28.遠ざかる二人 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

28.遠ざかる二人

彼は毎日web日記を書いているようだった。

アドレスを削除した筈の私がその事実を知っているのは、やっぱり彼が気になったから。

コミュニティ型のサイトの長所でもあり短所でもある、足跡という機能。

私のページを毎日訪れている彼の名は、私を彼のページへと誘導する。


会わなくても彼の毎日が判る。

話さなくても彼の心が判る。

彼の日記に登場しない私って一体どんな存在なんだろう。

私は彼の心にはいないのだろうか。


私はしばらくそのコミュニティーサイトでは日記を書いていない。

そこには大きな心が存在しているから。

人知れず、そっとキーボードを叩く。

私だけのHP。

顔もしらない人たちだらけのスペース。

「彼が好き」


ネットを始めたばかりの彼の行動範囲は狭い。

アドレスを知らなければHPにたどり着けないと思っている彼は、私にとって好都合。

広い広いネットの世界で、彼は私を見つけられない。

狭いこのリアルの地でも彼は私を見つけられない。

あなたは彼女の事だけ考えてればいいのよ。


彼の優しさは残酷だ。

だれかれ構わずやさしい人じゃない。

だからこそ、私への奇妙な優しさは残酷すぎる。

彼は何故私に構うのだろうか。

私がそう願ったからなのか。

逃げてしまいたい。

私の望みはこんなものではなかったはずだ。


携帯がなる。

彼からだ。

出るのを躊躇う。

私は彼に何を思う。

愛情、友情、信頼、嫉妬。

私は彼の何になればいい。

教えて欲しい、私は彼のどんな存在になればいい。

必要としてほしい。


「もしもし」

「はぃ」

「・・・・・・」

「何?」

「いや、別に・・・・」

「用はないの?」

「用がなかったら電話したらあかんの?」

「だめ」

「・・・・・・用はないよ」

「あっそ」

「わかった、ごめん」


一方的に電話を切られた。

私が切らせたのか。

そんなに素直に切らなくったっていいのに。

後悔が押し寄せる。

まったく可愛くない女だ。


自分の気持ちが決まらない。

どうありたいのか、どうしてほしいのか。

彼の言葉を思い出す。

「正直でいたい」

私ももっと素直ないい子だったらよかったのに。

そしたらもっと苦しまずにいられたかもしれない。

電話を切って欲しくはなかった。

話を聞いて欲しかった。

どんな話を聞いて欲しいかなんて判らない。

なんでもいい。

彼の話を聞くことでもよかった。

彼の声を聞いていたかった。

彼を近くに感じていたかった。

側にいて欲しかった。

私の側から離れないでほしかった。

逃げる私をずっと追っていて欲しかった。


我侭な私・・・。


これでよかったのかもしれないな。

私は彼から離れなくちゃいけない。

そんな気がした。

多分、私は彼がいなくちゃ生きていけない子になってしまう。

それでもいいかもしれない。

だけど、それはまた別の世界のおとぎ話。

私はこれから、彼なしで生きてかなくちゃいけなくなる。

私には解かる。

彼は彼女を愛しているから。



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