12.彼の誕生日を祝いたい
彼と出会ってから、初めての彼の誕生日を迎えたこの日。
私には何も関係のないこの日を私は何故かワクワクして向かえた。
「おめでとう」の5文字をメールする事に何故だか躊躇う。
誕生日の0時0分という奇跡に堪らなく感動する乙女チックな私は、ため息と共に過ぎて行く時をカウントした。
1分、2分、3分、彼の元には何通のメールが届いたんだろう。
1番になんてそんなおこがましいこと出来ない。
私は一体どんなタイミングで、このメールを送信したらいいのだろう。
結局メールを送る事ができず、携帯のOFFボタンを連打した。
私はバーの前に居る。
何故来てしまったんだろう。
誕生日だから働いていないかもしれないのに。
店の戸を開けられず、隣のコンビニを出たり入ったり。
「今まで友達と遊んでて」こんなわざとらしい言葉を吐いてみるか?
「誕生日おめでとう」わざわざ来ちゃった的行動をとるか?
くー、こんなシュミレーションしてたって、お馬鹿な私にいい結果なんて導きだせない。
「ね、番号教えて」今までこの一言で、落とせる男は落とせたもの。
落ちない男は何を言っても駄目。
そんなもの。
店の戸を開け、そっと中を覗くととても静かだった。
店にはお客さんはおらず、彼だけが店内にいた。
「お、こんな時間にどうした?」
「あ、うん、友達と遊んでて」
出た!私はそれで行くのか?
なら、とりあえず、何処で遊んでたとか誰と遊んでたとか嘘固めたいと墓穴ほるぞ。
なーんも考えてないんだぞ、馬鹿、私の馬鹿。
「そう、店、もう客おらんからもう直ぐ終わるねん。送ってこうか?」
「う、うぅん、いぃ。1人で帰れるから」
だめだ、私、舞い上がって少女みたいな事いっちゃってるわ。
らしくもない。
もう降参。
って、私、何狙いにきてんだか。
おめでとう、そう言ってさっさと帰ろう。
「誕生日だね、おめでとう」
「お、ありがとう。誕生日に仕事って寂しいやろ」
「ほんまやね」
「わざわざ、来てくれたん?」
うわー、友達と遊んでてって全然意味ねぇじゃん。
私の嘘、聞いてなかった?
「うーん、どうだろう」
だよね、だよね、答えられるわけないもん。
「ケーキ食べる?」
店の奥から店長さんが、彼へのバースデーケーキを切り分けて呼んでくれた。
「ありがとうございます」
「これ、うまいぞ。俺のケーキやから」
「うん、おいしい」
「じゃ、ほんまに送ってかんでえぇねんな。またな」
え、え、え!?
もう帰るんだ・・・。
バーに1人。
目の前にはケーキとオレンジジュース。
そして、バーの店長さん。
何?この状況。
オレンジジュースを飲んだら、少し硬く感じた。
ケーキがやたら大きく感じた。
早く食べて帰ろう。
「ごちそうさまでした」
店を出たらとても静かだった。
上を向いて歩こうって歌が頭の中に流れてきた。
私、いい選曲するわ。
今、すごいピッタリの歌だ。
星が綺麗。
「おめでとう」
あーーーーーーーーーーーーーー。
頭の中でずっと叫び続けた。
叫んでないと、私変なこと考えつくもん。
寂しいとか、切ないとか、呟いたら終わり。
私は絶対に泣く。
「あれ、まだ居たの?」
戸締りを終えて出てきた店長さんに声を掛けられ我に帰る。
そしてタクシーを拾い、家に帰った。
ダサイ。
私、ダサイ。
何、想いふけってたんだろう。
おめでとうも言えたし、満足・・・満足・・・。
うん、満足・・・・。