中学生が書いたこの文章は、まっすぐで、素直な気持ちが表現されている。

なんか心にグッときたので、ここに残しておこう。


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第56回青少年読書感想文コンクール:作品紹介/4 大阪市長賞 /大阪

◇「一歩を越える勇気」を読んで壁を越える力--大阪市立旭陽中1年・高里陽太君

 「こんなこと無理だ」

と思うことが、日常生活において時々あります。学校や、クラブ活動で出された課題の中で、自分には出来そうにもないと思ったときに、つい口から出てしまいます。自分のことは自分が一番よく知っていると思い、色々な行動をする前からおびえて、無理だと決めてしまっているのです。しかし、この本を読んで、それは自分の思いこみであり、ぼく自身が勝手に作った壁であるのだと思いました。

 この本の作者は、二〇〇九年秋に、日本人初の単独無酸素のエベレスト登頂を目指しました。残念ながら成功には至りませんでしたが、登山になど全く興味がなく体力も人よりすぐれていたわけでもなかった作者が、なぜ世界一の山、エベレストに挑もうとしたのか、ぼくはとても不思議でした。そのような作者だからこそ興味を持ち、この本が読みたくなったのです。

 作者の人間形成は、彼の両親の影響を受けているのだと思います。彼のお父さんのエピソードに、地元の伝説で、温泉が出ると言われている場所があり、一生懸命掘り続けるお父さんの姿を見て、最初は信じようとしなかった町の人も、一人二人と手伝うようになり、ついに、温泉を掘り当ててしまうといった話があります。ぼくは、何て奇想天外で、かっこいい話なんだろうと思いました。作者は、夢はかなうかなわないに関係なく、持つことに意味がある。そして、支え合う仲間ができたとき夢は必ずかなうと言っています。ぼくは、夢は自分一人でかなえるものだと思っていました。でも、それも思いこみであるとこのエピソードを読んで感じました。なぜそう感じたかというと、人間は一人では生きていけないとよく言います。作者も、生きる事は希望を持ち、行動することと言っています。希望を持ち行動することには、支え合う仲間が必要です。したがって、人が生きていくためには、仲間が必要なんだということにつながります。ぼくは毎日、あたりまえのようにご飯を食べ、温かいふとんでねむり、あたりまえのように学校へ行き、勉強やクラブ活動をして過ごしていますが、それらは、支えてくれる両親や先生、友達がいないと、続けることができません。周りで支えてくれている人がいることで、苦しいことや、辛いことを乗り越え、目標や夢に向かってがんばれるからなのです。

 また、作者のお母さんは体がとても弱く、作者が、まだ十七歳のときにがんで亡くなられています。作者が、そのお母さんと交わした約束、

「一生懸命に生きる。弱音を吐かない、そして最期に『ありがとう』と言える人生を送ること」

作者はその約束を守るためにも、マッキンリー登頂を志したそうです。ぼくもこの言葉に、とても力強さと重みを感じました。そして、その言葉の中にも、人に感謝するという他者に対する気持ちが込められているところが、お父さんとの共通点であり、作者の人間形成の土台となっているのだと思います。そのような両親に育てられた作者は、周りには無ぼうだと思われた単独登頂でありながら、沢山の人に支えられていることをいつも忘れず、感謝の気持ちを持ち、エベレストに挑んだに違いありません。

 ぼくが作者の言葉で心を打たれたのは、怖いという気持ちがある自分や、一歩ふみ出すことをためらってしまう自分も含めて、受け入れてしまおうというところです。毎日の暮らしの中で、様々な感情が生まれます。そしてそれらを全て、これでいいのだと思えたときに、物事は自然に良い方向に向かって行くというのです。それは、さぼるとか、なまけるといった楽な方に逃げるという意味では無く、今の自分を否定しないということなのだと思います。また、それは自分を大切にするということにつながるのだと思いました。この本を通して、ぼくは人と支え合う大切さ、ありがとうという感謝の気持ち、そして自分自身を大切にするなどといった人として大切なことに気付かせてもらったような気がします。文章の終わりのぼくはまたここに来る。生きていれば必ず挑戦できる。生きていれば。どんなことでも。という部分に、エベレスト登頂に対する作者の強い気持ちと、未来へのパワーを感じました。

 中学生になって、まだ半年足らずですが、勉強やクラブ活動においてこれが限界、また友人関係でも、この人は友達になれそう、この人とは気が合わないかも……。という心の壁を作らず、色々なことにどんどん挑戦し、困難なことも乗り越えて行きたいと思いました。そして、中学校を卒業するとき、先生や友達に感謝し、

「ありがとう」

と言えるような三年間にしていきたいと思いました。

 (「一歩を越える勇気」栗城史多/著、サンマーク出版)
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