17年間逃亡を続けたオウム真理教の元信者に、プロの裁判官は市民感覚とは異なる結論を言い渡した。1995年の東京都庁爆発物事件で菊地直子被告(43)を逆転無罪とした27日の東京高裁判決。弁護人らは「証拠を厳密に見た結果」と評価したが、1審を担当した裁判員経験者からは「市民参加の意味は何なのか」と戸惑いの声が上がった。



菊地直子元信者の逆転無罪判決を受け会見する
主任弁護士の高橋俊彦氏





 「被告人は無罪」。午後1時半、東京高裁102号法廷。大島隆明裁判長が主文を言い渡すと傍聴席がざわめいた。黒い髪を後ろで束ね、上下グレーのスーツ姿の菊地被告は弁護人の前に座り、目を伏せたまま判決理由に耳を傾けた。時折唇を震わせ涙をハンカチでぬぐった。


「法律的には無罪となったが、客観的にはあなたが運んだ薬品で重大な犯罪が行われ、指を失うという結果が生じている。当時は分からなかったとしても、教団の中でやってきた作業がどういう犯罪を生んだのか。きちんと心の中で整理してほしい」。裁判長の説諭に被告はうなずき、涙でぬれた顔を両手で覆い、法廷を後にした。
 閉廷後、被告の主任弁護人の高橋俊彦弁護士(45)は報道陣の取材に「正しい判断が導かれたことにほっとした」と述べた。逮捕数日後に初めて接見した時から無罪だと感じたといい、「1審では、運んだ薬品が毒物や劇物であるという認識が、人を殺す危険性の認識にすり替えられた。控訴審は危険性についてきちんと認定してくれた」と評価した。
 一方で「事件で実際に大変なけがをされた方がいる。手放しで喜ぶわけにはいかない」と述べ、被告については「ほっとしていると思う。今後の生活もあり、そっとしておいてほしい」と話した。
 爆発物事件で左手の指を失った元都職員の内海正彰さん(64)は「被告は長年逃亡を続けており、罪の意識は十分持っていたはず。無罪判決は、その事実を法廷でしっかりと立証できなかったということで、誠に残念」とコメントした。
 被告の裁判を1審から傍聴し続けてきたジャーナリストの江川紹子さんは「裁判員らは一般人の感覚で『自分ならこう思う』という発想で結論を導いた。控訴審は、(信者をマインドコントロールした)オウムの特殊環境に置かれていたことも考慮して彼女の内心を推し量った」と判決を評価。「被告は裁判長の説諭に何度もうなずいていた。過去に向き合ってという説諭に誠実に応えてほしい」と話した。【山下俊輔、石山絵歩、山本将克】


 ◇「まさか逆転無罪とは」
 逆転無罪判決について、1審で裁判員を務めた男性会社員(34)は「控訴審で刑が軽くなることはあるかもしれないと思っていたが、まさか逆転無罪とは。自信を持って出した判決なのでショックだ」と話した。
 1審では教団元幹部らの証言が食い違った。事実をどう認定するかが難しく、評議は約3週間続いた。男性は「事件から年月が経過し、被告の内心の認定に頭を悩ませた。決め手となる証拠もなく、真剣に話し合った」と打ち明け、「裁判員を務めた意味が何だったのか考えてしまう。直接的証拠があり、市民も判断しやすい事件に裁判員の対象を限ったほうが良いのではないか」と語った。
 検察幹部らからは「全く予想していなかった判決」などと驚きや疑問の声が相次いだ。判決が井上嘉浩死刑囚の証言が不自然に詳細だと指摘した点について、ある幹部は「井上死刑囚らの頭の中は今もあの時代で止まり、それぞれの場面の記憶が非常に鮮明だ。時間の経過だけで、直ちに捏造(ねつぞう)と疑うべきではない」と首をひねった。別の幹部は「被告が危険物を運んだのは事実。地下鉄サリン事件が起き、教団が捜査をかく乱しようとしていたのだから、被告には人を傷つける認識があったと考えるべきだ」と批判した。
 一方でオウム事件捜査を担当した警視庁OBの大峯泰広さん(67)は「被告の当時の上司だった土谷正実死刑囚らから、被告に事件の計画を話したという供述を得られなかった記憶がある。状況証拠を詰め切れたとは言えず、判決は致し方ない気もする」と話した。【島田信幸、平塚雄太、深津誠】


 ◇証言評価が逆転
 元東京高裁部総括判事の木谷明弁護士の話 事件発生から長い時間が経過した後の公判は有罪無罪の判断が非常に難しくなる。DNAや指紋など決定的な証拠が残ってい結れば判断しやすいが、今回のように多くの共犯者がいて、証言もバラバラとなると、証拠の見方によって論が変わってしまうこともあり得る。今回は井上嘉浩死刑囚の証言に対する評価が1、2審で分かれ、判断がひっくり返った。井上証言を客観的に担保する証拠がなく、高裁は有罪を確信できなかったのではないか。


(ネット引用)

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信じられません。

なんで・・・