21.全てを捨てたキャバクラ嬢 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

21.全てを捨てたキャバクラ嬢

バーテンダーの彼に恋していることは認める。

自分に正直になりたちと思っていることも認める。

だけど、彼を失いたくないという願いはそれ以上に強い。

そんな私は「友達でいたい」と強く強く願う。

彼だけは失いたくない。

私はこれから夢も希望も全て捨てて、働く決意をしたから。

彼だけは奪い取らないで欲しい。

友達でいいから・・・。

もう、思い残すことはないんだ。

あとは、ずっと側にいれたら。


私は母が出ていったあと、本当に自由にやってきた。

母が決めた道からはずれ、自分のやりたい事だけに集中した。

夢も膨らむ。

あんなに嫌だった学校だって今は行きたいと思うようになった。


だけど、父から告げられた現実は「やりたい事やってればいいじゃん」じゃ済まないことを理解した。

父は私が学校へ行きたがっているのは知っていた。

私のやりたい事を全面的に応援していてくれた父は、私に「学校は諦めてくれ」そう言った。

そして、「弟の高校だけはいかせてやりたい」そう付け加えた。

家計のピンチだ。


父の職業は自慢ではないが、生活に苦労するような職業ではない。

今のままでも充分やっていける。

だけど、子供一人学校へ入れるまとまった金がなかった。

貯金が全てなくなっていたのだ。

離婚した両親だったけれど、人のいい父は母の扶養をしていた。

借金も父が返していた。

そして、通帳も・・・。

小まめにチェックしていれば良かったのだろうけれど、底をついた通帳を前に後悔しても遅すぎた。

保険?母によって解約されていた。

父は何故離婚したのか自分でよく解かってないのだろうか。

いつか、こんな日が来ると想定したからでしょ・・・。

母の金遣いの荒さは留まるところを知らない。


弟に同情する。

毎月、学園からの入学金諸々の分割催促届け。


父の収入だけでは、生活費と支払いと母の扶養でいっぱいいっぱいだった。

お小遣いももらえない弟は、ゲームソフトに漫画を売っては何とかやりくりしていたみたいだ。

そんな生活も有りだと思う。

誰も文句言わないし、コレでやっていけるんだと思った。

でも・・・私は、弟に友達と同じ様な生活をおくらせてやりたかった。

そして、自分も学校へ行きたい、そう思った。

だから、私は、弟が社会人になるまで、自分のやりたい事をお休みしようと思った。

恋も勉強も夢もなにもかも。


お金が必要だった。

私は、弟の代理の母になる。

今の仕事のお給料全てで賄えたのだけど、私はやっぱり自分も可愛かった。

自分の自由も少しは欲しかった。

これ以上のお金が居る。


私は、キャバクラ勤務を決めた。

朝から夕方まで今までの仕事をした後に、朝までキャバクラで働いた。

キャバクラに何の抵抗もなかった。

寧ろ、楽しかった。

お金はもらえるし、ボーイの扱いは自分が姫になったかのようだし、想像していたようなやらしい客もいない。

お酒ものまなくていい。

楽な仕事だと思った。


抵抗を感じなかったのは、それだけ自分に壁を作っていただけの事だったのだけど。


キャバクラへ働きに出てから、バーへ行くこともなくなった。

夜はずっと働いていたから。

ある日、キャバクラへ出勤するとあまり喜ばしくない客の入りだった。

自分の客もなかなか来てくれず、私は出勤早々帰ることにした。

帰りの電車でふと、久しぶりにバーにでも行ってみようかな、そんな気になった。

そう、思ったら、何だか急に胸が痛み出す。


バーの扉を開けると彼が居た。

「お前、キャバクラで働いてるらしいな」

「うん」

「似合わんな、その格好」

「うるさいなー。仕方ないじゃん。この方が売れるんやから」

「辞めたら?」

「簡単に言うねんな」

「簡単なことじゃないの?」

「・・・・好きでやってるの!」

「あっそう」

「そう!」

「お前、これからどうするん?」

「ずっとキャバやってくよ」

「ふーん」

「何?」

「何か理由あるんやろ?」

「お金!お金が欲しいの」

「お母さんか?」

「あなたには関係ない」

彼に何も話せないでいた。

心開きかけた私の心は、また完全に閉じたのだ。

彼に触れたら、泣いてしまう。

こんな生活、大嫌いだ。


彼の目は悲しい目をしていた。

初めて会った時と同じ目をしていてた。

彼の心が視える。

これでいいじゃない?

私たちは心で会話できるのだから・・・。

全てお見通しでしょ?

その時、彼の傷が視えた。

何?あなたも私と同じだと言いたいわけ?


私は、必死で私を守ろうとする彼が怖かった。

彼に触れていたら、私は壊れてしまう。

弟が社会人になるまでは、今のまま頑張っていたい。

弟が喜ぶ顔が今は一番の私の喜び。

誰に頼まれたわけじゃないけれど、家族を守ってるんだっていうそんな変な正義感が今は気持ちよかった。

家族も何も言わずに、お金を受け取ってくれる。

今は、これでいいんだ。



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