終わった劇☆
秦組
『らん』
@俳優座劇場
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古代日本。豪族の強権支配に苦しむ極貧の村を舞台に、「救世主」となることを予言で義務付けられた、ひとりの女の数奇な運命を描く、ラブ&アクションのエ
ンターテイメント時代劇。
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自分の観劇の中で、秦建日子の舞台は特別な舞台です。なのでちょっと前置きをします。
三年前、初めて小劇場どころか舞台で生の芝居を観たのは、今回俳優として出演のみならず演出協力もしている松下修作演の舞台でした。
その舞台に出演していた俳優も、今回何名か出演しています。
松下は、秦組主宰、秦建日子作演や彼の主宰するワークショップTAKE1の公演では役者にとどまらず、演出等でも秦の頼れるパートナーです。
そんなキッカケもあり、秦建日子の舞台を観始め、演劇でしかできない舞台の楽しさを知ったのも、秦建日子の舞台を通してでした。作品も三年前からコンプリートしてきました。
さて、初日と千秋楽を拝見した舞台についての感想をやっと書くよw。
今回はこれまでの会場の3,4倍のキャパ。
客演する主演がアイドルということもあり、客層もぐっと変わるだろうし、普段、劇を見慣れない観客にわかりやすい劇になるんだろな?ということは、情報が公開された時点から想像が付いていたことでした。
かといって、劇団は変わった!とか、商業主義に堕ちたとか、中坊のような青臭いことをいうつもりはありません。
初日でも、千秋楽でも、ラストで鼻を啜る客も沢山いたし、鳴り止まない拍手だったのも事実で、それはそれで一つの成功の側面なのだと思います。
何かを手に入れるためには、当然その代償として何かを手放さなければいけないこともわかるし、有名になればオトナな事情もいろいろあるのもわかります。
そんなこたぁ分かった上で、それでも言っておきたいことがあるので、思ったことを書くよw
はじめに書いたとおり、自分にとっては特別な団体なので、初日を観たときは、正直愕然としました。
本当に感動したものにしか拍手しないというへそ曲がりな私は、当然拍手なんかできようはずもなく。
つまらな過ぎた。これ、本当に「秦組」なのか?と思いました。
初日にクオリティが達しておらず、回を重ねるごとに仕上げて行くというのは、個人的にはプロとしてどうかと思いますが、他の団体でもあることだし、秦の舞台では毎度であるけれども、今回の初日のつまらなさというのは、そういった類のものとはまた違っていました。
秦の舞台の特徴といえば、突き刺さるような台詞、ハッと驚かされる演出、心を抉られるような痛みや、投げかけられる余韻などがあげられますが、そういうものが影を潜めていたように感じました。
各シーンの仕上がりももっとシェイプアップできる気がして、大人数での出入りに時間がかかったりと広いステージを活かしきれていない印象もあり、2時間超えは内容からして間延びして長く感じました。
後半、やっと特徴が出てはくるのですが、観る側の想像を裏切らないという意味でストーリーはえらく普通だし、演出も必然性を感じない部分(清水弘の客いじりとか)がところどころにあったりで、作品通して気持ちを蓄積し、醸成し、爆発するという感じではありませんでした。
ストーリーに乗っかり、予定調和的に進んでいて、「何が起きるんだ?」「どういうこと?」「あー、そうか!」といったいつものような驚きがまったくありませんでした。
秦が意識しているか否かによらず、これが大きなキャパに対する一つの答えなら非常に残念で、劇をつまらないものにしている気がしました。
こういったことは当然、気持ちが仕上がっていない役者の演技による部分もあるのですが、今回に関していうと、間違いなく俳優の問題以上に、脚本や演出自体による根本的なところに問題があるように思えました。
前半から中盤、過度にキャラクターを強調した主要登場人物達の演技は、その役のキャラをわかりやすく印象付けることには成功しているのですが、あまりに漫画的、アニメ的な味付けな感じが強くして、芝居の真実味を削いでしまった感が否めませんでした。
※註:漫画、アニメにだってもちろん素晴らしい演出は多々ある。
一転、後半はシリアスに盛り上げようと試みるのですが、中盤までのもたつき感と後半とのギャップが埋められず、作品を通してのフレームワークが、実にぶれている感が否めませんでした。
俳優についていえば、客演の主演陣がそう上手くないのは観る前から覚悟していたからいいとしても、秦の下で育ってきた生え抜きの若手達をまったく活かせていなかったのは致命的でした。
今回、多くの生え抜きの俳優達は、村人や殿の側近といった役回りですが、「秦組」を観にきたものとして、彼らの芝居が観られないのは非常に残念でした。
キャストが総勢50人超えという事前情報の時点で、どうする気なのか不安ではありましたが、それは悪いほうに的中してしまいました。
確かに役の大小ではなく、1つの台詞でも魅せるのが役者であります。
しかし、それは役者の俳優力はもちろんですが、そういう本、演出があってのことだと思います。
そう言う意味で、今回の舞台ではポテンシャルのある若手の生え抜き俳優陣を、明らかに活かしきれていなかったといわざるを得ないように思います。
若手のこういう使い方で「秦組」として公演する必要があったのか非常に疑問が残ります。
今回の劇は、どうみても客演している主演、矢島舞美のための劇に見えました。
彼女のための劇なら、プロデュース公演で良かったのではないだろうか?
どんな事情かわからないし、大人の事情もいろいろあるのかもしれませんが、主演に客演を据えようがそんなことはどうでも良いが、少なくとも「秦組」として舞台を打つなら、生え抜きで育てた俳優達を精一杯活かせる舞台にして欲しいものだと思いました。
客演の主演陣は、もっともっと役の世界を深く突き詰められたらよかったと思います。
と、まぁ好きなことを書きました。
まとめれば、「秦建日子の育てた若手の芝居をもっと観たかったよ!」ってだけのことですがw
上で書いたような意見は、千秋楽を観ても概ね変わりませんでした。
実は初日を観た直後に書き留めた感想は、役者の演技のクオリティもあり、正直、もっと惨憺たるものであったけれど、さすがに千秋楽では気持ちが大分作られてきていました。
進化すると言えば聞こえはいいのですが、初日クオリティの低いことで有名?wな秦の舞台ですが、最初の数回を価格を抑えたプレビュー公演とかにしてみてはどうなのだろうか?小劇場ではよくあるアプローチです。
他にも稽古を公開して意見を募るワーク・イン・プログレスといった手法も選択肢としてはある。
で、無かったら、初日のクオリティをもっと上げることを真剣に取り組んでほしい。
正直、初日を観た直後、千秋楽をキャンセルしようか真剣に考えたほどですw
安くないチケットで、多くの客は1回しか観ないのだと思う。
で、最後に良かったところをちょっぴりwww
・津軽三味線、ピアノ、サックス・フルートによる生演奏の導入、特に殺陣のシーンでは良かった。
・矢島舞美、演技はまだまだ(これは演出のせいもあるかも)ですが、ラストの殺陣は表情も含めなかなか頑張っていたように見えました。
・小坂逸、築山万有美、滝佳保子、白国秀樹は言わずもがなな安定感、松下修はもっとフィーチャしたかった
・これまでの秦組では主演を務めた工藤里紗、今回は矢島とのダブルヒロインとは謳っているものの、やはり矢島のための劇に見えました。
そんななかで、少ない場面をよく表現していました。実は工藤を褒めるのは初めてです。w
というのも、過去の主演のときの工藤は、どれを観ても同じ印象で、下手ではないのですが、それは工藤へのあて書きにしか見えず、いろんな役を出来てこその俳優力と考えている自分は、工藤の演技力としては未知数というのが感想でした。
ところが、今回はこれまでに比べ、少ない出番、抑え目の演技を、これまでの「素?」と見まごう演技ではなく、役の心情を巧みに表現し新しい一面をなかなか魅せていたように感じました。
・千秋楽の鈴木信二の演技は気持ちの盛り上がりがなかなか良かった。
・横山一敏の殺陣は見ごたえがありました。
・あとは、秦の育てた若手は小さな役であったけれども、みな頑張っていました。もっと君達の芝居をがっつり観れなかったのは非常に残念でしたがw
おしまい