国宝彫刻とその指定番号(登録番号) | ネコ好き☆SHINACCHI blog

国宝彫刻とその指定番号(登録番号)

国宝の彫刻部門の指定第一号、つまり「国宝第一号」が広隆寺の弥勒菩薩半跏像であることはよく知られている。

ちなみに建造物部門の国宝第一号は「中尊寺金色堂」、絵画部門は「東京国立博物館保管の絹本着色普賢菩薩像」だ。

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広隆寺では、その昔、弥勒菩薩半跏像(宝冠弥勒)の前に、「国宝第一号の指定書」が麗々しく展示されていた。

それを見て、この像が「国からナンバーワンの仏像に認定されたのだ」と思い込んだ人が多かったのではないだろうか。

まさに、そういう「印象操作」をするためにこそ、その指定書は展示されていたはずである。

印象操作は成功し、「国宝第一号」という響きのいい言葉が一人歩きをする。

そして、この仏像が「ナンバーワンと認定された」という認識は定着した。

「ナンバーワンにならなくてもいい」と歌ったのは、SMAP。

「2番じゃだめなんですか?」と聞いたのは、蓮舫議員。

やっぱり、ナンバーワンでなければダメのようである。

国宝第2号の仏像が、「国宝第2号」の指定書を仏像の前に飾ったり、それを宣伝したという話を聞いたことがない。

ところで、彫刻部門の国宝第2号とは、いったい何なのだろうか?

普通に考えれば、広隆寺の弥勒像の永遠のライバル?中宮寺の菩薩半跏像になる感じだが?

ところが、中宮寺像は、第23号だ。

なんか大差をつけられている感じがする。

それなら人気ナンバーワンの阿修羅像を含む興福寺八部衆立像か?

これは第12号だ。

日本の世界遺産指定第1号、法隆寺の本尊にして止利仏師作の釈迦三尊像か?

これは第20号だ。

薬師寺本尊でブロンズの世界的傑作、薬師寺金堂の薬師三尊像か?

これは第15号だ。

それなら、同じく薬師寺東院堂の聖観音立像は?

これは第16号だ。

東大寺法華堂の不空羂索観音立像はどうか?

これは第29号だ。

同じく東大寺法華堂の日光月光菩薩立像は?

これは第33号。

傑作としての呼び声が高い、東大寺戒壇堂の四天王立像は?

これは第34号

そうだ、奈良の大仏(東大寺盧舎那仏坐像)を忘れていた。

これはなんと、第107号。

定朝作の平等院阿弥陀如来坐像はどうだろうか?

これは第97号。

運慶の最高傑作といわれる興福寺北円堂の無著菩薩・世親菩薩立像はどうか?

これは第10号。

有名な法隆寺百済観音は?

これは第21号。

同じく法隆寺の夢殿秘仏、救世観音は?

これは第22号。

鎌倉彫刻のモニュメント、東大寺南大門の仁王像(金剛力士立像)は?

これは第35号。

奈良の観光ポスターによく使われる新薬師寺の十二神将立像は?

これは第70号。

三国伝来の霊像で、模刻像も多く作られた清涼寺釈迦如来立像は?

これは第94号。

井上靖が絶賛した向源寺十一面観音立像は?

これは第65号。

いい加減飽きてきたので、正解を言うと、国宝第2号は「神護寺の薬師如来立像」だ。

そして、国宝第3号が「三十三間堂の湛慶作千手観音坐像」だ。

三十三間堂の真ん中に安置されている、例の巨大で豪華な像だ。

「神護寺の薬師如来立像」も「三十三間堂の湛慶作千手観音坐像」も立派な像だ。

が、それが日本の仏像の第2位と第3位か?と聞かれると、ちょっと違う感じがするはずだ。

そう、国宝の「指定番号」というのは、国宝の価値の評価とは全く無関係なのだ。

文化財保護法に基づく現在の国宝の最初の指定は昭和26年(1951)6月9日付けで行われた。

この時、彫刻部門では、以下の24件が、同時に国宝に指定された。

左から、指定番号、所在都府県、仏像名である。

 1 京都・広隆寺弥勒菩薩半珈像(宝冠弥勒)
 2 京都・神護寺薬師如来立像
 3 京都・三十三間堂湛慶作千手観音坐像
 5 大阪・観心寺如意輪観音坐像
 6 奈良・東大寺執金剛神立像
 7 奈良・東大寺良弁僧正坐像
 8 奈良・東大寺俊乗上人坐像
 9 奈良・興福寺運慶作弥勒仏坐像
10 奈良・興福寺運慶作無著菩薩・世親菩薩立像
11 奈良・興福寺十大弟子立像
12 奈良・興福寺八部衆立像
13 奈良・新薬師寺薬師如来坐像
14 奈良・法華寺十一面観音立像
15 奈良・薬師寺薬師如来及び両脇侍像
16 奈良・薬師寺観音菩薩立像
17 奈良・薬師寺僧形八幡神坐像・神功皇后坐像・仲津姫命坐像
18 奈良・唐招提寺盧舎那仏坐像
19 奈良・唐招提寺鑑真和上坐像
20 奈良・法隆寺止利作釈迦如来及び両脇侍像
21 奈良・法隆寺観音菩薩立像(百済観音)
22 奈良・法隆寺観音菩薩立像(救世観音)
23 奈良・中宮寺菩薩半跏像
24 奈良・聖林寺十一面観音立像
97 京都・平等院定朝作阿弥陀如来坐像

4号は欠番である。

本来ここには平等院鳳凰堂の阿弥陀如来坐像が入っていたらしい。

後年、雲中供養菩薩像が国宝に指定される際に、現在の番号で再指定されたらしい。

理由はわからない。

見てわかるように、都府県順、寺ごとにまとめて指定されている。

指定日が同じ場合の指定順の基準は、これ以後の指定も全く同じである。

現在、国宝彫刻が存在するのは、11都府県。

その指定順は、岩手県・福島県・東京都・神奈川県・滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県・大分県となる。

国が所有する場合は、指定順は先頭になる。

都府県並びに市町村の順序は、総務省監修国土行政区画総覧の記載順によっているらしいのである。

総務省監修国土行政区画総覧
http://www.kokudo.or.jp/books/data/souran.pdf

例えば、奈良県内なら、東大寺・興福寺・新薬師寺・法華寺・薬師寺・唐招提寺・法隆寺といった順番になる。

當麻寺・室生寺・中宮寺・聖林寺などはその後である。

つまり、指定日が同じなら指定番号などは、そのものの評価とは全く関係ないのだ。

だから建造物部門の国宝第1号が、一番北にある岩手県の中尊寺の金色堂であるのも、

絵画部門の国宝第1号が、国所有(東京国立博物館保管)の絹本着色普賢菩薩像であるのも納得がいくだろう。

広隆寺の弥勒菩薩半跏像は大変素晴らしい像だ。

しかし、素晴らしいから国宝第1号になったのではない。

ある基準による指定順で、たまたま国宝第1号になった像が、たまたま素晴らしかっただけの話だ。

その意味では、広隆寺が「国宝第一号の指定書」を麗々しく展示し、「国からナンバーワンの仏像に認定された」かのように印象付けたのは、詐欺的行為に近い。

新霊宝殿が完成し、そこに移されてからは「国宝第一号の指定書」の展示はなくなったようである。

誤解を生じさせるような展示がなくなったのは良いことだ。

寺の栞の方では、いまだに「国宝第一号」の表記は健在のようだが。

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