『不仲の母を介護し看取って気づいた人生でいちばん大切なこと』



という本を読みました。







人の数だけ、生まれ育った家庭があります。



もちろん、不仲だったり、様々な経緯があるご家庭に育ったりする場合だってあるでしょう。



ご家族の誰かと不仲である場合に、そんなご家族がもし重い病気となり、終末期となったら……? そのような場合に起きることを、著者の川上澄江さんはご自身の経験から詳細に綴っておられます。



拝読して思ったのは、不仲=愛がない、というわけではない、ということです。



なかなかどうして、川上さんは不仲のお母さんに、おそらく並の「仲が良い」娘も顔負けの貢献をされます。


それは川上さんがフリーライターをされておられて時間の融通がある程度可能だということからは説明ができないものです。


むしろ繰り返し、文中で何度も、傍にいてあげられない申し訳なさを表現されており、不仲=しかし愛はとてもある、という場合があるのだということを改めて実感させてくれます。



私自身も大きく頷いたのは、川上さんがお母さんの世話を通して気が付かれたこの一節。


◯こちらがしてあげたいことと、相手がしてもらいたいことが食い違うこともある
◯相手が何をしてほしいのか、その要望によく耳を傾ける
◯自分にできることとできないことを整理する
(以上P108)


まさしくこれは現場でよく見かけるものと、それに対応する智慧と言えますでしょう。



川上さんのお母さんは紆余曲折あって、湘南中央病院の緩和ケア病棟に入院されます。


そこでの主治医が、この本の監修をしていらっしゃる片町守男先生です。


終末期医療に従事している医療者として、まさしくその通りと思い、皆さんにも紹介したいと思ったのはこの一節です。


片町先生の言葉。


「死期が近くなると、よくご家族は、1秒もそばを離れてはいけない気持ちになると言いますが、実際にそれがいつになるかは、誰にもわからないものです。トイレに行っている間に息を引き取った、と後悔なさる人がいますが、大切なのはそれまでの過程であり、その瞬間ではありません。その時々に、できることをしてあげればいいのです。見た目には意識がないようでも、そばで声がしたり、体を触られていたりすると、わかるものです。だから、なるべく普通に声をかけたりして、接してあげてください」(P228)


看取りにおいて「大切なのはそれまでの過程であり、その瞬間ではありません」私も強くそう思います。


また50代の病棟看護師の増田さんはこう川上さんに伝えます。お母さんの苦しむ姿をみて苦悩する川上さんに


「つらいけど、これはね、生まれてくる時と同じくらい、大変なことなんですよ。ホスピスとはいえ、映画みたいにはいかないんです。今の社会では病院で亡くなる人が多いから、普通の生活をしていたら、なかなか見る機会もないものね」(P234。強調ブログ筆者)

「心遣いが痛いほど伝わって来る」と川上さんは感じました。



誰かが亡くなるということは大変なことです。


たとえ不仲でも、いや不仲であるからこそ余計に大変な場合だってあるかもしれません。


いや逆に、仲が良くても大変で、「あんなに仲良しだったのに」と気持ちのすれ違いに悩むことだってあります。長く連れ添っても、意外にわからないことや予想外のことはたくさんあるのです。


それだったら、むしろマイナスから始まり、分かり合えないことが分かっている不仲の関係のほうが良いのかもしれません。


結論、どちらでも大変かもしれませんし、しかしどちらでも、すれ違ったりわかり合ったりを行ったり来たりしながら、良い時間を持てる可能性があります。


あとがきの片町先生の言葉は、2000人を看取ってきた先生の言葉は鋭く、そしてあくまで温かいです。


『誰かの死をきっかけに、家族の確執や問題がすべて解消するというケースは、正直なところ多くはないと思います。「死ぬまでに友人と仲直りしたい」と実行に移す患者さんはいますが、肉親だとかえって難しいのでしょう。

家族関係はそれまで何十年の積み重ねですから、最後の数週間で解消できるほど簡単ではありませんし、私たちも無理に解消しようとは思いません。そういった意味では、川上さんとお母様のような確執は決して珍しいケースではありませんが、最後まで真摯に向き合おうとされる川上さんのお姿には胸を打たれます』(P252。強調ブログ筆者)


私たちの人生は、どのような人生においても、課題を与えられています。


私は常に、その課題と真摯に向き合う人たちを見続けてきました。大切なのは答えを出すことではなく、大切な人たちと答えを出そうとするそのプロセスなのだと思います。


川上さんの課題は、不仲のお母さんと心を通わし看取ることでした。


似たような課題に悩んでいらっしゃる方は、目を通して頂くと良いのではないでしょうか。


それでは皆さん、また。失礼します。