25.辞めれないキャバクラ | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

25.辞めれないキャバクラ

何もなかったとは言え、軽い監禁騒ぎは私にとって武器となった。

あの日から、私はやりたい放題やっている。

流石に多大な迷惑を掛けることは自分の良心が許さなかったけれど。

面倒くさい仕事はしない、帰りたいときに帰る、一度我侭を覚えると楽なものだ。

そんな私に手を焼いた店長は、心配などはしていないだろう、徐々に利用できるペットの価値が下がることを恐れてだろう、私にやたら構ってくる。

帰ろうとする私を捕まえては食事に誘った。

営業時間であろうと、閉店後であろうと、時間は問わなかった。


「せのり、ちょっと付き合え」

「何?私帰りたいんやけど」

「少し、話ししよう」

まるで、喧嘩中のカップルの会話だ。

そんなやり取りを見てよく思わない女の子は沢山いる。

「店長、私には全然誘ってくれへんのにー。私にも戦略教えてよー」

「そういうのは、自分のマネージャに聞け」

ちょっと優越感。


店の近くのバーまで店長の後についてやってきた。

面倒だ、面倒だ、面倒だ、私は心の中でずっと唱え続けている。

「せのり、もうちょっとフリーの客について客ふやさへんか?」

「いまのままでいい」

「NO.1になりたくないんか?」

「別に」

「ヤル気はあるよな?!」

「ほら!またあんな事あったら嫌やしさ~」

何の感情もなく私はそう言う。

いつもこの言葉で店長を困らせた。

「あんな事もうないよ、アフターには絶対にいかさんから」

「断るのとかも面倒やねんな」

「とりあえず、とりあえず頑張っていこうや」

「とりあえずは頑張ってんじゃん」

「もったいなよ、お前はもっと可愛くなるんやから。元はえぇねんぞ」

「はぃはぃ、どうせ私は不細工です」

店長の説得は続く。

腫れ物に触るように。

私はそんな周りの対応を少し楽しんでいた。

自らかさぶたをはがすのも結構楽しい。

「俺を信じろよ、同じ店で働いてる同士やろ」

「なーんか、前と言うてること違うね」

「そうやったか?」

俺を信じろね・・・そういう奴ほど信じられないものだ。

だけど、この言葉は結構好きだ。

何度も騙されてしまう私の弱点でもあるかもしれない。


何度も話し合ううち、私はしっかり閉店まで働くようになっていた。

自分の客も呼び、フリーの客の奪い合いに、ヘルプもやった。

ドンドン女の子が帰っていく中、最後の一人になるまで働いた。

「せのりは最近頑張ってるな」

支配人がえばり散らしそういいながら、閉店後の店にやってきた。

店長もその他大勢のボーイ達は一斉に頭を下げている。

私はそんな光景に目もくれず、支配人に駆け寄る。

「本当?支配人」

「あぁ、偉いなお前は」

「嬉しい」

「マネージャー変えて正解やな!の?」

支配人は私の前マネージャーに向かってそう言った。

すまなそうな前マネージャーの姿が堪らなく気持ちよかった。

「せのり、今度の俺の誕生会にくるやろ!」

「誕生日なん?おめでとうございます。行ってもいいの?」

「えぇよ、頑張ってる女の子には来て欲しいからな」


店にとって、私なんて必要ではない事は充分わかっていた。

私でなくても、私のような女の子が居ればそれでいいのだ。

だが、その役目を今自分がしていること、それだけで喜べた。

組織的に私をその気にさせようとする、下手な芝居でも何故だか私はすんなり受け入れていた。

なんでかな、辞めようって思った気持ちを吹き飛ばそうとしていた。

金銭的な面も大きい。

高価な食事を毎日して、欲しいものは手に入る、不自由なんてない世界。

恋は厳禁。

働くことだけに集中する。

NO.1になるために。

もどれないよね、普通の生活には・・・。

恋することを忘れたい。


バーテンダーの彼からは、メールを打ってもなかなか返ってこなくなっていた。

私が離れていくのを多分感じ取っているんだと思う。

ほらね、友達ってのは一方が去っていくとそうなっちゃうんだよ。

それでも守りたいといった彼もいつかは去ってゆく、そうだよね。


私は、今必要としてくれているこの世界から抜け出せない。

もう引き戻そうとしてくれる、彼も今は遠い。



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