34.未婚の主婦生活
祖母が倒れたという一報に急いでインドから家へ帰った。
玄関で待っていてくれたのは、祖父と父。
土産話を早々に切り上げ、家族会議を開いた。
祖母は寝たきり状態。
自らの足でトイレへ行くことも出来なかった。
頑張りすぎたのだろう。
会議と言っても話し合うことは何もない。
みんなが私の言葉を待っている。
「私が家事やるから」
私は、正直に生きると決めたけど、当分、恋愛はしないと決めた。
不思議に辛くはなかった。
それが、正直な気持ちだとも思った。
心の中には、大きく家族を守るという強い意志があったから。
今まで通りの生活じゃいけない。
今まで祖母の家事を手伝ってきた祖父が、今まで通り家事を手伝ってくれることになった。
「爺ちゃん、洗濯と買い物とゴミ捨ては好きやし、ボケ防止になるからな。それに婆ちゃんは、わしが見てあげたいしな」
なんて言いながら。
私は、食事と雑用を担当する。
それから、曽祖父のお世話。
曽祖父は、百歳を目前にとても元気だ。
だけど、痴呆の気があり家族が誰だか解からない。
何も話さないし、糞尿はそこら中にした。
炊飯や掃除やアイロンがけや裁縫なんかより、正直ずっと大変だった。
でも、楽しかったんだ。
3ヶ月くらい経った頃くらいから、曽祖父が私に話しかけるようになったから。
実際は、私にではなかったのだけど。
私はずっと、曾祖母に似ていると言われて育った。
曽祖父が間違えるのも無理はない。
曽祖父は毎日、曾祖母と出会った頃の話をした。
町内の死んでしまった友人を元気かと聞く。
そして、半年も経つ頃にはドンドン思い出して、私の名前を呼ぶようになった。
笑うようにもなった。
嬉しかった。
24時間呼ばれればいつでも曽祖父の側に駆け寄った。
曽祖父が笑顔で過ごせる毎日を必ず守るんだって思いながら。
一番下の弟は相変わらず非行に走っていた。
私がインドへ行く前よりも、悪化していた。
バイクの免許を取り、学校へバイク通学したり、暴走したり。
万引き、シンナー、カツアゲ、悪いことは手当たり次第。
その割に、臆病で最後にいつも泣きつかれる。
私は、毎日毎日暴走族の中に入って行って説教を繰り返した。
いつしか「姉さん」と呼ばれ始め、いい迷惑だ。
暴走を止める為に私は呼び出され、止めに入る。
何故かみんな私の言うことは聞いた。
奴らはみんな根はいいやつで、殆どが親への反抗だ。
将来の相談を受けたり、両親の愚痴を聞いてやったりした。
だけど私に出来る事は、一時的に気を落ち着かせることだけ。
何の解決にもならず、繰り返されるのだ。
けど、弟だけは違う。
家に連れて帰り話し合わねばならない。
毎日、弟のメンタルと向き合った。
少しでも傷が癒えるよう、幸せな道を見つけられるよう、弟を守ってやるんだって思った。
毎日が一生懸命だった。
遊ぶことも忘れて、恋愛なんて頭にない。
充電を失ったまま携帯はベッドの上に転がっている。
パソコンを立ち上げインターネットに接続する。
ホットメールを開きメールを打つ。
PAPPU , watashi machigatteru kana ?
インドで知り合ったパプーに問う。
senori sutekiyo.
時々、1年前の生活を思い出したりする。
そんな自分に逃げたりはしない。
あの頃も良かった、でも今もそれなりに良いよね。
貯金を使い果たして残る金もない。
1日中家にいて、収入もない。
けど、なんとなく幸せの方向を向いている気はする。
頑張らなくちゃ。