信念の映画「沈まぬ太陽」 | 1分で読めるショートショート&ショートストーリー 『エキストラ人生』

信念の映画「沈まぬ太陽」

3時間の大作、「沈まぬ太陽」を見に行きました。


もしかしたら、全日空が、0.01秒単位で

サブリミナル映像を流しているのではないだろうか。


観客側がそう勘ぐって、スクリーン上にANAのロゴマークを探してしまうくらい、

全編“アンチJAL”な内容でした。


事前に、作者の取材がかたよりすぎているとの評判を聞いていましたが、

それを踏まえた上でも、JAL経営陣の従業員に対するあまりの仕打ちに、

持っていたポップコーンを投げつけたくなるほど。


ひどい話でした。


見終るまで、

(日航関係者がおられたら、大変申し訳ありません)


「もう、JAL機には二度と乗るまい」

「『ぜひ、あなたをキャビンアテンダントに』と言われたって(笑)、お断りだよ」と、

ブツブツ言ってましたよ、私は。



↓ 以降、ネタばれ。


本当に頭がいい人は、

多少、上司や会社の方針に疑問を感じていても、たとえ汚い仕事でも、

命令に従うのだと思います。


反対する者には、昇格のチャンスはないと

よく理解しているから。


そして、最短距離で高い地位へ登りつめたのち、

徐々に方向転換してゆき、体制を変えてゆく。


でも、それができるのはごく一部で、

普通、人には感情がありますから、

明るい未来を待てずに、結局挫折し、衝突してしまう。


上司に楯突いたら、仕事が一切回ってこなくなった。

左遷された。

一日中草むしり、何年間も窓際族なんて話はよく聞きますよね。


それでも、だいたいの企業からの報復は、

国内単位の“嫌がらせ”で終わります。


渡辺謙さん扮する主人公は、

会社側に従業員待遇の改善を働きかけたあと、見せしめとして

支店もないアフリカや中東の地へ、3カ国連続で計10年間も勤務させられてしまうのです。


10年って…

0歳児が小4に、ギャルが主婦になり、

そしてオリンピックが2回過ぎてゆく時間ですよ。


私なら、自社機をハイジャックしてでも世間に不当を訴えるだろう、

この不条理な人事。


主人公は、自身のプライドと名もなき労働者たちのために、

退職することなく真っ向から立ち向かうのです。


そして30年間、肩身の狭い思いをしてきたのに、

最後にまた、50歳でナイロビ勤務を命じられてしまう。


フランス映画以上に、救われない。

ホラー映画以上に、ある種ホラー。

「沈まぬ太陽」なのに、最初から最後まで太陽沈みまくり。


非常に不謹慎ですが、

物語を追っているうちに、


ここ最近のJAL騒動や、あの日航機墜落事故は、

もしかしたら、内部の人たちのうっ積した思いが溜まりに溜まって、

巨大なパワーとなり引き起こされたものなのでは、とすら感じてきてしまいます。


男の足の引っ張り合い、嫉妬は、

なぜここまで執拗なのか。


モー娘の女の戦いなんて、比じゃないぜ。


部下に嫌がらせしまくっている上司も、

家庭では、わが子に「学校で、弱い立場の者をイジメたら駄目だよ」とか言っているのかな。


映画では描かれていない背景が怖いよ。


最後に謙さんは、

自分は会社に振り回されているのではない、どんな環境でも人生を楽しむのだと、

晴れ晴れとした表情で、ひとりアフリカの地へ旅立ちます。


きっと、数々の試練に打ち勝ってきた者にしか得られない、

自信があるんでしょうね。


私は、感動よりも悔しくて泣けてきましたよ。


疑問に感じたのは、

どうしてここまで理不尽な目にあったのに、

主人公は、裁判を起こしたり、公正取引委員会やマスコミに訴えなかったのか、ということ。


当時のテレビや新聞も、

大きく報道しただろうに。


何人かで束になって外部に働きかければ、

企業も世間体を考えて

10年間も海外へ転勤なんて無茶、させなかったんじゃないかな。


主人公は、家族にこれ以上迷惑をかけさせられないと思ったのか。

それとも、逆に企業側に何らかの弱みを握られていたのか。


スクリーンの謙さんに、尋ねてみたかったですね。




男性2人連れのお客さんが目立ちました。


会社員の方は、この映画を見終わった後、

退職や独立を真剣に考える人が多いのではないでしょうか。


興味のある方は、ぜひ

「私は、この登場人物の思想に近い」

「いるいる、こんな人」なんて言いながら、仕事仲間と一緒にご覧ください。


信念を貫くには、相当な覚悟と、家族を巻き込んでの犠牲が必要だと、

骨の髄まで教えてくれる映画です。


JAL関係者の方は、

マイケル・ジャクソン追悼映画「THIS IS IT」を、どうぞ。