・読み終わった日:2009年6月18日
・人物:
参木(元銀行員、紡績工場職員)、甲谷(参木の友達、材木貿易会社経営)、お杉(元ホステス、売春婦)、芳秋蘭(工場の作業員かつ中国共産党の地下組織スパイ)
・ストーリー:
経済都市として急成長している上海に参木は銀行員として勤務しているが一方で死に場所を求めている。
だらだらとトルコ風呂にお気に入りの宮子がいるので通う日々。
一方で友達の甲谷の既婚の妹の競子にも好意を寄せているので彼女の夫が死ぬことを望んでいる。
トルコ風呂に通っているときにそこにいたお杉にも興味を示すようになる。
またその一方で芳秋蘭というスパイのうわさのある危険な匂いのする女も気になりだす。
上海は世界で一番ホットな都市であり世界の危険を顧みない野心のある人々が利権を求め集まり争っていた。
ユダヤの商人、インド人の巡査、ロシア人の娼婦、イギリス人の水夫、など多人種が存在するがその中には享楽、矛盾、格差、退廃、美食、堕落、残酷、美女、凶騒などが資本主義の拡大とともに広がり彼らはそのことに戸惑い、かつ取り残されたきないという不安を紛らわすためにまた振り払うために享楽に走り同じ女を取り合いしていた。
かたや女性たちも好き好んで上海に来たわけではなく苦しい生活から抜け出るためよりよい暮らしを求めて新天地に来た訳アリの者ばかりだった。よって寂しさが高じて客商売という境界線を越えてお客に恋愛感情を持つものもいた。
参木がお杉を気に入ったということを耳にしたお柳はお杉をクビにしてしまいお杉は売春婦になってしまい参木は責任を感じる。
しかし芳秋蘭のことを忘れられず追いかけるが参木は銀行をクビになる。
甲谷の口利きで綿工場で働くことになるがそこで芳秋蘭をみつけ会うが彼女の口から実は共産党員だったと言われかつ参木に対しての好意を打ち明けられる。
そんな折り工場でリストラをきっかけに暴動が起き(五・一〇事件)死傷者が出て芳秋蘭と離れてしまう。
参木は暴動から逃れながらも芳秋蘭を探すがそこで同じく避難していたお杉と会う。
逃亡に疲れた参木は一人寝るがお杉は暴動が治まることを望む一方治まると参木はここから出て行ってしまい参木に会えなくなると思い暴動が続くことを心の中で望んでいた。
・感想:
いまひとつのめり込めなかった。初めは読んでいて分からなかった。
著者が師匠で上海帰りの芥川龍之介から見に行ってこいといわれ行ってみて刺激を受けてきたらしい。
暴動のシーンを写実的・映像的に文章化したところが当時画期的だったらしく評価されたようだ。
嗅覚の鋭い野心家はめざとく上海に集まったのは今も同じか。
そこは資本主義の急速な拡大とイケイケどんどんの精神が合体する。
それは必ず精神的・物質的なインフラが追いつかないものだ。
多額のお金が動き喜び興奮しその表裏一体で不安も伴う。
しかしそれが媚薬となり歯止めがかからずのめりこむが気付いたときには既に精神の内部被爆が起きている。
その不安を打ち消すには性欲で解消するしかない。
そこには真の友情はなく裏切りと陰謀と自分本位の欲望が跋扈する。
同じ女をゲーム感覚で奪い合い死体が街に転がっても平然とできるほど精神が麻痺しその死体がビジネスの道具となってしまう。
著者は遠巻きに資本主義を批判しているのかもしれない。
最近は平等・権利・民主主義・自由資本主義に疑問を持っていたのでその後押しの作品となった。
個人的には上海を含め中国は盛者必衰でいずれは破綻をきたすと思うが。
だから上海にビジネスチャンスを求める気持ちが分からない。
以上ウンチクらしきことを書いたが何か男の身勝手と我儘を感じる。
男の小生が言うのが何だが苦しくなって性欲に走るのは仕方がないでは女性は納得しないのでは?