52.女が3人 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

52.女が3人

仕事が終わり、私は控え室で上司を待っている。

私が所属している派遣会社だけは、送迎がなかったからだ。

この会社には社員3名と数名のパートと私、それと他2社の派遣スタッフで構成されている。

派遣スタッフはそれぞれの会社からの送迎で帰ってゆき、パートも自家用車で帰ってゆく。

私はいつも、社員が行う最終業務が終わるのを一人待った。


「せのり、今日のおやつ~」

社員の二人が私が昼に残した分の菓子パン目当てにたかってくる。

一人は同年、もう一人は一つ年下だ。

「ってか、お腹すくなら自分で持ってくればいいじゃん」

「どうせ、残すんやろ!捨てられる運命の菓子パンを救出してるんやん」

「はぃはぃ、ありがとうございますぅ~」

社員は本社に戻りまだまだやる事が山ほどあるのだと毎日愚痴っていた。

私はいつも愚痴聞き役と餌やり。

「グダグダしてたら、また上司に怒られるわ」

菓子パンを食べ、まだ飲み込まないうちに本社へ戻ってゆく。


「ねぇ、まだ帰らへんの?」

「もぅちょい。手伝ってくれたら時給つけるけど~」

「どのくらい?」

「上がり取り消し残業扱い」

「異議なし!」

私はこうやって毎日残業代を稼いでいる。

商品の在庫を数えたり、戸締りをしたり、上司の作業中バインダを持ったりとその程度しかやってないのだけれど。

いい仕事だった。


「とりあえず、バインダ持ってついてきて。んで、数字書いて行ってくれたらえぇから」

「OK」

私は上司の後について言われたままに作業した。

「そういえばさ、山田(仮名、彼氏)とはどうなった?」

「あぁ、別れよっかな~って」

「女か?」

「あぁ、それは何か別れたみたいよ」

「別れられる数か?」

「へ?」

「手当たり次第って感じやぞ」

「それは何処まで噂」

「確認済みで3人」

「ふ~ん」

「そんな深刻にならんでも!別れたらえぇねん、あんなやつは」

別にへこんだわけじゃない。

面白くなって来たと心の中で笑ったのだ。

「で?別れてどうするん?」

「どうするって?!」

「体が寂しくなったら相手するけど」

「間に合ってます」

「ほぉ~、お前もおるってことか」

「やってません!!」

「セックスしてくれへんのか?」

「あのね・・・全ての男がそうじゃないんです」

「あ~そ~、まぁその内迫ってくるんじゃないの?」

「迫りません。やるなら同意のもとです。エロオヤジ!」


この上司はバーテンダーの彼に似ていた。

顔とか容姿とか雰囲気とかではない。

沢山の言葉を知っているところ。

つまり、頭の回転がいい。

私はいつも上司に生意気なことを言うが、常に手のひらの上で転がされていた。

口答えが出来ない。

返す言葉を知っている男。

ただ、彼のような魅力はない。

彼と唯一違うことは、上司の言葉に深さはない。

浅く広い。

嘘も目立つ。

だが私は上司にはじめて会った時から、この男には逆らわないでおこうと決めていた。

口では勝てない。

勝とうとは思わない。

が、私も大人しく手のひらに乗っていると思ったら間違いだ。

私は上司を利用している。

隙さえつけば、勝てなくもない。

仕事の待遇もいい。

色んな話も聞きだせる。

そして、相談にものってくれたりした、恋専門だが。

今は弱さをみせるに限る。


仕事を終わらせ、上司の車で送ってもらい、私は早速男に連絡を取った。

<別れましょ>

送信完了画面が点灯するや否や、携帯は男からの着信をしらせてきた。

これで、終わる。



← 51 ]  [ 53 →