53.恋人という契約 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

53.恋人という契約

「俺の事信じられへんの?」

男が私の別れようメールで、相手を確認することなく携帯から叫び声を上げている。

「なぁ、信じられへん?信じてよ」

私は何も話すことなく聞き入る。


「せのり?」

何故私の名を呼んだのだろうか。

私が何も話さない所為で、相手が私ではないような気がしたか?

「何?」

「聞いてる?」

「ずっと聞いてるけど」

「何か話してよ」

「話すことないけど、何を話して欲しいの?」

「何で別れようとか思うわけ?」

「女がいるから」

「いないって」

「ふーん、でも不安になるような人は嫌」

「どうしたら安心してくれるの?」

「無理なんじゃない?」

「なんで?」

「仕事場で、あなたの噂を気かな日はない」

「・・・・・とりあえず、もう少し考えてよ。嫌やから」

「考えても同じだけど」

「とりあえず、考えてお願い」

「わかった」


別れられなかった。

噂だと押し切られたら証拠が必要になってくる。

私も完全に別れられるよう考えようと思った。


彼女って存在は厄介だ。

初めてなってみて、よく解かった。

理由なんてない。

無条件の約束のように思えた、恋人という契約。

簡単になれるけど、別れるにはそれ相応のものが必要なんだ。

多分、この男に「好きじゃなかった」と言っても、私は別れられない気がした。

それでもいいと押し切られそうだ。


今まで条件付の付き合いしかしてこなかった。

別れるのは簡単だった。

条件を満たさなくなればそれまでだったし、私も反論することもなかった。

相手も勿論そうだ。

遊びの付き合いって楽だったな。

私は何故、こんな厄介な彼女になんてなりたかったんだろう。


考えれば考えるほど解からなくなった。

私は何故この男と別れようとしているのだろう。

そんな根本からの悩みに苦しみだす。

もともと、私は何故この男と付き合っているのだろうか。

何も変わりはなかったはずだ。

彼女になりたいと願っただけ。

そう、全てはそこからズレていた。


信じる?

男に女がいないと私が信じることで、私はこの男と付き合っていけるのだろうか。

違う、それは違う。

たとえ、私だけを愛している男だとしても私はこの男を愛していない。

私が好きなのは・・・。

好きなのは・・・。

ため息が出る。

自分が好きになった人でも、その人が違う人を好きなら駄目じゃないか。

私は何故、そんな無駄な恋愛を繰り返そうとしているんだろう。

もしも、私がこの男を好きになりさえすれば、万事解決・・・なのか。


もう少し付き合っていれば、幸せになれるかもしれない。

簡単に別れることの出来ない契約を私は結んだんだ。

将来安泰じゃないか。

でも、辛いよ。


私は一体何をそんなに苦しんでるんだろう。

癒されない心が痛みを教える。

何故お前はそんなに痛がってる?

私には自分の心がみえない。


バーテンダーの彼に会うまで、何も考えないでおこう・・・。

きっと彼は、知ってる。

私の心を視ることもできるし、恋人の契約破棄の仕方も知ってる。


あと・・・1週間。



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