金曜日の夜、いつものように漁場に向かうべく船を走らせていた。すると突然、船の警報ブザーが鳴り始めた。警報の種類は「冷却海水不足」である。エンジンの回転数を下げてアイドリングにすると、続いて「冷却清水」の温度も騰がり、異常を示している。船のエンジンは、中を循環する冷却清水を、外から取り込む海水によって冷やしている。この二つの警報は「外から海水が取り込めないから、クーラント(冷却清水)を冷やせないやっさぁ~!このままじゃオーバーヒートするよぉ。」という、我が真流丸からの悲鳴である。冷却海水の出口であるマフラーを確認すると水が出ていないので、すぐさまアンカーを放り込んでエンジンを止めた。辺りは夕闇に包まれ、やがて日も完全に暮れるであろう。俺は船の停泊灯を灯してまずは一服、この異常の原因究明と修理の手順を、落ち着いて考え.ることにした。そして「よし!海水の経路に沿って確認していこう。」と結論を出した。まずは船底にあるキングストンバルブという海水の取り入れ口に、なにか物が詰まっていないか確認するべく海中に潜ってみたが、異常は無い。続いて海水を吸い込むポンプを回転させているベルトを確認すると、切れてもいないし、緩んでもいない。となると、このポンプの中に入っているインぺラというゴムで出来た羽根車が損傷している可能性がある。機関場の奥に潜り込み、ポンプのケースを開けてみると、このインぺラの羽が何枚か欠けていたのである。そこで予備のインぺラと交換して、機関場を這い出した。これで異常が直らなかったら、こんな時間に仲間に救助してもらうことになる。こんな事態だけは何としても避けたい・・・・。熱い機関場での作業を終えて、気持ちの良い夜風に当たりながら、恐る恐るエンジンを始動させた。す・る・と♪順調に海水を吸い込みはじめたではないか!あー、良かった、本当に良かった!!しかし、こんな夜は仕事をする気にならず、アンカーを揚ると、港に向かって船を走らせた。帰る途中、こんな事態を引き起こした理由を考える。それは偏に、俺の怠慢による船の整備不足。このインぺラという部品はゴムで出来ているので消耗する。以前に交換したのは確か、2年程前であった。これからは1年半で交換しよう。それから、消耗品の予備を積んでおく大切さである。ベルトやインぺラ、オイルなどの予備を積んでおいて本当に良かった。海の上では歩いてお家に帰る訳にはいかない。立ち往生したら誰かに迷惑を掛けてしまうのである。今回の出来事で俺は、大きな教訓を得たのである。ちなみに翌日、船のエンジンの点検を行ったのは言うまでもない。