不適格者【8】. | 銀のスズメバチ

銀のスズメバチ

失敗作 欠陥品 不良品 劣化レプリカ
ってなじられてきましたが
ひとりみつけられたらもうそれでいいのです

To be alone is to be different.
To be different is to be alone.

Suzanne Gordon

2011年11月05日開始



【8】エピローグ



専門学校を卒業した僕は、就職活動という名の殺し合いに勝って、
割と有名で、大きな会社にうまく就職できた。

今まで、僕の周りを取り囲んでいたのは、僕が好きで選べるものばかりだった。
でも、会社という集団に入ったとたん、選ばざるをえないものばかりが増えていった。

その時になって、ようやく…
ミハルがなぜ、誰も知らないうちに痩せ細っていったのか、
どうしてあんな言葉を僕に遺したのか理解した。


うわべだけでの付き合いを執拗なくらい求めてくる、鳥かごのような職場。
仕事をする気がなく、目上の人にだけいい顔をしてうまく渡っていく同僚。
訳のわからない理論展開でのらくらと言い訳だけをする後輩。
人として大丈夫なのかと本気で問いただしたくなるほど中身のない上司。


気がつくと、そういうものが周りにあふれていた。


そういうものと出会うたびに、僕はそれを無理やり飲み込んで、
心の中で折り合いをつけた。


せめて飲み込みやすいように、必死に噛み砕いて……


その度に……とても胸が痛くなった。
でもそれを繰り返していくと、だんだんと飲み込むことに慣れていく自分もいた。



ミハルも、何かを飲み込めなかったのだろう。
飲み込もうとして、でも飲み込めなかった。どうしても、飲み込めなかった。

飲み込めなければ生きていけない、でもとても飲み込みにくいものを……



ミハルは、きっと向いていなかったんだ。
この世界で生きていくには、あまりにも不器用すぎた。

だから、守ってやらなきゃいけなかったのに…僕は放置してしまった。
ミハルの苦しみが目に見えていたのは、僕だけだったのに。



無理やり飲み込むたびに…

ミハルの最期の言葉がいつも僕の耳によみがえってくる。






みっちゃん みっちゃん

ミハルね うまく飲み込めなかったの

飲み込めなきゃ生きていけないのに



ねえ 教えて

みっちゃんは どうやって 飲み込んできたの・・・?




───curtain call.