44.新しい恋の代わりに体 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

44.新しい恋の代わりに体

楽しい仕事の毎日。

そして沢山の出会いが溢れる職場。

此処は天国なのか地獄なのか。


女の子の顔と名前はすっかり覚えた。

支配人のお気に入りの子達だ。

毎日、同じ顔が並ぶ。

それに比べ男の子達は全く覚えられなかった。

毎日毎日、違う顔が並んだ。

これが本来の派遣の姿だろうけれど。


私は、午前中を男の子達の指導に当たっている。

私はとろいので、人の半分ほどしか仕事ができないと自覚している。

与えられた自分の仕事をこなすことで精一杯だ。

なのに、私は何故だか指導にあてがわれる。

教えるなんて事は苦手なのに。

できれば誰とも話さずに仕事を黙々やっていたい。


指導役とあって、お昼は余計に男の子達に囲まれた。

仲良くなったような勘違した子達が言い寄ったりもしてきた。

「せのりちゃん、彼氏とかいるんですか?」

「いない」

「じゃぁ、付き合いません?」

「やめとく」

「なんでですかー」

「旦那がいるから」

「え、そうなんだ!それでもいいじゃないっすか、遊びましょうよ」

少しは疑えよ。

いねぇよ!!

っていうか、いいのか!?

ってか、体だろう?!

こういう軽いのは本当にごめんだ。

毎日毎日、こんな奴らばかりが集まった。

大したことないな。


給料を貰いに派遣会社の事務所へ行った。

「はい、おつかれさま」

「おつかれさまでした」

「せのりちゃん、会社に何かあるの?」

「へ?」

「いやね、そこの会社やたら人気なんだよ」

「そうなんですか?別に思い当たるふしは・・・」

「固定にしてくれって男が多いけど、なかなかとってもらえなくてさ」

「そうなんだ」

「せのりちゃん、どうやって固定もらったの?」

「いや、突然だったんで・・・」

「そう・・・」

「あ、でも、一度来てみればわかるんじゃないですか?」

「ふ~ん、今度挨拶いくよ」

支配人のお気に入りで固定が決まるとは言えなかった。

そこへ群がる男たちか・・・。


「もしもし、せのりです」

私は次の仕事予約の為に電話連絡を事務所にとった。

「せのりちゃん、解かったよ!なかなかの会社だねー」

「あの・・・」

「いやさ、可愛い子揃ってるな~と思ってさ」

「解かりましたか・・・」

「実はさ、初めに行った会社からもせのりちゃんの指名入ってるんだよね」

「そうなんですか?」

「せのりちゃん、モテモテだねー」

「それ、すごいウザイ!私は一応仕事しに行ってるんですけど・・・」

「ごめんごめん、仕事面でもいい評価出てるし、給料も上がると思うよ」

「だったらいいけど、明日の予約お願いしますね」

どうにも複雑な評価だ。

これじゃ、キャバクラと変わらないんじゃないか。


男の派遣登録数も限られており、見たことのあるような顔が揃う日も珍しくなくなってきた。

数人の男の名前も覚えるようになってきた。

はじめまして普段何してる人で何歳なのかというお決まりの話題もなくなりつつある。

そんな中で、ある男性と話が弾むようになった。

会う度に、その男は彼女と別れて寂しいという話をした。

私も彼を励ました。

彼女がいないんだという響が心地よかった。

彼が私を口説いていることにも気付いていた。

だけど、私は自分の気持ちには全く気付けなかった。

心が何を感じているのかなんて解からなかった。

楽しければいいよ、そんな頭だけがフル活動していた。


ある日、その男にカラオケへ誘われた。

ストレス発散だと男は言ったけれど、明らかに私は口説かれているなと思った。

考える事はしなかった。

考えればきっと断っていたはずだから。


週末、その男とカラオケへ行った。

一人歌い続ける男。

楽しいのか?

カラオケの帰りにドライブに誘われ、車の自慢話を聞く。

車に全く興味がない。

「別に解かってもらわなくてもいいけどさ」

だったら、違う話題にしてくれよ。

黙る私に気付いたのか男は私を口説きだした。

どんな展開なんだか。

男が必死に口説いてくるので、悪い気はしなかった。

彼女もいないし、私を愛してくれているようだ。

この気持ちよさが恋に変わるかもしれない。

「あのさ、これからずっと私がいいって言うまで私の好きな所あげていってよ」

「それ、恥ずかしいよ」

「嫌なら別にいいんだけどね」

男は私の好きな部分をあげていった。

無難な言葉達だったが、あながち外れてはいなかった。

結構私の事を見ていてくれるのかもしれない。


人気の少ない港で車を駐車し、エンジンを切ったあとも彼は私の好きな所を言い続けた。

私はずっと聞いていた。

言いすぎな部分もあるけれど、急に彼が言葉を詰まらせた。

当然だろう。

会って間もない人間のいい所を挙げろといわれて、これだけ言えたことでも充分だろう。

彼は最後にこういった。

「俺と付き合ってくれませんか?」

「いいよ」

私は考えることなくそう答えた。

正確に言えば、「どうでもいいよ」だ。

愛される恋愛に興味があった。

自分を愛してくれる人がいて、そんな人を愛していゆく恋愛。

そう、もしかしたら私が今まで人を愛せなかったのは、誰からの愛も感じれなかったからかもしれない。

この人なら愛してくれるようなそんな気がした。


「キスしてもいい?」

「いいよ」

男が私に軽いキスをした。

「俺の事好き」

「うん」

男が私に抱きついてきた。

激しいキスをされ、いきなり手を下着の中へ入れていて、指を膣内に押し込んだ。

「っ痛」

「ごめん、俺の事好き?」

乱暴なな男の行動と濡れない私の体。

何度も男は好きかと聞いてきた。

体が震えだす。

まだ完治しない傷がまた開きだすのを感じた。

「ごめん、いきなりこんなことまずかったよな」

男は車のエンジンをかけ、私を家へと送った。


愛していないからなのか。

愛されていないからなのか。

この関係は体だけのような気がした。

男はセックスをしたがっている。

別にいいよ、これで。

私が初めて手にした、恋人という関係だ。

少し傷が痛むくらいどうってことはない、この傷は恋人という関係が癒してくれる筈だ。



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