2005-05-29

24.軟禁

テーマ:彼女じゃない恋愛

地味に売り上げランクに名を残しつつ、頑張ることもなく毎日キャバクラへ出勤した。

大きく煌びやかに彩られたNO.1の子の名前。

そこからすーっと指でなぞりながら下った先に私の名は小さく刻まれている。

なんだかな・・・。


ヘアメイクもせずに私は店にたった。

何の抵抗でもない。

ただ、面倒くさいだけだ。

ロングのストレートにパーティードレス。

不自然に思えないかもしれないが、この場では結構浮く。

どんなに綺麗で手入れしたストレートヘアでも、此処ではキューティクル0のエレガントヘアには負ける。

当然、「お前はヤル気あるのか!?」と叱られる。


それでも女の子の人数が足りないらしく、私はそのまま席に付かされた。

自分で言うのも変な話だが、私は結構真面目だ。

接客だけは無条件に頑張った。

NO.1の子の席で、その客の連れのフリー客だ。

ボーイによると、このフリー客は絶対指名せずにドンドン女の子を変えるらしいので、気楽にやれとのことだった。

全くのシカト状態だ。

偶にいるのだ、こういう客。

黙って横に座ってればいいんだよ!的な。

私は黙ってその客の横に座っていた。

早く、次の客へ回りたい。

金にならない客など必要ないのだ。

時間になっても次の女の子はこず、どうやらまったく女の子の数が足りていないようだった。

長居した所為か?この席の話題が私に傾いた。

勘弁してくれよ。

NO.1の子の客が私に向かって「珍しい生き物だ」と言い始めたのだ。


「すごい色気だしてるよな、お前の横の子。なんて名前だ」

「あぁ、名前聞いてなかった。お前、なんて名前だ?」

「せのりです。(始めにいっただろうが!このハゲ)」

「へぇー、覚えとくよ。お前、最近始めたのか?」

「ありがとうございます。今日はちょっと早めに来たので初めてお会いしますよね」

「染まってないよな。愛人になるか?ガハハハハハ」

え!?何か爆笑所みたい。

笑え笑え~、この客わからん!

VIPは意味解からん。

横のハゲはクスリとも笑ってないし。

「お前、指名しろよ」

「俺はいい」

「じゃぁ、俺がするわ」

NO.1の子の客が私を二人目の指名にしてきた。

何だか嫌な展開だ。

ヤル気がなかったので、自分の客を全く呼んでなかった。

私はずっとこの席に座ってなきゃいけないのか?


だが、幸運にも客に恵まれ私はこの席に5分といなかった。

ま、それだけに忙しかったわけだが助かったと思った。

VIP客は気分よくお帰りの様子。

席にいた子達はみんな連れ添ってアフターらしい。

営業時間外によくやるよ、全く。


私は一息入れようと控え室に入った。

すると、NO.1の子が私を待っていたらしく話しかけてくる。

「まだお客さんいるの?」

「はぃ」

「終わったら、すぐ近くの居酒屋へ来てくれる?」

「アフターですか?」

「指名されたんだから来るわよね?」

「・・・・解かりました、少しでいいんですよね?」

「帰りたくなったら帰ればいいし、とりあえず顔は出さないと!」

「終わったらすぐ行きます」

面倒な約束を彼女としてしまったが、彼女の顔をたてる意味でも行った方がいいように思えた。

挨拶してさっさと帰ればいいや、そんな風に思っていた。


自分の客も帰り、ヘルプに付くのも面倒だったので帰り支度を始めた。

「おい、お前帰るのか?」と店長が私を引きとめてきた。

「あぁ、始めの客にアフターに誘われて、そこの居酒屋まで」

「あいつの客に構わんでえぇよ。アフターは勧めへん」

「でも、約束しちゃったしね」

「じゃ、タイムカードおさんから直ぐに戻って来い、解かったな」

「了解」

私は店長にそう言い残し、約束した居酒屋まで向かった。


朝方の居酒屋には、始めについたフリー客だけがいた。

まずい・・・そう直感した。

でももう遅い、鈍い音を立てて開いた居酒屋の戸の音で店主と客の視線を注目させてしまった。

相変わらず、客は無口でどうしていいのか解からなかった。

「あの・・・皆さんは?」

そんな問いかけも虚しく、客は私に隣に座るよう指示してきた。

そして目の前に出された烏龍茶。

結構この客は手強いかもしれない。

あの短い時間で私が酒を飲めない事を見定めたらしい。

何考えてんだ、このハゲオヤジ。

店長からの着信で携帯が店内に鳴り響いた。

出るか出まいかという一瞬の躊躇で、私は客に携帯を奪われてしまった。

「返してください」

「そんな口きいてもいいのかなー、お前本当に馬鹿だよな。この状況、どう見てもお前不利だよ」

「意味が解かりません。皆さんは何処に行かれたんですか?私、まだ仕事が残ってるので帰ります」

「お前は本当に馬鹿だな。俺の事知らずに来たの?何であの店の奴らが俺らにペコペコしてると思うよ、な?!」

「そんな事知りません。今の店長からの電話なので、早く折り返さないと」

「少し黙ったら?店、潰れてもいいの?」

「どういう意味ですか?」

「俺、支配人をどうにでもできるんだぜ」

私を完全に黙らせた客は支払いを済ませ、私の手を引き店を出た。


店の前に止まっていたタクシーに乗せられる。

少しの抵抗を試みた隙間に、店長が私の方へ向かってくるのが見えた。

嫌だ、助けて・・・何処に連れてかれるんだ?!


絶え間なく私の携帯は、店長用に設定した着信音を奏でてる。

この音は私の恐怖心をさらにあおる。

それを知ってか知らずか、客は私の携帯を切る事もなくちらつかせる。

着いた先はマンションの一室。

生活の香りは全くない。

リビングで私はやっと半自由を取り戻した。

「そこに座ってろ」と言われ、リビングの真ん中に置いてあった白いソファーに腰掛けた。

目の前にはアホほどデカイテレビ。

ソファーの横には幸福の木。

アイランドキッチンに酒が何種もならんでおり、グラスと少量の食器以外は何もない。

私を座らせ、客はリビングから出て行った。


しばらくの間、私は大人しく座っていた。

何をされるか解からない。

遠くでまだ店長の着信音が鳴っている。

その音は、私を固まらせる。

「動くな」そういわれているような、そんな気になった。


リビングで一人、時間はドンドン過ぎていった。

考えろ、私はこれからどうするべきなんだ?

っていうか、今の状況が理解できない。

頭を整理しろ、私、何やってんだ?

とりあえず、携帯、携帯を取り返さなくちゃ。

いや、もう携帯なんていらない逃げなくちゃ。


私はそっとリビングの戸を開ける。

気付かれてない?

逃げられるのか?

何?私は試されてるのか?

そっとそっと玄関まで忍び寄る。


「逃げるのか~、別にいいけど、帰る頃にはもう店なくなってるよ~」


客の声が私をリビングへと戻らせた。

なんなの?

誰か、この状況を説明してほしい。

カーテンの掛かっていない大きな窓からは、眩しく太陽の光が照り付けている。

もう昼過ぎちゃってるよ・・・。

私は監禁されてるのか?

何の為に?


窓からの光が徐々に弱まりだす。

客が私の携帯のストラップに指をかけ、クルクルと回しながらリビングに入ってきた。

「携帯返してください」

「いいけど、俺の女になるか?」

「なりません」

「そう、じゃ、これ貰っておくよ」

「じゃ、携帯はもういいです。帰ります」

「店、潰れてもいい?二度と支配人には会えないかもしれないね~」

「何考えてるんですか?」

この言葉は客の怒りを買ったらしい。

携帯を投げつけられた。

携帯・・・何処・・・。

投げられた携帯を私は追った。

敵に背中を向けてはならない、どこかで習ったよな。

さぁ、どこだったでしょう。

思い出せないな。

思い出せてたのなら私は携帯なんて追わなかっただろう。

客は私の背後からいやらしく抱きついてきた。

「こんなこと考えてたりするんだよね」

頭の上から大量のスキンを浴びせられる。

パラパラとスキンが舞い散る。

偶にスキンのギザギザした切り口が私の頬をかすめチクリと痛かった。

フローリングにばら撒かれたスキンは、私が必死に体を支えていた左腕を滑らせる。

倒れこんだら負け。

携帯を取り返した右手は絶対に離せない。


携帯が鳴った。


客はその音に驚いたのか、私の体から離れた。

逃げなきゃ。

私は鞄を持ち、一気に玄関までかけ逃げた。

のろまな私がここまでスムーズに玄関の戸を開けられたことに褒めてあげたい。

「覚えてろよ」

客の遠吠えが聞こえる。

震えが止まらない。

鳴り続ける携帯に私はやっと出る事が出来た。


「ちょっと、何考えてんのよ!この馬鹿ハゲエロオヤジ」

「な、なんだよ・・・俺はハゲてないし」

いきなり怒鳴り散らした私に店長はタジタジだった。

「お前、今どこ?」

「NO.1の子にでも聞いてみたら?」

「聞いたけど、知らんって・・・一緒になって心配して一緒に探してくれてるよ」

「は?どういうこと?」

「誘ったカラオケに全然来なかったって言うてたぞ」

「・・・ふーん、あっそ」

「何?話食い違ってるのか?」

「いい!私だけが解かってればそれでいい」

「帰ってくるんか?」

「今から帰る。ところで、あの客誰?」

「別によく来る客・・・やけど、何があった?」

「店潰すって」

「解かった、帰ってから話そう。とりあえず、逃げれて良かった。店は心配ない」

騙されたわけか・・・。

さぁ、一体誰に?

もうどうでもいいや・・・。


近くで拾ったタクシーは店まで3千円もしやがった。

店に帰ると、店長とアフターに行ったと思われる女の子達が揃っていた。

私が戻ってきたのに気付いた店長が駆け寄ってきて私を抱きしめた。

「お前、大丈夫か?」

「大丈夫だから離してくれる?」

ポンポンと背中を叩かれ、椅子に座らされた。

「で、何があった?」

「何でカラオケこなかったの?」

店長の質問に女の子達が質問をかぶせてきた。

「行ったらあの人に捕まって脅されただけです」

「でもお前、居酒屋行くって」

「もう忘れました」

「忘れたって・・・・」

此処で本当の事を行ったら面倒だと思った。

煮えくり返る怒りを女の子ではなく店長にぶつけた。

殺気をむき出しに店長を睨みつけてやる。

「と、とりあえずお前ら帰れ」

ビビッた店長は私以外の女の子を店から追い出した。

体中に墨入れてる男も案外弱いものだ。

その後も私は、何も言わなかった。

「俺、ずっと寝てないねん。お前の所為やから3時間後に起こしてくれ」

店のソファーで眠りについた店長をしばらく眺めていた。

ふぅ、二人っきりですか。

また、良からぬ噂を立てられるんだろうな。


私は取り戻したまま右手におさまってる携帯を開いた。

<そろそろ、店やめようかな>

バーテンダーの彼にメールを打った。

そして、店長を残し店を出た。

外はもう日が暮れて、客引きで街が黒ずんでいた。

キャバクラの名詞を何十枚も受け取りながら駅へ向かう。

とりあえず、今日はゆっくり寝よう。

店はお休みして。

私ってとことんついてないな・・・。

ま、そんな人生もおもしろいかもね・・・。



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