43.仕事を始める | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

43.仕事を始める

暇を持て余し、ゴロゴロと家事の合間に寛ぐ時間が増えた。

自分に考える隙を与えてはいけない。

働こう。


どんな都合にも合わせられるように、派遣登録をした。

暇な日の前日に仕事を予約して、派遣先へ向かうという仕事。

初めて派遣された仕事は、ピッキングという商品収拾業とでもいうのだろうか、ドラックストアなどからの発注商品を集め回る仕事だ。

外国のスーパーで見るような大きなショッピングカートにパソコンが設置されている。

店ごとに発注リストがブラウザーに映し出され、広い敷地内から商品を探して集め回る。

そして、ダンボールに詰めこむ。

1日中、買い物をしている気分だ。


定時で上がると時給500円だ。

安すぎる。

労働基準法には引っかからないのか?!と疑ってしまう。

だが、残業をすると一気に時給が千円に上がってしまうというシステム。

日給制だからそんなものなのだろうか。

家族の食事を作らねばならない。

だけど、残業したら金がもらえる。

苦痛ではない仕事に、仕事が楽しいという気持ちが心を埋めた。


仕事は沢山ある中の1つを選ぶ事が出来る。

だけど、私は次の日も同じ仕事を選んでピッキングに精をだした。

彼を忘れられた。

仕事が楽しかった。

何が楽しいって、1日中マツモトキヨシやドンキホーテにいるような感覚なのだ。

飽きない。

ストレスを買い物で解消する人がいる。

そんな感覚に似ているような気もした。

擬似だけど。


ある日、その職場の支配人に声を掛けられた。

「君、何処の派遣?次から固定ね」

「固定・・・ですか?」

「あぁ、良かったら俺の下で働いてよ」

指名固定というものをもらった。

今まで通り、予約した日に仕事をするのだけれど仕事場は固定されるということだ。

私、そんなに仕事できないんだけどな・・・。

でも嬉しかった。

この会社は偉い人でも、30代と若く、カッコいい人ばかりだったし、楽しい職場だから。

新しい出会いもあるかもしれない。


次に予約を入れた日。

朝礼の前に支配人に呼ばれた。

「この近くに小さな倉庫を借りて、俺がそこを任された。で、仕事内容は同じなんだけどコンピュータがなくて面倒なんだけど・・・そっちに一緒にきてくれないか?」

私は言われるままに付いていった。

そこに集められた人数20名。

私と同じようなタイプの子が揃っていた。

支配人は顔で選んだのか?


そこの仕事は予想外に力仕事だった。

機械的なものが一切なく、少ししんどかった。

27歳の支配人、顔だけで女の子を集めて力仕事・・・人選ミスなのでは?

女だらけの仕事場も精が出ない。


お昼休み、女の子達が抗議していた。

「男いれてよ!カッコいい子」

「私たちじゃ、あの重い荷物運ぶのは無理です」

「男入れてくれなきゃ、向こう帰るからね」

私はそんな様子を眺めていただけなのだけど。

女同士でつるむのは苦手だ。

同じ意見でなければいけないのだ。

講義中も、そうだそうだと皆が口をそろえていた。

ま、反対はしないし、寧ろ賛成なわけだけど、カッコいいはあんまり仕事に関係ないじゃんとも思うわけ。

そんな事いいだしたら、いじめられる種になる。

反対もしたくないが、賛成もしたくない。

だから私は初めから輪の中には入らない。


次の日から、選りすぐられた二十代の男の子達が顔をそろえた。

なんてパラダイス。

こんな職場で働けるなんて最高じゃん。


男ってのは、孤独な女が好きなのだろうか。

一人でお昼休憩をしていると、必ず男が寄って来た。

「何でみんなとご飯食べへんの?」

「話があわなそうやからね、キャッキャってノリがちょっとね」

「あぁ解かる。こうやって話する分にはえぇけどな」

「うん、折角の休みにテンション上げられないでしょ・・・」

「ゆっくりしたいわな、男はあぁいうの好まんしな」

「それに、私、煙草吸うしね」

こうやって何故か私の周りにはいつも男がいた。

そして、女に陰口を叩かれる。

別にいいんだけどね・・・。


二十代で構成された職場。

自由気ままという言葉がピッタリだった。

休憩も自由だし、お喋りし放題。

時間通りにしっかり仕事を終えれば文句なし。

楽しかった。

仕事内容も雰囲気も、最高だった。

少しくらい、帰るのが遅くなって夜ご飯が遅くなってもいいよね。

私は週3回、朝の9時から夜の9時まで働いた。

彼の存在が心から失われたのか、奥深くに眠ってしまったのかは解からない。

けれど、催眠呪文よりは効果的だった。

毎日が楽しい。



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