またすごい新人が入ってきた。
その人はパッと見年齢38~42ぐらい。
3年はカットしていないであろう、腰まである長~~い髪を、愛おしそうに見つめながら、頭皮をバリバリバリッとかきむしる。
その頭皮から5センチぐらいは、油でベットリ。
家では間違いなくグレーのジャージ上下を着ていて、そのジャージは年代モノすぎて、洗濯によるまさつの‘イボイボ’がそこかしこに出来ていて、ジャージのすそはゴム入りで、愛用の自転車は、前カゴは標準装備だけど、後ろにもオプションでカゴをつけていて、そのカゴに入っているエコバックは、当然ポイントをこつこつ貯めて、‘意外とこのバック、使い易いんだよね’とかいってミスドのバックを使っているのが、容易に想像できる人物。
ついたあだ名は‘オノ・ヨーコ’
‘こりゃまた陰気臭いのが入ってきたな・・・’
というのが私の第一印象。
すでに噂は耳にしていた。
「新人3人入ってきて、すでに二人辞めた。」
㋝「で?残ったのはどうよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。
すごいよ。」
㋝「・・・・・・・・・・わかった。みなまで言わんでもいい。」
本当にみなまで言わなくても、数秒横に座ってみてるだけで、痛すぎるのがひしひしと伝わってきた。
うっかり横にすわった私。
さっそく仕事開始してたら、私が2件終わってるのに対し、オノヨーコは1件の半分も出来てない。
イラッ。
(何やってんだ??何で固まってんだ?こいつ・・・。)
覗きこむと、どうやら入力できる範囲が、文字数を越えているため、どうしていいか分からない様子。
私にはそう見えた。
でも実際は違ってた。
そもそも字が読めなかったんだ・・・オノヨーコって。
イラッ。
わからないことがあるなら、回りに聞けよ。
でないといつまでたっても何も出来ないじゃないか。
イライライラ。
オノヨーコ。固まり続ける事、15分。
あんたね、ちょっとした冷蔵庫で冷やしたフルーチェが出来上がる時間よ?
何やってんの!?
ムキィィィィィーーー!
㋝「ちょっと!!どうしたのよ!?時間かかりすぎだよ!?わからないんだったら、社員さんにでも回りでもいいから聞いて、さっさとやりなさいよ!」
オノ 「は、ハイ!!申し訳ございません・・・。」
申し訳ございませんって・・・。
あたし、あんたのお客様じゃないんだけど。
声、でかいんだけど。
その後。
横に座ってるから、いちいち視野に入るんだけど、どうも電話の問い合わせにも、誰にも何も聞かずに、対応してる。
入って1ヶ月もたたない新人が、一人で対応できるはずないんだけど。
もうこうなったら完全に私はオノヨーコの虜。
本来の耳の機能を遥かに上回るほどの能力を駆使し、その耳の大きさ通常の2・5倍はあんじゃねぇの!?ぐらいのダンボで聞きまくってた。
(え?アンタ今、なんて言って返答した??なんか・・・おかしくないか・・・??)
社員にいいつけた。
オノ・ヨーコ、席移動させられてた。
社員の横、べったづけで座らされてた。
そして彼女にはある指令が出された。
‘電話も出なくていい。書類も触らなくていい。ただ、ファックスを取りにだけ行って、皆のゴミを回収・シュレッターだけかけて。’と。
ナンデス??ソノシゴト??
ソレデ、ワタシトオナジ ジキュウデスカ??
燃えてなくなればいい・・・。
しかしな。
オノ・ヨーコは只者じゃなかった。
ファックスの目の前にいるのに、鳴ってるのが気づかない。
取りに行ったつもりが、‘鳴ってるファックス、それじゃねぇーよ!’
驚きのソラ耳。
皆のデスクには、それぞれ破棄する書類をカゴに入れてて、適当に回収してシュレッターかけるんだけど、それをいそいそと始めたオノさん。
たくさんの書類をカゴに入れすぎて、重すぎ。
結果、バサバサバサ~~ッつって仕事中の人のデスクにぶちまける。
「す、すいません!!」
と慌てて回収。
したらしばらくして誰かの悲鳴が聞こえた。
「ない!!ないないない!!今さっきまでココにあった書類がないよーーー!」
全員嫌な予感がした。
さっき、オノさんってゴミを回収→まき散らかす→慌てて回収→シュレッター。
もはや疑う余地なし。
ご本人に確認。
本人無意識だが、間違いなく犯人だろう。
結果。
3月いっぱいで契約打ち切り。
クビですね。
そりゃそうだろうよ。
今までここまで何やってもダメな人、初めてみた。
今まで何の仕事して生活してたんだろう・・・。
生きてるのさえ不思議だ。
もっと不思議なのは、実は33歳でちゃっかり彼氏がいる事が、一番不思議でかつ腹立たしい事。
あの左手にチラリと光る指輪は、‘見栄’ではなかったのね・・・。
チッ。
ゴン?ゴン~~~!!
触らせてくれ。
癒してくれ。
おまいしかいないよ、あたしゃ・・・。
寝てるじゃないか・・・。
案の定ランキング参加中!!