47.彼氏ができました報告
男とのセックスは男の一人エッチみたいなものだった。
入れて腰を動かせば女が喜ぶとでも思っているのだろうか。
「痛い」そんな風に私が言うと、「痛くなくなるくらい俺を愛して」そう男は言った。
その間に色々考えた。
好きじゃなかったと振ることもできるが、私は自分が可愛いので何とかして相手を悪者に仕立て上げたかった。
だから色々考えた。
私の非を否定し、完全なる悲劇のヒロインに成り代わろうとした。
その為にはまだ彼女を続けていなければ・・・。
男はセックスのあとは必ず背中を見せて眠った。
初めてこの男とセックスをしたあとに、「俺、こっち向きじゃないと寝れないんだ」と言っていた。
壁にピタリとくっついて、私の入る隙間なんてなかった。
そう言われて、じゃぁ私はこっちで寝ると男と壁の間に入る気は起こらない。
ずっと男の背中を眺め、一人眠りにつける時間を待った。
男はいつもどおり眠りについている。
そんな男を見ていたら、無意識に携帯メールを打っていた。
無意識と言ってもしっかり考えてはいる。
ただ、言い訳したりストップをかけたりと理性の働く脳にまでは、その考えを伝えずに行動していた。
─久しぶり、最近どうしてる?私、仕事はじめたんよ。派遣やけどね。何か楽しくて充実してるぅ~って感じ。彼女とうまくいってる?─
次に続く言葉が出てこない。
どうやら考えは脳へと達してしまったようだ。
2のボタンを押してみようと思ったり、5のボタンを押してみようと思ったり、クリアボタンを長押ししてしまおうかと思ったり、ボタンは軽いのに底まで押し切る力が出なかった。
─彼氏できたんだ。1ヶ月くらい前かな。─
そう続かせて、重い指を動かしバーテンダーの彼に送信した。
深夜の遅い時間だった。
返事は返ってこない。
何となく満足だった。
嘘のような本当のような、何処にも真実が見えないメールだけど、満足だった。
壁に寄り添う男の背中の後ろは余分な程にスペースが開いている。
ベッドってこんなに広かったかな。
男がかぶる布団を剥がしとってやった。
男は半分眠りながら、布団を手だけで探してた。
私は布団をひとり占めして、ゆっくり眠った。
仕事の為、私は男の家から自宅へ帰りそれから3日ほど何事もなくすごした。
バーテンダーの彼からはもう連絡はないだろうと思っていた。
最後にメールを交わした日の事を思い出せば、そんな結果を簡単に予測できる。
必要としてくれた彼を私が排除したのだから。
が、彼は私の携帯を鳴らしてきた。
3日遅れの返事。
<ひさしぶりやな。何と!?彼氏で来たんや。おめでとう。仕事も始めたんや。そっかそっか・・・周囲は慌しく動いてるんやね・・・しばらく連絡取らない内にさ。俺は4月に上京したんだ。近いうち帰るから、また遊んでね>
嬉しかった。
このメールの意味することなんてどうでもよかった。
社交的なメールだったとしても、返事が来たことだけで嬉しかった。
<就職できたんやね、おめでとう。ウチも聞いて欲しい事とかまだ沢山あるん。帰ってくる日、教えてね>
直ぐに返事を打ち返した。
彼と会える。
彼と話が出来る。
私は、この男から逃げ出して彼の側に戻るんだ。
それがたとえ友達だったとしても、それで充分。
愛が欲しい。
恋愛じゃなくてもいい。
私を必要としてほしい。
私が必要としている人に。