典のメイキング映像を観賞して初めてそのオモシロさの全てを完納する。
簡単に言うなら、この女優二人にとって、記念碑的であり、学習風景であり、そして演技のプロモーションにも成り得る、大切な作品集となっているよなぁ…と思える。
まるで「ガラスの仮面」の劇中劇オーデションの様だ(笑)

しかし映像で表現するという事の可能性の幅の広さ、そして映像を楽しむ方法の奥の深さを、実感し、考察し、様々な脳内感応を自己発見出来るし、極めて主観的な妄想を楽しめる1枚である。
「映像表現」の可能性を分析考察するには必見のDVDだと思う。
星星星星

さて、今度は「グリーン・デイズ」を観倒そう。