遂に護送船団で築き上げた電力会社の既得権の全貌が見えたということになろう。

業界団体である電気事業連合会の八木会長が、昨日の記者会見で「発電事業の全面自由化」と「電力需給の調整機関設立」には賛成姿勢を示したが、「発送電分離」には反対姿勢を示したのである。

しかも、反対する理由がこれまでの既得権を守るためと述べたに等しいのである。
これにより、世界的にも日本で電気料金の水準が高かった理由が明らかになった。

[2月16日 産経]「発送電分離」法制化で攻防 反発強める電事連と電力総連
経済産業省の有識者会議がまとめた電力制度改革案をめぐり、業界団体の電気事業連合会(電事連)や組合組織の電力総連が反発を強めている。大手電力会社の発電部門と送配電部門を分ける「発送電分離」への抵抗は特に強く、法制化に向けて経産省と電力業界の攻防が激しくなりそうだ。

電事連の八木誠会長(関西電力社長)は15日の会見で、改革案で示された小売りの全面自由化や送電網の広域系統運用機関の設立は「顧客の利益につながる」として協力する考えを強調。一方、2018~20年に実施するとされた発送電分離については「現時点では実現の見通しは大変厳しい」とした上で「柔軟に見直してほしい」と求めた。

原発は再稼働の見通しが立たず、活断層の調査で廃炉のリスクにも直面している。このため八木誠会長は、分社化した場合は原発の維持・管理が「非常に難しい」と指摘。収益構造の脆弱(ぜいじゃく)化を懸念する声が金融業界からあり、「資金調達がさらに厳しくなる」とも主張した。

大手電力や電力関連各社の労組が参加する電力総連も14日、電力制度改革案が「現場の実態が踏まえられないまま検討が進められた」と批判する文書をまとめた。国の責任の明確化などを求めていくという。

これに対し、茂木敏充経産相は15日の閣議後会見で、中長期的に電気料金を引き下げるための手段としても「競争による効率化と、安定供給を両立する電力システム改革が必要」と指摘し、発送電分離の実現を目指す姿勢を崩さなかった。

ただ、自民党が13日に非公開で開いた「電力システムに関する小委員会」(小委員長・船田元議員)の初会合では、民主党政権下で進められた政策の踏襲に一部議員から異論などが出たといい、制度改革案の法制化は波乱含みの様相を呈している。

電力制度改革の経緯と今後の流れ

2000年   大規模工場やデパートなどへの小売り自由化
        (出力2000キロワット以上)
2004年   中規模工場やスーパーなどへの小売り自由化
        (出力500キロワット以上)
2005年   小規模工場などへの小売り自由化
        (出力50キロワット以上)
2011年   東日本大震災、福島第1原発事故
2015年めど 送電網の広域系統運用機関を設立
2016年めど 小売りの全面自由化、料金規制は継続
2018~2020年 発電部門と送配電部門を分社化、料金規制を撤廃

電気会社にとって電力自由化だけであれば全く恐れるに足りない改革なのである。

既に企業向けの大口需要家向けに自由化されて10年以上経過するが、新規参入はほとんど進展せず、大口供給電力の占有率は3%に過ぎないのである。

この理由は、電力会社が必ず利益が出る電気料金を設定して、その逆算から新規参入業者の送電網の利用料金を設定するため電気料金のベースが高いのである。

つまり、新規参入業者がコストカットと効率化を図って電気料金を限界まで下げたとしても、電力会社が利益が出せる電気料金であり勝負にならないのである。

この状況で、電力の全面自由化をしたとしても、新規参入が増えず、競争が起こらず、価格破壊が起こらず、電力会社の利益が少々減少するだけである。

その結果、下記にある家庭向けと企業向けの歪な収益構造が是正するだけとなる。

参考記事:電力10社の収支構造調査で東京電力が利益の9割を販売の4割弱である家庭向けだった割高実態が判明

つまり、東京電力が顕著であったが、2006年度から2010年度の平均で自由化していない家庭向けの電力販売でほとんどの利益を稼いでいたのである。

しかし、これを是正できても、従来の原発事業に巨額予算を投入して経費を水ぶくれさせて、総括原価方式で割高に電気料金を設定する仕組みは変わらない。

そして、電力会社が原発の発電コストを水ぶくれさせて、関連企業を増殖させて、原子力ムラという既得権を構築させたのが原子力事業となるのである。

ある意味で、原子力ムラが保護されてきたのは、原発の発電コストを水ぶくれ可能にする総括原価方式の電気料金の計算手法と、電力会社の言い値で利用料を決定して新規参入を拒んできた送電事業にあると言えるだろう。

つまり、適正な電気料金にするには、電気料金の計算を総括原価方式から料金上限方式に移行するか、電力会社の発送電分離を実行するかになるのである。

現状では、5~7年後に発送電の分離と料金規制の撤廃をすることになっている。

これに真っ先に反対したのが、読売新聞と産経新聞の「原子力ムラ新聞」である。

参考記事:発送電分離に反対して原発再稼働を催促、電力会社の利権を保守する読売新聞と産経新聞

つまり、原発の発電コストを水ぶくれさせて構築した原子力ムラの既得権を維持するため、発送電分離をするな、原発再稼動をしろと主張しているのである。

ただ、このときの主張は読売新聞では「安定供給の実現」を隠れ蓑に、産経新聞では「安定供給の確保」を隠れ蓑に直接的な表現では無かったのである。

しかし、昨日の電気事業連合会の八木会長がした発言は、発送電分離となった場合の原発事業について「今の状況では多分持てない」と述べたのである。

これは、発送電分離が実現すれば、原発事業を存続できないという意味となろう。

つまり、原発は全電源で最もコスト高であること、発送電分離をすれば不可能な事業であること、採算に合わない事業であったことを認めたのである。

それでも、発送電分離に反対して原発を稼動させたい理由は、これまで原発の発電コストの水ぶくれに群がってきた原子力ムラの既得権を守るためである。

現在の状況は、これまで電気料金の高かった理由が「燃料費の高騰」より「原発のコスト高」に起因していたことを、国民が悟り始めているのである。

そして、総括原価方式の電気料金において、燃料費の高騰による1割の値上げを理由として原発を再稼動することより、原発の廃炉による3割以上の値下げを理由として原発を廃炉することのほうが効果的であると認識し始めたのである。

原発事業を継続することが安全性からも経済性からも正当性を持たないことが、福島原発事故から2年近く経てようやく証明されようとしているのである。

原子力規制委員会の世界最高の安全基準と、発送電分離と電力自由化が実現できれば、遅くとも2020年代には脱原発が実現されることになるだろう。

原子力規制委員会による7月に策定される安全基準と、安倍政権による発送電分離と電力自由化への規制改革推進に懸かっていると言っても過言ではない。

電力改革は、国民のために安心で安全で安価な電力を供給することが大義である。



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