離婚の道のりと目指すもの・3-3~当事者の権利vs専門職支配② | 金沢の弁護士が離婚・女と男と子どもについてあれこれ話すこと

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石川県金沢市在住・ごくごく普通のマチ弁(街の弁護士)が,日々の仕事の中で離婚,女と男と子どもにまつわるいろんなことを書き綴っていきます。お役立ちの法律情報はもちろんのこと,私自身の趣味に思いっきり入り込んだ記事もつらつらと書いていきます。

前記事離婚の道のりと目指すもの・3-2~当事者の権利vs専門職支配①からの続きです。


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 『ドメスティック・バイオレンスー援助とは何か 援助者はどう考え行動すべきか』(鈴木隆文・麻鳥澄江著・教育資料出版会,2003年9月第1版発刊。2008年3月三訂版発刊)の本では,「専門職支配」という用語で,医療や司法その他の「専門家」がその専門のパワーでもって当事者をコントロールしてきた歴史と問題点を徹底批判しています。

~引用開始~

利用者=自分の人生の専門者

 再確認すべきことは,援助を利用する人,利用者が本人の人生の専門者である。援助は「利用者の体験・経験を尊重することこを意味ある方向へ向かう」ということである。
 専門職者はわき役であるし,自分の専門職領域以外は知らないことも多いので,自分が主体にならないよう充分な注意を常に自分に喚起したい。援助者は利用者の運転を伴走するぐらいがちょうどよい。
 そして,「利用者は専門職を利用することもできるし,利用しないこともせきる」ということを専門職者は忘れないことである。対応した専門職者は「自分が一番よく知っている」という感覚をまず捨てることから始めたい(1版の47頁)。
$金沢の弁護士が離婚・女と男と子どもについてあれこれ話すこと-DVasadori
~引用終了~

 「専門職支配」というのは耳慣れない言葉かもしれません。この本では,「専門家」という言い方自体を否定的なものとしております。専門「家」…。

 医師,看護師その他の医療関係者,臨床心理士,カウンセラーといった心理専門職,弁護士,検察官,裁判官その他の法律専門職,警察官,配偶者暴力相談支援センターとか児童相談所とか福祉事務所とかさまざまな行政の担当者…

 こういう人たちは,その分野における知識と経験と権威をもって当事者の方と接しています。それゆえに「専門」とか言われるわけですから。そこには圧倒的なパワーの格差があります。

 たとえば弁護士について言いますと,依頼者の方から,「こんなことを聞いてもいいのかと思っていた」と言われることがあります。私は犯罪の被害に遭われた方を支援する活動もそれなりにしているのですが,被害者の方で「こんなことを警察に質問していいのかと思って聞けなかった」とおっしゃる方はそれなりに沢山います。

 鋭い人は,もうお気づきでしょう。「パワーとコントロール」という言葉です。

 こういう専門のパワーをもっている人は,意図的であれ無意識的であれ,そのパワーを用いて当事者をコントロールする危険があるのです。
 その専門はそれが適切に当事者のために利用されればご本人を手助けする有用なものとなるのですが,間違って用いられるとご本人にさらに大きなダメージを与えてしまうものなのです。

 生活保護の窓口で,とんでもない念書を書かせたりとか…ボソっ

 そして,DVの被害者とか虐待を受けた子どもとか,長期にわたってパワーとコントロールの中で支配され,反復継続して暴力や虐待による心的外傷を受けてきた方々について言いますと,加害者のパワーとコントロールの車輪が,そのまま「専門」の人たちによる「パワーとコントロール」の関係に横滑りしてしまう危険がとても大きいのです。この点は,竹下小夜子先生,小西聖子先生も,ご講義ご講演等で繰り返し指摘されていました。

「パワーとコントロールの車輪」については「意味のある我慢」・3~DVについて

 弁護士とか警察官とか行政の担当者による被害者への「二次被害」ということが言われて久しいです。加害者から受けた第一の被害に対して,被害者をさらに苦しめるさまざまなもの(マスメディアとか近隣の人たちの心ない言動とか司法や医療関係者の対応とかいろいろなもの)を,第二の被害ということで,「二次被害」というのです。

 この二次被害については,マニュアル的に,不適切な言葉,適切な言葉とかで注意を喚起しているものもあります。たしかに言葉も重要なのですが,私は,専門の二次被害については,そのような言葉の使い方とか対応の仕方とかいったレベルで理解するのは皮相的だと思います。

 これまでお話したように,専門職が被害者との関係では,「パワーとコントロール」の関係が再び設定されてしまう危険が大きいということを踏まえて,「専門職支配」を避けてその専門のパワーを適切に当事者の方に利用していただけるようにすることが本質的なことだと思っています。

 先の著書『ドメスティック・バイオレンスー援助とは何か 援助者はどう考え行動すべきか』では,こういう「専門職支配」に対する徹底的な批判を行い,先の引用部分のように,「利用者=自分の人生の専門者」という命題を掲げているわけです。

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 私は弁護士という法律専門職です。私は,私が自分で感じる以上に,相談者や依頼者の方々に対して圧倒的なパワーでもって接しているのだと思います。そういった専門のパワーは上手く働けば有用ですが間違うと危険なものです。
 そのことを踏まえて,次は,ご本人の自己決定と専門職の専門について書いていこうと思います。

 次の記事へ続く…

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離婚の道のりと目指すもの・1&2~幸せってなんだろう?
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離婚の道のりと目指すもの・3-2~当事者の権利vs専門職支配①
後記事
離婚の道のりと目指すもの・3-4~自分で決めるということと説明について
離婚の道のりと目指すもの・3-5~ご本人が自分で決める意味
離婚の道のりと目指すもの・3-6~「つながってる」と感じ取れること