55.念入りの支度
家に着いたのは7時を少し回っていた。
正直泣きそうだった。
半べそかいてた。
少し泣いた。
玉ねぎが目にしみる。
くそ~!あのエロ上司!と恨みを込めてニンジンをたたき切った。
家事を怠らないと決めた私は、「家族に温かいごはんを!」を心に誓っている。
だから、今夜は煮込み系。
食べる時温めてね的カレーだ。
夕飯時に家を空けるときは煮込み系だ。
温かけりゃいい。
どうせ、味の善し悪しなんて馬鹿な我が家の男どもには判るまい。
野菜をレンジに突っ込み、野菜をすり潰しスープを煮込む。
最悪だ、汗だく。
もう玉ねぎの所為にして本当に泣きたい。
野菜スープにレンジで温野菜にした野菜をぶち込んでルーを溶かして完成させた。
・・・・今此処で懺悔する。
完成はしてない。
ただのカレールーを溶かしただけの汁でした。
だけどどうでもいい。
時刻は7時半。
葛藤だった。
化粧直しをするか、シャワーを浴びるか。
答えは一つ。
葛藤なんてあってないようなもの。
シャワーを浴びるに決まっている。
シャワーを浴びだすとコッテリ綺麗にしたくなった。
いや、別に何かを期待しているわけでもない。
が、何か汗とカレーの臭いが染み付いているような気がしてゴシゴシ体を洗った。
しっかり頭も洗った。
トリートメントもしたくなった。
鏡に映る自分を見て、体中の無駄毛をチェックした。
チェックしていたら、ネイルが剥げてることに凹んだ。
爪の形、逆剥け、色んなところに目がいった。
結局、急いでいたにも関わらず彼からの電話で慌てて風呂から出た。
「準備できた?そろそろ行っていい?」
「待って、もうちょっと待って。お願い」
「どのくらい」
「1時間・・・30分でいい。駄目?」
「もうそのまま出といでよ」
「やだ、裸だもん」
「服くらいは着ろ!」
「いや、化粧したいの」
「わかった。コンビニ寄るよ。何かいる?」
「うぅん、急いで準備するから」
あと5分あと5分で結局9時少し前まで彼を待たせた。
「お前ん家って何処っけ?」
「忘れちゃったの?」
「1年以上も前やしな」
「うんとね、中西さん家の前」
「中西さん知らんし・・・」
「だって、目印ないもん」
「あぁ!あのごっつい家の?」
その電話を切った5分後、私は家の前で待つ車に走りよった。
「何してた?」
「その辺ブラブラ。久しぶりの田舎を満喫」
「楽しかった?」
「あぁ、楽しかったよ!!」
「怒ってる?」
「怒ってるよ!何か言うことあるんじゃないの?」
「ごめんなさい」
「えぇよ。お腹すいたか?」
「うん、めっちゃすいてる」
「エビはないかもしれんけど、行く?」
「うん」
彼の顔をまだ1度もみていない。
踊る心臓。
悔しさよりも、今度は嬉しさで泣いてしまいそうだった。
会えてよかった。
待っていてくれてありがとう。
挙動不振に落ち着かない。
さぁ・・・何を話そうか・・・。