23.捨てられた?!子供達
< 元気ですか、お母さんは元気です。会えませんか? by せのり >
母親から偶にこうしてメールがくる。
いつもメールアドレスは違っていて、毎月毎月電話番号も変わっていた。
始めのうちは、こちらからも連絡を取っていたのだけれど、しばらくして繋がらない携帯に呆れた。
私は母と同じ名前ではない。
どうやら母は離婚してから、名前を偽っているようだ。
借金まみれの母が私の名を語っている。
とても怖くて真実など聞けなかった。
母は、メール本文に署名が入っているという事を忘れているのだろう。
私に迷惑がかからないのなら、何も言うことはない。
私は銀行へ行って5万をおろしてから、出勤した。
いつもは降りない駅で途中下車する。
母に会うためだ。
改札に向かうと、母は手を振って迎えてくれる。
「元気にしてた?お母さん、今この近くに住んでるの」
「そう。お母さん、化粧アレルギーじゃなかったっけ?」
「口紅くらいよ」
母は、会うたび小奇麗になっていた。
家にいるときにはTシャツかトレーナーくらいしか着なかったのに、今ではジャケットなんてものを着るようになっている。
口紅くらいだと言い張るが、しっかりメイクされている顔には、男の香りがした。
「そ、家賃とか払えるわけ?」
「あ、それは出してくれる人ができたから」
「そ、弟には連絡してるん?」
「なかなかしづらくてね。よろしく言っといて」
「判った。それじゃぁ」
「あ、せのりちゃん!言いにくいんだけど・・・」
私は母におろしたばかりの5万円を手渡し、1本遅れの電車に乗り込んだ。
考えたくはないが、母は子供を愛してはいないだろう。
会いたがるのは仕事をしている私と一つ下の弟だけだ。
まだ高校生の一番下の弟には、メール1つ送らなかった。
だから、私と一つ下の弟だけの秘密だ。
一つ下の弟は、「泡銭だ!」と言いながら母に50万ほど渡している。
確かにスロットで儲けた金だけど・・・。
一つ下の弟はそれ以来母と会うことはなくなった。
言葉がでない。
私は・・・いったいどのくらい渡したのかなんて数える気にもなれない。
こんな母でも母、そんな風に言い退けられる強さがあれば、どれ程楽だろうかなどと考える。
自分の親を軽蔑する程、辛いものはない。
母から連絡が来ると、どうも調子が狂う。
働く意欲がなくなり、ため息の数が増える。
考え事をしているようで、実は何も考えていない。
あぁ、何か肌寒い。
お腹すいた、おにぎりでも作ろうかな。
何かあの雲変な形だな。
私を心配しても損をする。
頭の中では、詰まらないことだらけなのだから。
人は1秒間にどれくらい考えるのだったかな。
驚いたことだけは覚えている。
手を動かすとかそんな考えは、無意識という部類に入る考え事らしいが、私は無意識に母の事を考えたり、色んな事を考えていたのかな。
バーテンダーの彼はとてもタイミングが良いと思う。
もしかしたら、心を視る以外に透視まで出来ちゃうんじゃないかと思うくらいに。
こんな時、彼はいつも私の携帯を鳴らした。
「もしもし」
「はい」
「・・・・・・」
「あ、もしもし?」
「どうした?元気ないな?いじめられてんのか?」
「イジメにあうほど、仲良くしてません」
「そうか、お前らしいな」
「ごめんな、なかなか連絡できなくて」
「えぇよ、忙しいんやろ」
「ん?どうしたん?」
「いや、別にこれといって、用はないけど、話したいことないか?」
「話したいこと・・・・お金がね・・・・」
「お前最近、金の事ばっかやな」
「ドンドンなくなってくの」
「そりゃ、使ったらなくなってくよ」
「何に使ってるんやろう?」
「お前、自分で覚えてないくらい使ってんの?少しくらい分けてくれよ」
「ほんまに、どうやったらあんなに沢山使えるんやろうね」
「金なんて、あったらあっただけ使うやろ」
「そんなもん?」
「いや、俺には経験のないことやけど」
彼とチグハグな会話は、妙に噛みあい進んでいった。
そう思わせた彼の話術だったのだけ、私は誘導尋問にまんまとはまったわけ。
「で、お前いくらお母さんに渡したの?」
「え!?」
「え!?じゃないやろ!」
「・・・・・」
「お前さ、親でも憎んで良いと思うよ」
「そういうんじゃないよ」
「俺は、父親に会う気はないよ。母親の苦しさ見て育ってるからね」
「お父さん、憎んでるん?」
「そうやな、そういうんじゃないかもしれんな。もう一切関わりたくないしね」
「何か寂しいね」
「そうか?もう、お前、普通の仕事しろよ」
「そのうち・・・」
「もうお前が働くことないんやろ?」
「なーんでも、知ってるんやね。言われなくったって、自分で考える」
初めて彼に意見を押し付けられるようなことをされた。
彼の一番深い心の傷だ。
彼はいつも家族の話になると黙った。
此処まで話したのは初めてかもしれない。
だけど、話したくない気持ちよく判る。
自分でもそう思いこもうとしていて、戦ってる。
そうに違いない、コレが正しいんだって・・・。
彼も離婚した両親に苦しんでいる。
何とかしないといけないよね・・・お互い。
私はそれでもキャバクラを続けた。
理由は多分沢山あるけれど、今強く思う事は、彼を否定してやりたいと思った。
何が正しいのかなんて判らないけれど、憎むなんて感情は絶対にこれだけは間違いだと思うから。
それだけが理由じゃない。
だけど、彼の言われたとおりに辞めるなんて事はできない。
認めたくなかった。
決して、自分が正しいとも思わないけれど。