38.悪いことって?
弟は不良校と呼ばれる学校を退学した。
「俺、専門学校行くから」
と、無愛想に父に告げた。
それでもいいと思う。
少しずつで・・・。
父親に相談するという手段を取れなかった弟は、自らパンフレットや手続書などを集めた。
本当は、勝手に入学するつもらだったらしいが、未成年が保護者の同意なしに何かをする事が出来ないという事を知ったようだ。
弟にはいい経験になってると思う。
私たちは反抗することもなく、頭で理解してきた。
言えることは一つで、「決まってるから」。
そんな適当な言葉に私は何故反抗しなかったのかと、弟を見ながら思う。
多分、弟は学校側にも詰め寄ったんだと思う。
また多分の話だけれど、何の理由も帰ってこなかっただろう。
だれも、いけない理由を知らない。
何故、悪い事をしてはいけないのですか?
何故、やりたい事を自由にやってはいけないのですか?
私は、弟に対して何でも答えてやれる姉になろうと思った。
全てなんて必要ない。
ほんの少し、一部だけでいい。
弟が質問してくるような、答えを用意しようと、私は法律や精神心理学や社会学などを独学で学んだ。
弁護士になろうってんじゃない、だから分厚い辞書なんて読まない。
私の道具はインターネットや文庫。
必要なことだけ抜き取った。
だから、本当に正しい答えはいってやれないかもしれない。
だけど、そこから自分なりの答えを出してやれればいいかなと思った。
「停学になった」
「何した?」
「髪染めた」
「校則で禁止されてたんか?」
「あぁ。でも、それだけじゃなくて、この髪が高校生らしくないっていわれたから、お前が頭に乗っけてるものは大人らしいのかって言ったら即行で停学くらった」
「ぷっ、そんな事言うたんや」
「ズラはいいのか?」
「論点が違うわな。人がやるから自分もやるじゃ、停学くらっても文句は言えんわ。で、何で染めたん?」
「ファッション!」
「じゃあ、黒くもどしな!」
「黒が高校生らしいから?」
「らしさなんて、どうでもいい。今回は校則を破ったという所が問題なの」
「何で髪を染めてはいけないなんて校則あるんさ」
「それは作った人に聞くべきやね。聞けないなら身をもって知る」
「黒くしたら解かるってこと?」
「守らねばならない事ってのは、ある程度話し合って認めたり放っておいたりすることによって障害が生じるとされるからやねん。もしかしたら、今となっては古い考えかもしれん。けど、守らせることによって利点があるということ」
「利点・・・?」
「例えば、赤信号は止まらなくてはいけない。何故だと思ったら、赤信号で渡ってみればいい。車がきてないからいいやで何人の人が死んでしまっただろうね」
「それは、解かるけど、髪の毛やで?」
「あくまで、染め続けたいわけね。じゃぁ、例えば、お姉ちゃんが働いていたアイスクリーム屋さんでは理不尽にも煙草が禁止だった。その理由は、イメージだと聞かされた。アイスクリーム屋のお姉さんは煙草を吸わないらしいわ。でもね、元々は、子供相手の仕事で、衛生上危険なことだった。煙草吸ったあと手がくさいでしょ。だったら、煙草を禁止するより衛生面の強化を行うべきではないかって、決まりが覆された」
「じゃぁ、髪を染めてもいいんやね」
「そうじゃなくて、決まりがある以上は何らかの理由があるわけで、解からないのなら守り続けるべきなの。理由が解かって、改善できる余地があれば戦えばいい。はっきりいって、お姉ちゃんにも何故髪を染めてはいけないのかは解からないけれど、解からないのなら染めてはいけない。異議は?」
「ない」
二十歳を越えて校則とはなんなのかを考えても遅かったかもしれない。
弟にあぁは言ったけど言い終わってから、ちゃんと考えてれば私も煙草なんて吸わなかったかもしれないなと思ってみたり。
私たちは教育方針を変えた。
やりたければやってみればいい。
煙草が吸いたいなら吸え。
万引きがしたいならしろ。
道路で暴走したいならしろ。
でも、逃げるなと教えてみた。
煙草を吸って怒られる。
万引きをして怒られる。
暴走して怒られる。
反抗するだけならやめてしまえ。
もっとやってることに意味を持たせろ。
弟を含め暴走族たちはポツポツと主張を始めた。
始めのうちはイライラするからという理由だったが、親と喧嘩しただとか両親が喧嘩してて、なんて話し始めるようになったのだ。
だけど、子供達が変わっても大人たちは変わらなかった。
警察に保護された弟を引き取りに言っても、同情を引くような事ばかり言って反省していないと警察官に言われた。
少し私のやり方もやりすぎた面もあるかもしれない。
だけど、取調べの最中に煙草を吸いだした子達を殴ってしまう警察官も反省すべきだと感じだ。
この子達は、また逃げ始める。
理由は殴られるから。
正当な理由だと思う。
だけど、だからといって悪い事を続ける事がいい事ではない事に早く気付いて欲しい。
何故、彼らの主張は両親へ届けられないのだろうか。
警察署の前で、自分の子供を引き取りにきた親がヒステリックに叫んでいる。
「お願いだから、警察沙汰だけはやめてちょうだい」
大人の協力なしに、子供達を更生させる手段なんてあるんだろうか。
新米大人の私はとても未熟だった。