238.リセット | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

238.リセット

彼が入院してから1週間後の朝、彼からの着信で目が覚める。
携帯を見つめ、無感情のまま見つめ、身動きとれずに見つめた。
しばらくなり続けた着メロが鳴り止みため息一つつく。
元の位置に置き直し、また鳴る携帯をゆっくり持ち上げる。
今度は直ぐに鳴り止み、不思議を残す。
今の短い着信はなんだったのだと、私に携帯を開かせる。
メールだった。
何故直ぐに気づかなかったのかと、自分を戒める。
とりあえず携帯をまた置き直した。
何も聞きたくはない。


置き去りの携帯は、役目を果たさず時を越える。
<昨日退院しました。心配かけたね。今日から出勤してきます>
3日前の彼の言葉。
それだけだったのかと、やっとメールを読んだ私は肩を落とす。
<よかった。通院するの?完治したのかな?ウチ、少し熱が出てて返事返せなかった。仕事、大丈夫やった?あんまり無理しすぎたらあかんよ。5月会えそう?ゆっくりデートできたらいいね>
彼が普通だったから…。
聞かずにいられたらそれでいい…。


それでいいわけなんかなくて、返事の返ってこない彼から喜べる言葉が返って来る筈もなくて、それでも言葉が欲しくて、失いたくなくて…。
<ウチ、まだ無視されてるのかな?それとも今までみたいに忙しいから返事しないだけ?ウチ、ゆうじと話してたいんだ。それだけで頑張れるの。返事が欲しい。言葉が通じないと生きてる気がしなくて不安になる。今は何を考えてるの?友達には話せて、ウチには話せないことなの?好きだと言われて無視されて、理解が追いつかなくて、どうしていいのか解らない>
送信しましたと映し出す携帯の液晶をしばらく眺めた。
自分がどんな言葉を彼に伝えたのかなんて覚えてはいない。
それは嘘。
心に詰まる想いが崩壊するのを恐れて必死に忘れようとした。
だけど、送り届けたこと、携帯の液晶を見ながら何度も確かめた。
送信しました…取り消せない。
私の意志に反し、携帯の液晶は移り変わる。
受信中…。
しばらくすると私が彼用に設定した画面に切り替わり着メロが流れ始める。
そして、またさっきまで眺めていた、送信しました画面に戻った。
そう、私が送った言葉の返事が、今届いた。
携帯は閉じれない。
逃げない為に、何度も何度も確かめた。
彼の返事を見なくちゃいけない。
<返事できなくてごめんな。せのりの事は確かに好きやけど、今しばらくは誰とも付き合ったりしたくないんだ。一人で考えていたい。勝手なことばかりでごめん。色んな意味でリセットできていなくて、正直焦ってる。返事はなるべくするようにするよ。ごめんね、せのり>
そっか…そうだった。
彼の言葉に一人納得した夜だった。
きっと誰にも理解できない思いなのだろうなと、笑いがこみ上げた。


今まで書き溜めた彼への想いが詰まった日記を読み漁る。
やっぱりそこには確かな好きがある。
私は彼を信じてた。
疑うことなんて一つもないし、不安に思うことなんて微塵もない。
彼を失うことなんてないし、彼はずっと側にいる。


漠然と思う。
彼が私に恋をすることはないだろう…。
もう少し彼を困らせても罰は当たらないよね…。

だって、好きになっちゃったんだもん…。



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