オーストラリアの鍼灸師事情について復習。まず患者側からの視点。

オーストラリアは、国民皆保険制度(Medicare=国民健康保険のようなもの)であって、治療費の殆どは、これで賄われるが、鍼治療を受けた場合、所定の鍼の勉強を修めた医師でないと、患者は還付金を受けられない。

また普通の人は、Medicareでカバーされない歯科、眼科や医師以外の鍼治療、マッサージなどを受けた場合、還付金を受けられるというか、保険会社から負担して貰えるように、民間の保険会社に加入する。

ただ、民間の保険会社に加入しても、例えば、鍼治療をカバー出来ないコースを選択しても、意味はないので、鍼治療やマッサージを受けたりする事が多い人は、相応のコースを選ぶ。

つまり、患者側で鍼治療を受けて、負担を軽くしようとすると、民間保険の鍼治療を含むコースに入る必要がある。

次は施術者側の立場。患者に還付金を受けさせるようにするためには、各民間保険会社に鍼灸師として登録(プロバイダー)しないといけない。以下のような書類(保険会社によって、もっと厳しかったりするので、まちまち)を揃えて、各民間保険会社の送付して、登録申請をする。

・申請申込書

・オリジナルと政府公認の翻訳家による英文卒業証書(公証人のサイン入りコピー)

・オリジナルと政府公認の翻訳家による英文成績証明書(公証人のサイン入りコピー)

・オリジナルはり師免許と英文はり師免許(公証人のサイン入りコピー)

Senior First Aid証明書(公証人のサイン入りコピー)

・損害賠償保険加入証明書(公証人のサイン入りコピー)

・英語能力証明書(公証人のサイン入りコピー)

こういうのを約50ある民間保険会社に申請するのは、非常な労力を要する。大体、何も情報がなければ、「損害賠償保険加入証明書」だって、どの保険会社にどうやって入っていいか分からないし、公証人を探し出すのも大変だ。

したがって、それらが一括で済むように、オーストラリアの自然治療療法協会や鍼灸協会に加入する方法を選ぶ。協会に加入すると、大手の保険会社以外は、大体、自動的にプロバイダーとして登録が出来ている。

Aという保険会社に、協会を通じて鍼灸師として登録。Aの保険に加入している甲さんが鍼治療に来て、治療費の$60を受け取り、協会の登録メンバーの番号を記載した領収書を渡す。甲さんをその領収書を持って、A保険会社のカウンターに持って行く。還付金の$20(例えばの金額。保険会社によって、金額は違う)を受け取る。つまり、治療費は$40で収まる。

こういう流れになるので、民間保険会社のプロバイダーにもなっていない、協会にも入っていない鍼灸師よりも、安心感があるし、治療費からみても有利だ。だから、協会に入るのが得策だと思う。

私は腕も自信もあるので、協会に入らなくても大丈夫、という人は、Victoria州以外なら、その方向でも仕事は出来る。鍼灸師の事ばかり書いているが、マッサージ師でも同じ事。

ただ、所謂「指圧」を受け入れている民間保険会社は少ない。オーストラリアでマッサージ師として展開させるためには、こちらの学校に入り、「Remedial massage」という領域のDiplomaを取得する事が、有利に作用する。

マッサージについては、法的規制がないので、資格がなくても、マッサージの資格がなくても、マッサージの仕事は出来る。

実際、日本で整体をやってました、日体大の在学中に先輩にマッサージをよくしてたので自信はあります、エステで働いていました、という「経歴」を持って、求人に応募して来る人も多い。

日本人経営のクリニックなら、ひょっとして採用するかも知れないが、現地の鍼灸、マッサージ専門のクリニックでは、保険会社のプロバイダーにもなってない、協会にも所属していない施術師の採用の可能性はあまりない。

蛇足だが、日本で、正規の学校にも行かず、国家試験にも合格していない人が、1週間とか2ヶ月の講習で聞いた事もないようなマッサージ法が出来るという事で、働かせて下さいと言ってくる人も居る。

1週間で得られた技術なんかは、1週間の効力しかないし、3ヶ月で取得した怪しげな資格も3ヶ月の効果しかない。つまり、何の役にも立たない。

鍼灸指圧師のプロとアマチュアの差違は、技術より鑑別能力。「肩が痛い」という患者に、四十肩だなと鑑別する時の根拠の有無と専門的説明が、プロとアマチュアの分水嶺になる。

鳥口突起炎ではなく、肩峰下滑液包炎でもなく、上腕二頭筋長頭筋炎でもないと判断する根拠を解剖生理学的に説明が出来、治療方針と生活改善指導が出来る事が重要。

個人的に言うと、例えば、国家試験を合格したばかりの臨床家と医療学校には行っていないけれど5年の臨床経験がある整体師の間には、治療技術自体の格差などはあまりないと思う。

差があるとすれば、鑑別の論理的根拠の提示能力。また、それがないと正規の臨床家とは言えない。そういう人でないと、ぼくも雇わない。

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AACMAの実技試験とは?

テーマ:

実技試験について記録しておく。数年前、受験費用は、$250だった。試験概要の手紙を受け取り、30日以内に返事がない場合は、申請用紙は無効になる。

実技試験のガイドラインを写しておく。

鍼の実技試験は、二つのセクションに分けられる。

(1).診断と治療
(2).取穴

「診断と治療」も二つに分けられる。

【診断と治療】
(a)検査、診断、治療の原則、治療計画と治療の説明
(b)治療の施行


(a)検査と診断(50点)

 1.四診(12点)
 2.脈診と舌診(4点)
 3.診断(2点)
 4.診断の説明(10点)
 5.治療原則(2点)
 6.治療予定(10点)
 7.治療の説明(10点)

(b)治療施行(50点)

 a.患者管理-準備と説明(10点)
 b.刺鍼技術、刺入と接鍼(10点)
 c.取穴(10点)
 d.衛生処置(10点)
 e.コミュニケーション技術(5点)
 f.治療結果(5点)


【取穴】
経穴の取穴は、全部で20。一つの経穴につき、5点。総合で100点。合格ラインは75点以上。

 a.取穴(3点)
 b.取穴の解剖学的説明(2点)

試験官は二人。被験者は一人。実技試験は、受験者のぼくを含めた四人で行う事になるが、ぼくの場合は、まず取穴試験から始まった。


取穴試験が終わった段階で、採点がなされ、正解率が74%以下なら、診断と治療は幾ら自信があっても行われない。その後、満点を取っても、合格ラインに届かないからだ。

以上が、実技試験の全貌だ。今から、日本で受けた国家試験のための卒業試験実技編、というのを英語で行う訳だ。しかも、合格最低ラインは、75点。

日本で行った取穴は、日本名で覚えているため、「B21」と言われても、知らなければ、押さえられない。それらも含めて、相当の勉強時間が必要になる。

どんな問題が、どういう風に出されるのか?傾向と対策は?合格率は?これらは、自分で調べなければならない。

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民間保険会社に、鍼灸師として、プロバイダーとして登録するには、どういった方法があるか書いておこう。

個人申請と鍼灸師協会申請の二通りがあり、個人申請というのは、読んでそのまま、必要書類を自分で提出する事であり、鍼灸師協会申請というのは、協会に加入すると自動的にプロバイダーになれる。

個人申請だと、40も50も存在する民間保険会社全部に申請する憂き目にあって、深夜泣きながら、書類を揃えていかなければならない。

書類というのは、『はり、きゅう免許証』、『鍼灸専門学校卒業証明書』、『履修証明書』。この三点は、日本語のオリジナルとオーストラリア政府公認の翻訳家による英文が必要。


オーストラリアの『First Aid Certificate』、『損害賠償保険証明書』。保険会社によっては、『保健所に鍼灸院登録を受け手、認可された事を証明する手紙』を寄越せ、などと息巻いてくる。

ぼくがオーストラリアの「鍼灸師会」や「自然療法協会」に入ったのは、二つの理由がある。

一つは、オーストラリア在住の外国人として、鍼を扱う協会に入っておき、自分の身分を担保しようという事が一つ。

もう一点は、保険会社のプロバイダーになるという事。ただ、そうするには、物凄い手間がかかるので、自動的にプロバイダーになれる鍼灸師協会に加入しようと考えるのは、当然の流れだ。この点を詳しく書いてみよう。

一例として、大手の民間保険会社・MBFについて書こう。
MBFが認識している医療従事者としての業種は以下の通り。
鍼師以外に、作業療法士、助産婦、指圧師などもある。

MBFが認識しているという事は、以下の業種の治療を受ければ、還付金が戻ってくるという事だ。ただ、治療家がMBFに登録していないと、患者側は還付金を受けられない。


 Acupuncturist
 Alexander Technique Teacher
 Aromatherapist
 Bowen Therapist
 Dental Prosthetist
 Dietitian
 Exercise Physiologist
 Feldenkrais Provider
 Herbalist
 Homoeopath
 Kinesiology Practitioner
 Midwife
 Naturopath
 Occupational Therapist
 Optical Dispenser
 Orthopaedic Shoe Maker
 Orthoptist
 Psychologist
 Reflexologist
 Registered Nurse
 Remedial Massage Therapist
 Shiatsu Therapist
 Speech Pathologist

もう少し詳しく書く。
MBFの保険にも、何種類かのコースがある。
単純に比較しやすいように、二つのコースとして、例を挙げるが、保険料と業種については、あくまで参考なので、違うかも知れない。

A…全部の治療が適用(保険料・$200/月)
B…鍼、作業療法、漢方が適用(保険料・$80/月)

例えば、ぼくが、Bコースの保険に入っていたとする。そして、シドニー市内のクリニック(MBFの指圧師として登録している事を謳っているクリニック。鍼は登録していない)に行き、指圧を受ける。そして、お金を払い、領収書を受け取り、それを持って、MBFの窓口に行って、還付金を受けようとしても、自分の入っている保険のコースには、指圧は該当していないため、いくらMBFに登録してある指圧師でも、還付金は出ない。

もう一つの例。Aコースを利用する。同じクリニックに行き、鍼治療を受けたとする。そして、領収書を貰って、MBFの窓口に行く。しかし、還付金は出ない。自分の入っている保険のコースが使えても、治療家が鍼師として、登録していないと使えない。

つまり、鍼治療を受けて、患者側が還付金を受け取るようにするには、鍼が適用されるコースに入る事と鍼師として、MBFにプロバイダー登録しているクリニックに行かなければならない。

上のAとBの二例でお分かりのように、指圧も受けられるコースというのは保険料が高く、鍼治療だと安い。しかし、その分、鍼師としての登録は容易ではない。

オーストラリアの民間保険で人気の高いのは、Medibank Private、HCF、MBF、NIBなど。

MBFは、ATMSに入っても、ANTAに入っても、プロバイダーになるためには、直接申請しなければならない。それは、HCFについても同じ。従って、ATMSから鍼灸師として公認を受けているなら、ANTAに入る必要はあまりない。


最大手のMedibank Privateについては、来月からATMSに登録しているメンバーなら、プロバイダーとして、登録される事になった。思いもかけない僥倖だ。

では、MBFのプロバイダーになる方法を原文のまま列挙する。鍼灸師にとっては、ANTAなどに加入するより、Medibank Private、HCF、MBFなどのプロバイダーになる事は、仕事をする上で、有効に作用する。



As part of MBF’s recognition criteria, applicants for Acupuncture must have
completed as a minimum, a recognised 4 year full-time or equivalent (approx
2000 hours) Advanced Diploma or Degree course.

In addition, the following requirements are mandatory:
Professional Indemnity Insurance of $1,000,000 minimum, per claim
Senior First Aid certificate (or equivalent)

In addition to the requirements detailed above, all qualifications must
include an adequate emphasis on practical application of the treatment
concerned, including demonstrated and proved capacity to carry out the
treatment in a safe way to an acceptable level of competence.


Before you begin, have the following details ready:

ABN

Membership details ?
including the association, level of membership and date of registration

Indemnity insurance ?
including the company, amount of cover and expiry date First aid training (if applicable) ? including the company and expiry date of the certificate

Educational qualifications ?
including the year and title of the award, institution and course duration

Continuing professional education (if applicable) ?
including the year and title of the award, institution and duration

Complementary Therapies Criteria
For information on how to become recognised by MBF for benefit purposes
please select from the following modalities:


ここにも「Advanced Diploma or Degree course」が出てくる。また鍼灸経験も重要になってくる。

厳格ともいえるMBFだが、AACMAに入れば、プロバイダーになれる。HCFについては、保健所からの開業許可証が必要になるため、また難しい。保健所からの開業許可証を取得するには、何が必要になるかは、また後日書こうと思う。

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今日は、Victoria州の鍼灸師登録機関、CMRBV(Chinese Medicine Registration Board of Victoria)について書く。

オーストラリアのVictoria州は、州政府が自然治療施術者、特に鍼、漢方を扱う者を管理する事になっているので、Victoria州で鍼灸の仕事をする者は、CMRBVに登録が義務づけられている。それは、学生でも、ワーホリでも同じ。


登録してない者が鍼灸の仕事をすると、罰金が科せられる。毎月、CMRBVから送られてくる月報に、違法鍼灸師の名前が掲載され、罰金額まで載っている。

登録の事だが、一定の中国医学教育を受けた者を州政府が掌握し、管理する事にしても、急速にやったのでは、衝突、摩擦が起こる。


例えば、香港の鍼学校で、1年教育を受け、25年前に卒業し、オーストラリアのメルボルンに移住し、25年の実績を持つ経験豊かな中国人鍼師などに、現在の教育システムを嵌め込み、登録させようとすると、どうしても無理が起こる。

そこで、Victoria州は、“Grandparenting”という猶予期間を、2002年1月1日~2004年12月31日の間に設けた。この3年間の間に、登録をすると、“…despite the fact that they do not qualify under section 5.”と、108の条項から成立する『Chinese Medicine Registration Act 2000』という法規に準じる事となり、登録が比較的容易だった。

その“section 5”の中には、「in the opinion of the Board, has a qualification that is substantially equivalent or is based on similar competencies to a course of study approved by the Board」という条項がある。


この部分の「substantially equivalent」がポイントと思われる。実質、同じような価値がある教育機関を卒業していればいい、という訳だ。日本の3年間の鍼灸学校教育と、国家試験合格が、これに該当すると思われる。

現在、Victoria州が要求する鍼師登録の基準は、「オーストラリア国内では4年間の鍼学校、中国では5年間の鍼学校教育を受けた者」、「或いは、それと同等の価値があると委員会で認めた者」が登録出来る、と指定されている。

さて、この「CMRBV」申請に対して、以前、ぼくが準備した書類を列記しよう。

・既にオーストラリアで鍼灸師として仕事に従事している旨を書いた手紙。
・申請申込書(30ページに及ぶ)。
・オリジナル卒業証書(公証人のサイン入りコピー)
・英文卒業証書(政府公認の翻訳家による英文。公証人のサイン入りコピー)
・オリジナル成績証明書(公証人のサイン入りコピー)
・成績証明書(政府公認の翻訳家による英文。公証人のサイン入りコピー)
・日本の国家試験の概要を書いた英文の手紙
・オリジナルはり師免許(公証人のサイン入りコピー)
・オリジナル英文はり師免許(公証人のサイン入りコピー)
・オーストラリア・スポーツ・トレーナー資格証明書(公証人のサイン入りコピー)
・労災保険取扱施術者証明書(公証人のサイン入りコピー)
・Senior First Aid証明書(公証人のサイン入りコピー)
・日本での鍼灸接骨院勤務証明の英文手紙(公証人のサイン入りコピー)
・日本での整形外科医院勤務証明の英文手紙(公証人のサイン入りコピー)
・日本でのスポーツトレーナー活動証明の英文手紙(公証人のサイン入りコピー)
・オーストラリア民間保険会社のプロバイダー登録証明(公証人のサイン入りコピー)
・損害賠償保険加入証明書(公証人のサイン入りコピー)
・申請の年に、鍼を購入した領収書(公証人のサイン入りコピー)
・鍼灸院経営の届け出を認可されている役所からの証明書(公証人のサイン入りコピー)
・英語能力証明書(公証人のサイン入りコピー)

以上の書類を弁護士の前で見せて、サインした後、審査料$150を添えて、書留で送った。

煩雑だが、他の鍼灸師登録機関も、ここまでではないが、同じようなものである。全部のコピー(手紙が3ページになっているとすると、3ページ分)に公証人のサインが必要になる。これが結構大変なのである。

ぼくは、今まで、3回、鍼灸師協会に登録を申請し、4回ほど民間保険会社に登録を申請しているが、その都度、公証人にサインを頼まないといけない。今回のように、場合によっては、50ページほどのサインが必要な事もある。

オーストラリアの公証人は仕事ではないので、無報酬であるし、殆どの人は自分の仕事を持っている。一般の事務員でも、公証人になっている人が居るので、その人の職場に行って、「すみません。サインして下さい」と膨大な書類を持ってお願いする事になる。気の毒だ。

だから、ぼくは、3人の公証人、同じ事を代行出来る医師、税理士、弁護士にローテーションを組み、サインを頼んでいる。

CMRBV登録の猶予期間は、2004年12月31日で終わった。現在は、オーストラリアの鍼灸教育と同等の能力がないとCMRBVが判断すれば、筆記試験、実技試験を受ける事になる。


AACMAの試験について書いておく。まず、申し込みの提出から。


申込書一式というのは以下の通り。

1)表裏一体の申込書(鍼灸学歴、経験などを書く)
2)証人の前でその申込書にサイン
3)IELTSという英語の試験を受け、英語能力を証明
4)履修証明書(英文)
5)すべての書類は、オーストラリア政府公認の翻訳家により英訳のこと
6)公証人のコメントとサインのあるFirst Aid証明書のコピー
7)所定のフォームにある鍼についての質問を書面で回答する
8)返金されない申込金が$150


AACMAが指定してきた申し込み期日を30日過ぎると、申込書一式は破棄される。


以下は試験項目。


1)西洋医学試験…筆記3時間(英語 or 中国語)
2)TCM(中医学)理論査定試験…筆記3時間(英語 or 中国語)
3)鍼理論査定試験…筆記3時間(英語 or 中国語)
4)鍼実技査定試験…実技1時間(英語)

試験の概要を書くと、例えば、「西洋医学試験」の筆記は3時間。問題は、全部で160問。5つの項目に分かれる。

解剖学…40問
生理学…24問
薬理学…16問
細菌学…16問
臨床診断学…40問
病理学…24問

合計160問で、70%に当たる112問に正解しないと、合格しない。
試験問題は、4択。例題を上げよう。細菌学の問題。

Pulmonary tuberculosis is caused by the

a. mycobacterium terrae
b. mycobacterium xenopi
c. mycobacterium tuberculosis
d. mycobacterium scrofulaceum

肺結核の原因を聞いているわけだ。正解は、c の mycobacterium tuberculosis。
ヒト型結核菌だ。こんな調子で、「西洋医学試験」だけで160問出題される。
日本の国家試験を英語で受けろ、と言っているのに等しい。

筆記試験に合格すると、実技試験を受ける資格が出来る。実技は、脈診、舌診、取穴、切皮、刺鍼だけでなく、根拠も説明しないといけない。

「ああ、それはですねえ、脾胃の機能向上を図ろうと思いまして、痰湿の除去をしたわけです。だから、任脈と足陽明経穴から取穴したかったので、内関と三陰交と水分に補法しちゃいました」と英語で言う事になる。

AACMA(Australian Acupuncture Chinese Medicine Association)加入のため、展開した作戦の結果を書く。

1…AACMA内部の高官と直接的、間接的に接触出来る人間を探索し、懐柔する

知り合いの中華料理店香港チャイニーズオーナー兼カンフー師範に知っている著名な中国人鍼灸師が居るかどうかを聞いてみたところ、心当たりがあるというので、その場で中国人鍼師・陳さんに連絡を取った。


陳さんは、カンフー師範の弟子だ。すると、陳さんは、李さんという中国鍼灸大学教授を紹介してくれたので、カンフー師範は、李さんの元を訪ねて、菓子折持って、直談判して来いと言う。

ぼくは、チャイナタウンの一室に陣取る李さんの治療院を訪ねた。李さんは女性だった。老師だ。英語がまるで、通じないので、李さんの弟子兼見習いの女性鍼師見習い学生に通訳をしてもらったが、後で何の役にも立ってない事が分かった。

小一時間、ぼくの状況を英語で説明して、返ってきた答えは、「なるほど。それなら、AACMAに電話してどうすればいいか聞いてあげよう」。李さんはAACMAに電話して、事務局の人間と中国語で話しをしている。電話を切った。


「分かったよ。ここの住所がAACMAの事務局だから、ここに書類を送るといいよ。そうしたら、審査してくれる」

あの~、住所も分かっているし、そこに書類を送った結果が、不如意に終わったので、ここに来てるんすけど。

「ああ~~~っ、そういう事か。じゃ、私はAACMAの会長を知っているから、直接電話してあげるよ」

え?会長に?いきなりの形勢逆転。大丈夫か。そう言って、李さんは、会長の名刺を見せながら、電話をしている。不通。

「また後で電話しておいてあげるよ。大丈夫大丈夫」。大丈夫と連呼されるごとに、不安が増幅する。

会長とねえ。知り合いって、本当かなあ。上手く行くのかなあ。ぼくの葛藤と懸念をよそに、李さんと通訳の女性は、にこにこ笑っている。恐い。ぼくのAACMA加入の橋渡し役をしてくれないか、という意図は伝わったのであろうか。


実は、全然伝わってなかったのである。それが分かったのは、この会談の3ヶ月後。

5回目の会談の時、李さんは、「会長から、『今は電話しないでくれ。それに、彼の加入決定をするのは、個人ではなく、委員会だ。だから、私に直接、交渉されても困る』と言われた」

そんな事が分かるのに、更に、3ヶ月が経過した。作戦は不発に終わった。


2…滝沢さんの作戦と同様、池田政一に直談判する

日本経絡学会の重鎮・池田政一氏にAACMA絡みの知り合いが居るかどうか書簡で聞いてみる事にした。


知り合いが居たら、その人間に直接聞いて、どういう事をすれば、AACMAに加入出来るかどうかの道標が分かると思ったものの、2週間後に届いた返事には、「面識もない人に、そのメンバーを紹介する事はしません。滝沢君に聞いてみたらどうですか?」と、手書きの汚い字で書かれていた。


さすが重鎮。誰も紹介してくれとは、頼んでないんだが。海外で勤務する日本人鍼灸師の窮乏には、興味がないようだ。「アドバイス、ありがとうございます。仕事頑張って下さい」とだけ書いて、返信しておいた。これも不発。


3…外務省、つまり日本領事館から圧力をかけてもらう

オーストラリア在住の日本人が困っていたら、それを助けるのは、日本領事館の仕事だ。ぼくは、それまでのAACMAとの交信記録を全部FAXし、助けを求めた。


「AACMAという協会に登録申請をしているが、過去の日本人は、問題なく加入出来て、ぼくが出来ないというのは、恣意的ではないか。試験を受けろの一点張りで、理由の説明がなく、個人的レベルで、国家試験を認めたり、認めなかったりするのはどういう訳か。有力者の紹介があればいいという事か。試験は、英語と中国語だけというが何故なのか。日本語でダメな理由は何だ」という趣旨の事を領事館から聞いてくれと書き送った。

結果として、領事館の態度は、「圧力はかけられないので、釈明してもらう方向で領事から手紙を出す」という事になった。


3ヶ月の間に、領事館から、3通の手紙を送った後の結論は、「委員会の最終結論は、『試験を受ける事』。言語については、オーストラリアは英語圏なので、英語を使うのは当たり前。中国語を使うのは、我々の組織は、中国人が中心になって運営されており、日本人からは何の恩恵も受けていない。だから、中国語を使ってもよいという事になっている」

何で『試験を受ける事』になったか、説明してくれというのに。CさんとTさんが、無試験で加入出来た理由は、何だ?ぼくとの違いは何処にある?という事を聞いているのに、AACMAは、この追求を嫌がってか、全く回答してこない。



4…論理的抗議文で徹底抗戦を実行し、相手を諦観の境地に誘導する

去年の11月から、加入出来ない理由を示せ、法的根拠のある人間が、個人的レベルで加入出来ないのは、どういう意味だ。そういう旨を書いて抗議した書簡は、全部で12通。その間、相手は、ぼくの手紙については、4通に1通の割合でしか、返事を寄越して来ない。


そのうちの最新の手紙には、「承知しました。あなたの申し出について、現在、調査中です。はっきりした事が分かりましたら、ご連絡致します」だった。事務局と会長宛に送ったが、返事は、同じ内容だった。

以上、四つの作戦を遂行してみたが、成就したものは、一つもなかった。一応、参考までに経験談を書いてみた。

某年9月、オーストラリア最大の鍼灸機関であるAACMA(Australian Acupuncture Chinese Medicine Association)に鍼灸師登録申請をした。

ぼくは、オーストラリアに来た時、鍼灸の仕事を探していたのだが、偶然、日本人鍼灸師のTさんの治療院で働く事になった。

Tさんは、AACMAの会員である。Tさんが、AACMAに鍼灸師登録申請したのは、1997年。当時も、会員として認可するかどうか保留だったらしい。丁度、その頃、AACMA主催の鍼灸講義をするために、日本から経絡治療学会の重鎮・池田政一氏が、講師として、オーストラリアに来ており、ここを先途と、Tさんは、池田氏に事の顛末を話したところ、2週間後に、会員として認可された。

AACMAへの加入は、外国人には、高い障壁になってきている。だから、ぼくも鍼灸師登録をする時、一番安易だと言われたATMS(Australian Traditional Medicine Society)に申請して、成就出来なかったため、次に、ANTA(Australian Natural Therapists Association)に申請したものの、不完全に終わった。AACMAへの登録申請は、最後の牙城だったというわけだ。

登録を申請して、2ヶ月後に返事が来た。


「あなたの履修内容では書類審査では、入会は出来ないので、11月か2月に行われる試験を受けて下さい。試験は、西洋医学、東洋医学、鍼理論で、全部で600問。70%をマークしないと不合格です。合格すれば、次は実技試験を受けられ、それをパスすると会員になれます。試験の使用言語は、英語か中国語です」という内容。

現在、3人の日本人と1人のオーストラリア人(日本の鍼灸学校を卒業)がAACMAの会員になっている。

Aさん…日本の呉竹の鍼学校を卒業。10年ほど前に加入。元AACMA委員会委員。
Bさん…15年前に加入。経緯については不明であるが、当時は簡単だったと聞く。
Cさん…オーストラリア人。日本の鍼学校を卒業。半年揉めた挙げ句、加入認可。
Tさん…上の事情による。

Aさん、Bさんは、ともかく、CさんとTさんの事情を聞くと、納得出来ない話だ。二人とも試験は受けていない。規則が変わったというなら、納得も出来るが、入会加入のためには、試験を受けなければいかん、という規定が出来たのは、二人の申請以前である。

また、試験の言語が、「英語か中国語」しか選択肢がないというのも、アンフェアだ。


という事情と背景で、抗議の手紙を翌日に出した。日本人鍼灸師の資格は国家資格だ。過去、4人の日本人鍼灸師(Cさん含む)も会員として、認可されているではないか。一部の日本人鍼灸資格を認めんという根拠を示せ。

何で、英語と中国語なんだ。英語だけなら、分かるが、中国語も入れるというのは、差別じゃないのか。試験を11月か2月にに受けろというが、もう11月の試験は、終わってる。

そして、抗議後に、「結果としては同じです。諮問委員会の結論は、試験を受けるように、という事です。次の試験は、4月か、6月です」という回答が、書簡で返ってきたのが、翌年2月。再び、抗議の手紙を投函して、3ヶ月が無為に経過したが、質問に対する回答は、なかった。

そこで、AACMA爆撃計画を草案し、外堀から攻撃をすることにした。

1…AACMA内部の高官と直接的、間接的に接触出来る人間を探索し、懐柔する
2…Tさんの作戦と同様、池田政一氏に直談判する
3…外務省、つまり日本領事館から圧力をかけてもらう
4…論理的抗議文で徹底抗戦を実行し、相手を諦観の境地に誘導する

検討した結果、全部の項目を複合的に実行する事にした。

ここで、オーストラリアと日本の学位の違いについて、説明しておく。

AQF(Australian Qualifications Framework) によって、学位、資格のレベルがはっきり分類されている。

オーストラリアでは、1週間~数週間で取れる資格には、学校から発行される証書には、“Certificate”と書かれていて、ランクが1~4に分かれている。

次に、1~3年の学校を卒業すると、“Diploma”。4年の学校だと“Degree”。という扱いになっていく。つまり、“Certificate”だと軽い扱いとなり、(講習を受けた程度か)という印象を持たれかねない。

オーストラリアの学位を整理すると、以下の通り。

【専門学校】
Certificate I (4~6ヶ月)
Certificate II (6~8ヶ月)
Certificate III (約1年)
Certificate IV (1~1.5年)
Diploma (1.5~2年)
Advanced Diploma (2~3年)

【大学】
Bachelor Degree (3~4年)学士号 

【大学院】
Graduate Certificate (通常半年)
Graduate Diploma (通常1年)
Masters Degree (通常1~2年)
Doctoral Degree (通常3年)博士号…PhD


(財)東洋療法研修試験財団に、英文のはり師・きゅう師免許証翻訳を依頼すると、「免許証」の事を“Certificate”と英訳してある。ぼくが卒業した専門学校の卒業証書、卒業証明書の英文には、“Graduation Certificate”と英訳されてある。

調べてみたところ、文部科学省では、専門学校の卒業証書に記載されている「専門士」という日本語は、“Technical Associate Degree”になるとしているため、オーストラリアの正規の翻訳家に、卒業証書の英訳を依頼すると、“Technical Associate Degree”と書かれる。
正式の英文免許証には、「Certificate」と書かれ、英文卒業証明書には、「Technical Associate Degree」と書かれるため、オーストラリアの学位と一致しない。
自然療法協会などに加入する時の障害になる訳だ。一体、日本の「Certificate」は、「Technical Associate Degree」は、何に相当するのか。
これが何に相当するかで、今後の展開が大きく変わる。つまり、「Diploma」だと、協会加入は困難だが、「Advanced Diploma」や「Bachelor Degree」なら、間違いなく加入出来る。
そこで、日本の卒業証書がオーストラリアのどの学位になるかを査定する機関・AQF(Australian Qualifications Framework) に$150支払って、依頼した。1ヶ月後に届いた書類には、“Diploma”と書かれていた。

これで、日本の鍼灸専門学校のオーストラリアでの学位は「Diploma」と判断された事になる。低く見られた訳だ。文部科学省が、日本の鍼灸専門学校を「Advanced Diploma」とでも英訳してくれていたら、円滑に作業が進んだはずだ。と、思う。

オーストラリア自然療法士協会・ANTA

テーマ:

ANTAについて書いておく。オーストラリアの主立った民間療法協会とVictoria州の鍼灸・漢方師登録協会は、以下の通り。


・AACMA(Australian Acupuncture Chinese Medicine Association)
・ATMS(Australian Traditional Medicine Society)
・ANTA(Australian Natural Therapists Association)
・CMRBV(Chinese Medicine Registration Board of Victoria)

このANTAに登録申請したのは、2003年7月。鍼灸師協会と言っているのは、分かりやすいからで、実際には幾つかの登録が出来るように、カテゴリーが分類されている。何回か書いているが、以下の通りの区分。

AACMAは、鍼、漢方。
ATMSは、指圧、リメディアル・マッサージ、ニューロパシー、ホメオパシー、理学療法、カイロプラクター、オステオパシー、スポーツ・セラピー、中国式マッサージ、タイ・マッサージ、アロマセラピー、リフレクソロジー、アレキサンダー・テクニック、キネシオロジー、スエデッシュ・マッサージなど。
ANTAも、同じようなものだが、指圧がなく、オリエンタル・リメディアル・マッサージというカテゴリーに入る。
CMRBVは、州法による鍼と漢方の登録のみ。

ぼくが申請したのは、鍼とオリエンタル・リメディアル・マッサージ。当時、オリエンタル・リメディアル・マッサージは、リメディアル・マッサージと同じで、患者が利用出来る民間保険会社の数が、約35社。非常に利点であるが、民間保険会社の多くは、オリエンタル・リメディアル・マッサージという治療カテゴリーは持っていない。


ANTA独自の枠なのである。だから、リメディアル・マッサージ師として、プロバイダー申請して、受理してもらわないと、患者は保険を使えない事になる。

リメディアル・マッサージというのは、オーストラリアの主流のマッサージで、内容はオイルを使うスウェデッシュ・マッサージのようなもので、日本語に訳すと、「治療用マッサージ」という感じになる。

ANTAに申請して、1ヶ月ほどして、どうなったか気に病んで来たので、事務局に思い切って電話をしてみた。すると、「えー…、あっ、メンバーになってますよ。昨日、承認されたみたいなので、登録証明書を送りますね」という回答だった。

おおっ!ついにメンバーになったか。いやあ、長かったなあ。ATMSに申請して、不勉強という理由で、入会を誤魔化され、ANTAに入会を申請し、待つこと、半年。長かった。そう思って、ANTAのウェブ・サイトを開き、ドキドキしながら、ぼくの名前を探してみた。

「Shenmen…Oriental Remedial Massage」

ん?鍼(Acupuncture)は、何処に?合点の行かないぼくは、翌日、事務局に電話してみた。たらい回しの末、返ってきた回答は、「(ぼくの卒業証明書が)Certificateになっているし、3年間勉強したんなら、せめてAdvantage Diplomaなら問題がないんだけど…」


Advantage Diploma?また、別の壁にぶち当たった。