TPP交渉参加へ向けた日米事前協議は、米国の圧倒的勝利が濃厚となっている。

相互認識した日本の「農産品」と米国の「工業品」の聖域では、米国の自動車だけ例外として日本車の輸入関税を5年~10年超維持することで大筋合意した。

そして、自動車部門の懸念事項に対しては、日本が書類審査だけで輸入できる外国車を2000台以下から5000台以下に拡大することでおおむね一致した。

さらに、保険部門の懸念事項に対しては、日本郵政グループの「かんぽ生命」が米国企業の得意分野となるがん保険に当面参入しないことでおおむね一致した。

そして、現在はさらに保険部門の懸念事項で、日本で政府出資の日本郵政傘下の「かんぽ生命」の政府保証による民業圧迫について協議と伝えられている。

しかし、日米事前協議はこれだけに止まらず、米国が考えている日本の「非関税措置」を是正しなければ協議を終了できないことが明らかになったのである。

そして、事前協議を終了しなければ、日本がTPP交渉参加に不可欠な米政府による米議会通告の前提条件をクリアできないことがはっきりしたのである。

つまり、日本がTPP交渉に参加すると表明しても、米国が日本に要求する条件を全て呑まない限り、TPP交渉に参加できず門前払いされるのである。

このことは、安倍総理が事前協議の目処をつけずTPP交渉に参加を表明したことから、米国が参加条件となるハードルを上げる結果を招いたとも言える。

これまでのところ、日米事前協議の情勢を客観的に分析すれば日本の譲歩だけだ。
TPP前哨戦の日米事前協議でさえこの結果ならTPP交渉の結果も見えている。

[3月23日 東京新聞]TPP非関税措置 保険以外も事前協議
外務省は二十二日、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加をめぐる日米両政府間の事前協議について、明らかになっている自動車関税と保険分野に加え、保険以外の「非関税措置」に関する協議の決着も、日本政府の交渉参加に不可欠な米政府による米議会通告の前提条件であることを明らかにした。

日米は事前協議で、米国が乗用車やトラックの輸入にかける関税の維持で大筋合意。残る主な懸案は保険だけとみられていた。外務省は協議中を理由に具体的な品目は明かさなかったが、日本政府は議会通告後九十日を経ないと交渉に参加できない。他の非関税措置の決着も条件とすれば、通告前の協議のハードルが高まったことを意味し、長期化して日本の交渉参加が遅れたり、さらなる米側への譲歩を余儀なくされる可能性が浮上した。

事前協議の状況は、外務省の林禎二経済連携課長が自民党の会合で説明。TPPに関する日米共同声明に自動車、保険部門に加え、さらなる作業が残されているものとして「その他の非関税措置」が盛り込まれている点を指摘し「米政府が協議に納得し、終結しないと、議会に通告するシステムになっていない」と述べた。

日本政府は、これまで議会通告前の事前協議を終結する対象として、保険以外の非関税措置を明らかにしていない。

<非関税措置> 「非関税障壁」ともいわれ、物品流通のルールや食品安全基準など、各国が関税以外で貿易を制限する手段。米国は民主党政権時代の日本とのTPP事前協議で、かんぽ生命の学資保険の内容変更などを要求したとされる。TPPとは別に、以前から乗用車の方向指示器の色限定といった日本の自動車安全基準なども問題視。日本は食品添加物の使用や、遺伝子組み換え作物の使用表示の基準など「食の安全」分野も規制が厳しいといわれている。

おそらく地方自治体は政府がTPP交渉で国益を守れないと考えているのだろう。
地方自治体の独自試算にて、新たに「茨城県」「香川県」「熊本県」が公表した。

●TPP参加で農業の生産額減少と関連産業の経済損失(北海道試算に基づく)
北海道:約5241億円生産額減少、約1兆6000億円以上経済損失
岩手県:約1015億円生産額減少、約  3000億円以上経済損失
茨城県:約1174億円生産額減少、約  3500億円以上経済損失※新規
鳥取県:約 246億円生産額減少、約   750億円以上経済損失
島根県:約 272億円生産額減少、約   800億円以上経済損失
岡山県:約 407億円生産額減少、約  1200億円以上経済損失
香川県:約 178億円生産額減少、約   600億円以上経済損失※新規
徳島県:約 213億円生産額減少、約   600億円以上経済損失
高知県:約 158億円生産額減少、約   500億円以上経済損失
大分県:約 332億円生産額減少、約  1000億円以上経済損失
宮崎県:約1254億円生産額減少、約  3700億円以上経済損失
熊本県:約 854億円生産額減少、約  2600億円以上経済損失※新規
沖縄県:約 581億円生産額減少、約  1800億円以上経済損失

関連産業の経済損失を考えれば農業は地方に欠くことができない産業なのである。

そして、このような地域経済を壊滅させる結果を招くTPP参加で、政府が取る手段として治療するか延命するか壊滅するかの3つの選択肢が考えられる。

農業を治療するとは、TPP交渉から早期に脱退して農業で経済損失を招かず、政府が打ち出した「攻めの農業」を実行して農業の活性化を図ることである。

農業を延命するとは、TPPに参加して農業の経済損失を国が税金による補填を保証することで、現体制を維持しながら農業の自然淘汰を図ることである。

農業を壊滅するとは、TPPに参加して農業の経済損失を国で手当てせず競争することで、負け組を退場させて労働移転させて農業の自滅を図ることである。

なぜ、TPPに参加して放置すれば農業が壊滅するかといえば、農業の競争力は耕作面積に比例するため、耕作面積で10倍以上のハンディキャップを背負う日本が自由競争に参加すれば敗北が必然だからである。

つまり、農業では自由競争が不平等競争につながり不公平な結果を招くのである。
その結果、各国の農業が同じ条件で競争すること自体が間違った概念となるのだ。

しかし、現状の流れで進むなら最終的に3番目の「農業を壊滅する」に行き着く。

おそらく、当初からTPP交渉参加に賛成だった「大企業」「大手マスコミ」「日本維新の会」「みんなの党」「新自由主義者」の勢力は、3番目の「農業を壊滅する」を目論んでいるのが大半であると推測される。

おそらく、安倍総理がTPP交渉参加を表明してからTPP交渉参加に転じた勢力は、2番目の「農業を延命する」で農業を国によって保護しながらソフトランディングを目論んでいるのが大半であると推測される。

そして、TPP交渉参加の表明前の賛否の割合と安倍政権の支持率の高さを鑑みれば、現勢力で「農業を治療する」が3割、「農業を延命する」が4割、「農業を壊滅する」が3割とするのが現実的な割合となろう。

これより、TPP参加に賛成7割、反対3割となり日本はTPP参加するだろう。
ただし、肝心なのはTPP参加した後にこれら勢力図がどうなっていくかである。

つまり、もうすでに報道されている政府と自民党と農水省が検討する「政府と農家が積み立る農業共済の拡充」や「農家が収入が減少分を補填する制度」に対する賛成と反対の勢力図がどうなるのかということである。

おそらく「大手マスコミ」を筆頭に「日本維新の会」「みんなの党」「新自由主義者」から連呼されるのが、「バラマキを止めろ」というフレーズである。

これはTPP交渉参加を巡って「TPP交渉参加すべき」だけを連呼して国民を扇動した実績を考慮すると、国民の2割程度が扇動されると考えられる。

一方で、当初からTPP交渉参加に反対だった勢力は積極的に意思表示できない。

つまり、TPP参加の最終的な勢力分布は「農業を壊滅する」が5割、「農業を延命する」が3割、「どちらでもない」が2割となると推測されるのである。

そして、安倍総理はTPP参加で「農業を延命する」ための政策である「農業共済の拡充」や「収入補填制度」が抵抗にあって実施できなくなるのである。

やはり、TPP交渉の妥結で安倍総理はお役御免となるのが規定路線なのだろう。
もし、安倍総理がTPP交渉参加の表明さえ引き伸ばせば阻止できたのであるが。

安倍総理がTPP交渉参加を表明した時点で、最後に残るのが「大企業」「大手マスコミ」「日本維新の会」「みんなの党」「新自由主義者」の勢力となるのだ。

これを覆すためには、日米事前協議で日本が一歩も引かず時間切れに持ち込むか、TPP交渉に参加して国益を守れず脱退するかの2つの選択肢しかない。

そして可能性を考えれば日米事前協議を時間切れに持ち込むことが現実的だろう。

国会でTPP交渉参加に反対する最大勢力であった自民党の「TPP参加の即時撤回を求める会」が、名称を「TPP交渉における国益を守り抜く会」に変えて条件闘争など悠長なことをしている暇はないのだ。

まず、日米事前協議で日本の国益を守るため安倍政権に圧力をかけるべきである。



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