40.未登録メール
携帯の充電をした。
登録件数1件の携帯は必要なかった。
メモリーされている親友とも、「節約だ」とわけの解からない理由で家の電話を使ってやり取りをしていたから。
私のやっていることは弟と、変わりはないなと思った。
理由があって行動する私と、行動の理由を探る弟。
姉弟なのだな。
メールセンターに問い合わせる。
数は少なかったけれど、何通かのメールが届いている。
アドレス表記されたメールたちは誰が誰だか解からない。
内容から解かることは、殆どがキャバ嬢時代の客からだった。
<せのりちゃん、店変わったの?行くから店教えてね>
そんなメールばかりだ。
削除するのも面倒になってくる。
決して望まないけれど、友達だと思っていた削除した覚えのあるアドレスからは1通もなく、少しだけ寂しかった。
残りのメールは、<元気か?><何してる?>と短い文章で、昔の私を知っている一人からだった。
だけど、私はこのメールたちを消すことが出来なかった。
何度も繰り返し読んだこのメールアドレスを私は忘れない。
バーテンダーの彼からだ。
返事はしなかった。
自分には嘘つきだけど、相手にうまい嘘がつけない。
人を傷つけたくないとかそんな理由ではない。
ちゃんとうまく誤魔化せないと、私が痛いから。
それから鳴らない携帯を毎日充電し続けた。
時計代わりだと嘘をついた。
鳴ったら困るのに、電波を3本立たせた。
携帯が鳴った。
親友からだった。
がっかりしたことは、秘密だ。
「はい」
「おぅ~、おめでとう。やっと携帯繋ぐ気になってんな」
親友はずっと私の携帯に掛け続けていたらしい。
電源が入るのをずっと待っていたと言う。
「まぁね」
「何、何、携帯繋げたのにまたヒッキー入ってる?」
「いや、相手のテンションが高すぎるとね~」
「はぃはぃ、ごめんよ元気で」
「充実してる~って感じやね」
「ん~まぁ、いろいろ辛さもあるけどね」
「幸せの悩みってやつか」
機嫌は良好。
他人の恋話にも耳を傾けられている。
「それそれ!どうや?そろそろ恋でもしてみる?」
「うん、そろそろ仕事も始めようかな」
「何かテンション上がってきた」
「まだ上がるの!?」
「いいやんいいやん、親友のヒッキー卒業祝い」
「はぃはぃ、前向きにね」
「当然、いい出会いがあれば見逃さんよな!せのりさん」
「新しい恋?」
「そう!新しい恋やで!あ・た・ら・し・い・恋やで!フリーの男やで」
親友は強調してそう言った。
私が誰の電話を待っていたのかを見抜かれたようで少し動揺した。
だけど、そうの方がいいということは何となく理解している。
何となくなんだ。
何故、一人の男に執着しているのか自分でも解からない。
連絡を経ってから1年も経つ。
私はこんなに未練がましい女だっただろうか。
それすらも知らない。
未練の残るような恋をしてきていない。
私の彼はセックスだった。
心に男など残らなかった。
快楽の余韻だけがそこにある。
そして消えない傷がある。
忘れちゃったな。
どんな風につけられた傷かなんてこと、忘れちゃったな、忘れてしまえ。
私は、バーテンダーの名前をメモリーした。
そう、これは拒否する為の登録だから・・・。