193.プラトニックな言い訳 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

193.プラトニックな言い訳

私は少々プラトニックなところがある。
特に一人でいるとかなりプラトニックであると思う。
プラトニックに語ればすべてが許されるような錯覚。
プラトニック・ラブ、つまりプラトン的恋愛。
一般的にセックスレスと解釈されているが、元々の意味合いは異なる。
昔、少年に恋したHGプラトンというオッサンがいたんだ。
このオッサンは現代の教科書に名言を残すほどに良いことを言った人なのだけど、突き詰めれば恋するオッサンの言い訳に過ぎない。
少年の肉体を「美」としたのだ。
そこに不純なものはないとしたのだ。
そして勝手にそれを「イデア」とか呼び出して、自分のHGっぷりを正当化したのだ。
少年を愛する為に。
(プラトンについての説明は面白おかしくしています。真面目に受け取って倫理テストで赤点とらないように!)


私は彼を好きでいたいが為に彼の好きな所を必死で並べる。
昔彼に言われた事があった。
「俺じゃなくていいじゃん」その通りかもしれない、理論上。
言い訳を繰り返し、惚れた弱みは見せない。
昔彼に言われた事があった。
「恋愛じゃなくてもいいじゃん」その通りかもしれない、理論上。


そんな事を言う彼も勿論かなりのプラトニックだ。
私たちはプラトニックな言い訳を繰り返し恋愛を始めた。
相手のイデアを尊敬し、それがあるから愛しているのだと…。
それがあるから一緒にいるのだと…。
何もなければ…ただの肉体関係に過ぎない事を否定する。
浮気を肯定する。
私たちだけじゃない、世間のラブラブカップルだって何故好きですかと聞かれたら、とってつけたような答えを並べるだろう。
掘り下げられた質問に何処まで答えられるか疑問だ。
私たちは許されぬ恋愛だからこそ、何処までもその質問に答えられるよう相手のイデアを探した。
言い訳なら負けない。
批判されても負けない強さを持つ。
プラトニックが浅いと不安になる。
彼の事が何故好きなのか答えられないと不安になる。
彼の言動の理解に追いつかないと不安になる。


彼は私が恋する為に在るんじゃない。
私は彼が恋する為に在るんじゃない。
永遠の愛など誓えない…。
私はどんどん変わっていくから。
彼もどんどん変わっていくから。


何を求めてセックスする?
ただのセックスに頭を悩ます。
彼が変わってしまったら?
新しいものを見つけて頭を悩ます。
そして必死に彼のイデアを探す。


「俺、なんかした?」
彼は不安げに私の頬に手をあてたまま顔を見つめる。
私は彼を見つめ返す。
その内目の前の彼を見失いそうだ。
だから少し彼に触れておこう…。
今はプラトニックな言い訳は置いておいて…。
「ねぇ、ギュッてして」
私は彼の目を見つめたまま立ち上がった。
彼の手が、立ち上がると同時にそっと私の体を霞め這う。
彼の手の行き場を伺う。
彼は戸惑いながらそっと私を引き寄せ、抱きしめる。
彼の戸惑いが伝わる。
徐々に強く強く彼は私を抱きしめる。
「せのり…俺…ごめん」



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