1分で読めるショートショート&ショートストーリー 『エキストラ人生』 -1030ページ目

美の選択

「人は外見ではない」と、広く言われている。

 

しかし日常においては、
無意識のうちに外見で判断していることが、案外多いものである。

 

 

例えば、ファーストフード店に入り、
ひとつのレジには美人スタッフ、

 

もう一つには、そこそこのスタッフがいた場合。

 

同じサービス、同じ商品が出てくるならば、
あなたはどちらのレジに並ぶ?

 

 

私は、もちろん美人スタッフだ。

 


それは差別ではない。

もっと本能的なもの、無意識の選択である。


では、部下を選ぶなら?

 

 

私は、2枚の履歴を交互に見比べた。

 

 

 

採用試験は同点、面接も共に好印象。
学歴、年齢、資格、健康面、運動神経、何一つ取っても2人に大差はない。

 

 

ただ、外見だけ。
外見だけが、大きく異なっている。

 

 

…それにしても、この女性は美人だな。
人事を一任されている私でも、思わず口説きたくなるほどの。

 

 

私は、意を決して受話器に手をかけた。

 

 

 

 

5年後。

 

「今更ですけれど、どうして私を採用してくれたんですか?」

 

 

高橋は、直属の部下として、

とてもいい働きをしてくれている。

 

やはり、あの時の私の目に狂いはなかったのだ。

 

 

「のびしろ、かな」

 

 

「本当ですか?

 

すごい美女と私が最終選考まで残ったって、後で聞きましたけど」

 

午後の美術館は、会社員や学生で混雑していた。

 

「君だから、よかったんだよ」

 

懸命になって育てあげた部下が、目立ってしまって標的にされたり、
スグに職場結婚でもされたら困るからな。

 

 

と、ヤバイことは心の中で言う。
それが大人のエチケットだ。

 

 

「峰不二子は現実にはありえない、ということですね?」

 

 

…高橋よ。

 

この世界、「美」はかえって邪魔なのだ。

 

私は、脇に抱えた戦利品にチラリと目をやった。

 

 

もっとも、モナ・リザの「美」は永遠だがな。