2月の記事、もう少し上げておきます。



17日
セコンドのカラがやる蝶々夫人のプレミア。
私は明日アパートを出なければいけなかったので、
その支度をしながら劇場に向かう。

予定では明日からワルシャワとクラクフに行く。それで24日にポーランド発で日本に帰るつもり。

ところが旅の最後はここで終わりたいという欲が出てきてしまった。
できたら最後の1週間もここにいたい。

それくらいここのヨーテボリは素敵な街なのだ。

響子さんの助言もあり、
オーケストラでバイオリンを弾いているユキさんに
しばらくおうちに泊まらせてとお願いするため
意気込んで(?)劇場に向かう。
忙しそうだったら、ヨーテボリのドミトリーを探すか、
もしくはせめてスウェーデンということで、
知り合いのいるストックホルムに行ってしまおうと、歩きながら考える。


次の日が予定が分からないなんてことは、
東京にいたらほとんどない。

劇場は1年半とか2年、
下手すると3年先のを予約するものだし、
逆算して予定を入れるので、
だんだん動かせない予定が増えていく。

でも明日自分がどこにあるか分からないって、
なんか、好きかも。


そんなことを考えていると、劇場に着いた。

そして、響子さんと会う。
今日はバックステージツアーに連れて行ってもらう約束をしていたのだ。

あまりにも劇場内が広いので、
あとについて行きながら、
迷子になりそうとフラフラしつつ、
ウィッグ、帽子、靴、コスチューム、コスチューム倉庫、
生地、染物、小道具、大道具のセクションと周っていき、
ついでに奈落まで行って
作業場を見学させてもらう。

自分がここのスタッフだったら、衣装かなぁと
ボヤボヤ考えながら、
最後は舞台美術のデザインの部屋へ。
中にはCADを使って、
次の舞台美術の3Dを作っている方がいて、
画面の階段と、実際の図面を見せてもらう。

すると強度のためか、画面のCADでは柱が太くなったり、数本増えている。

これってこの方が計算して支えを足しているのかなぁ?
そんな疑問を響子さんに口にすると、
聞いてみたら?英語で大丈夫よと言ってくれる。

ところが思わずとっさに、

「え、英語で、な、なんて聞けばいいかわからない…」

と、ここにきておバカ発言をする。

ヨーロッパきて八ヶ月も経ってるんですけど、、
日本人と一緒にいて気が抜けていたこともあり、
何て言えばいいのか文法が全く出ず、
お願いしてしまった。。

響子さんが尋ねてくれている間、
恥ずかしいなと、努力しなかった自分に激しく反省…。
これくらい、がんばれ、私、、

それにしても、この舞台美術のデザインがすごく良くできている。
私は時期的に見られない公演なんだけど、
かなりスタイリッシュな作品になるんだろう。

お礼を言って、作業場を背にする私たち。

たくさんのセクションが見られて大満足な反面、
こんなに多くの人が働いているのかと
改めて驚かされた。

メインの蝶々夫人であるナンの言葉が頭をよぎる。

「演出家は、音楽、照明、衣装、、すべての分野に長けていないと」



最後はブループラネットという演目を
リハーサルしているオーケストラにお邪魔し、
よそ者のくせに座席で堂々と観るという、
ふてぶてしさを発揮した。




その後ユキさんに会って事情を説明、
無事泊まらせてくれることになった。


それから素敵なカフェに連れて行ってもらい、
ごはん。
何を話したのか覚えてないほど、
話題がコロコロ変わりながら、
確か先日頂いたサッカー選手の本の話をした。
とにかく話題が尽きない。


その後別れてから一度家に帰り、
また部屋を片付けて着替え、再度出かけようとした時、
最後だから紅い口紅でもつけておこうと、
ふと思い立って化粧ポーチに手を伸ばす。

この口紅はロンドンで買った。

もう10年くらい前に、花街で出会った
びっくりするほど綺麗なお姉さんがつけていた
口紅に色が近い。
私は何かあるごとにそのお姉さんに近づきたくて、
ずいぶん似ている口紅を探していたんだけど、
結局10年経ってしまい、
数ヶ月前ロンドンで、
ブランドも、きっと値段も違うであろう
とっても安いこの口紅を見つけたのだ。

私はあの時のお姉さんの年齢も、すでに越えてしまっている。

だけど大切な日、
脳裏にこびりついたお姉さんの顔を想像しながら、
彼女の顔に近づけないかなと未だにジタバタする時がある。


そうして、プレミアを客席から迎えた夜。
私がしょっちゅうみている一番上の下手から、
みんなを見下ろしながら
ああ、これで最後だなと感慨に耽る。


相変わらず、
シンガーの歌の上手い下手は、わからない。

オーケストラのいい音かどうかも、わからない。

私がわかるのは、舞台の上の人たちが今日は
普段とどこの動きが違うかってことくらいで、

オペラの稽古を見てきて一体何がわかったのか、
自分自身も、わからない。

とりあえず、わからないながら目に焼き付けておく。

終演後に食堂にいると、帰り支度を整えた主演のカラが、荷物を持って横を通り過ぎた。
声をかけて、ハグするふたり。

私 「これから飲みに行くけど、一緒に行く?」
カラ 「今日家族が来てるの、ごめんね」
私 「ああ、わかった。とにかく、プレミアおめでとう」
カラ「うん…今日の、どうだった…?」

おずおずと尋ねるので、

It's so great and fantastic. I became emotional because a song of yours is beautiful. So, I respect you.

と、超簡単な英語で答えると、
カラがとっても笑顔になってすっごく喜んでくれた。
お互いこんな英語でしか話せないんだけど、
話せない同士、また通じあう部分があったような気もしなくもない。

カラは、またメールしていい?と言ってくれたので
もちろんと答え、そしてバイバイした。

すると彼女はまた急ぎ足で去っていく。
きっと数ヶ月ぶりの家族との再会なのだろう。

それから、日本人同士テーブルを囲んでバーで飲み。

明日はアパートを出て、ユキさんちに行く。
別れ際、寒い道路で響子さんが
移動する荷物、手伝うことあったら言ってねと
言葉を掛けてくれた。
自分は酔っ払いながらも、また寂しくなった。

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